第139話 血だらけの花火
花火が打ち上がる。パチンパチンと目の奥で何かが弾けて、噴き出した液体が脳を焼いている。熱い、熱い。目の奥が焼ける。脳味噌が蕩けていく。喉は砂漠の砂を飲んだかのように乾いているのに、上手く飲み込めない涎が顎を濡らした。
「あぅ、あ」
漏れる声は泥酔した人の声にも、舌足らずな乳幼児の声にも聞こえる。呂律が回らない。何とか声を吐き出そうとしても、震える喉のせいで上手く発声できない。茹った肺がもがき苦しんで言う。狭くなった喉から何度も吐き出される呼気は炎で炙ったみたいに熱を持っている。
私の服を掴む仁科さんの、白い髪と肌が色を変えていく。燃える炎のように赤く赤く染まって……違う。これは私の目がおかしくなっているだけだ。髪や肌だけじゃない。周りに見えるハリネズミさん達も、壁も床も天井も、世界中が血の色に変わっていく。
背後で私を呼ぶのは誰だろう。東雲さん? ネズミくん?それすら分からない。大丈夫だから、心配しないで。と言いたくても開いた口から出てくる言葉は、結局呻き声としか形容できないぐちゃぐちゃの声だった。
汗も涙も勝手に溢れていく。体の制御が効かない。四十度近いのではと思うほど熱い体温が苦しい。震える手で仁科さんの腕を掴み引き剥がそうとした。あれ、掴んでるよね? 手から伝わる感触さえも脳に伝わりにくくなっている。私の手はしっかりと仁科さんの腕を掴み、軋んだ音を立てているというのに、その感覚は空気を掴んだときのような希薄なものだった。
薬で過敏になった神経は、苦痛も鋭敏にするのかもしれない。仁科さんの表情に変化が生じた。僅かに苦痛を滲ませ、眉間にしわを寄せる。
その顔を見ていると全身がぞくりと震える奇妙な感覚に襲われた。なに、と思っている間もなく、背中を駆け上ってきた震えが脳に達する。ドロリとした何かが放出される。焦っていた脳味噌のしわがその何かに触れた瞬間、ぷつりと弾け、純粋な悦楽を滲ませる。
「…………あはぁ」
泣きながら笑った私の声。その声すらどこか遠くから聞こえる。
そう思った瞬間、私は自分の頭が弾け飛ぶ音を聞いた。
きゃあきゃあと子供が笑っている。
楽しそうだ、と私は笑う。今日は天気がいい。透き通るような水色の空に乗ったふんわりとした白い雲が、穏やかな風にのんびりと揺られている。空の下、柔らかな草を素足で踏んで、ときには寝転がって、花の香りを含んだ空気を胸いっぱいに吸い込む子供達。無邪気な笑顔を見ると、こっちまで何だか楽しくなって、ああ、今日は素敵な一日になりそう、なんて思ってみる。
胸があたたかくなる幸せな景色。目を閉じて、ふっくりとした柔らかい子供達の声を聞く。と、ポツリ、頬にあたった雫に目を開けた。雨かな、と思いながら。
真っ赤な空から、大量の血が降り注いでいた。
あ、笑ってるのは私か、って。そのときに気が付いた。
「きゃはっ、あは、は。あっはははは!」
ぐにゃりと床に足が沈む。天井がメリーゴーランドみたいに回って、壁との境目を溶かし、ぐるぐると一つに混じり合う。賑やかな遊園地の音楽が壁を流れて部屋に満ちる。一つ、二つ、三つ四つ五つ六つ七つ七七七七。重なり合った音楽はもはやただの音の洪水で、頭が割れそうだ。
蛍光色のボールが空中に現れては弾け、鮮やかな液体を周囲にばら撒く。黄色が壁に叩き付けられ、青色が床で潰れ、赤が私の頭にぶつかって割れる。たらたらと流れた赤い汁は髪を汚し、額と頬を濡らした。唇に触れたそれを舐め取れば、甘くしょっぱく生臭い、不思議な味が舌に溶けた。ぷちぷちとした小さな粒を噛んで飲み込んで、床に押し倒した兎に微笑んでみる。
今私が押さえつけている薄汚れた白兎は、短い手足を懸命に動かして私の体を引き剥がそうとしていた。小さな獣なのにこんなにも力は強いのかと、面白くなる。
手の平から伝わる鼓動が激しい。薄い皮膚の下に小さな心臓があるのだ。こんなに小さいのに、私よりずっと小さいのに、心臓がある。指先に引っかかる毛を軽く撫でながら、白い皮をはぎ、肉を削ぎ抉じ開けた姿を想像した。そこには小さく弾む赤い実がある。私の左胸にもある赤い果実。
小さな鼻をひくりと動かし、真っ赤な目で私を凝視する白兎。通っていた小学校の飼育小屋にいた兎を思い出す。低学年のときはよく見に行っていたな。近くに生えていたたんぽぽを友達と差し出して、食べた食べたと喜んでいたっけ。
ああ、可愛いなぁ。白くて、柔らかくて、頬ずりをしてしまいたい。えへ、へへへ。可愛いなぁ、小さいなぁ。私みたいな大きな生き物に、手も足も出ないんだ。
「いーこ、いぃこ……。かあいぃねぇ。えへへ」
おかしいな、声が出ない。自分ではハッキリと喋っているつもりなのに、ちっとも舌が回らない。皆に私の声はどう聞こえている? あぅ、とか、うぇとか。変な言葉にしか聞こえないのかな。皆。ね、皆って誰?
顎が揺れた。突然襲った衝撃に体をふらつかせる。疑問符を浮かべて舌を見れば、白兎が延ばしている小さな拳に、べっとりと蛍光色のオレンジ色が付いているのに気が付いた。鮮やかな色に手を伸ばそうとすれば、兎が繰り出してきたもう片方の手のパンチが私の肩を殴った。鼓動に合わせて痛みを訴える肩から、ぶわりとピンク色が滲む。
「ぎゅ」
まっすぐに立った白兎の耳に齧り付き、噛み切れそうなほど力を込めた。血色の浮いた耳は薄く、歯で噛めばコリッと軟骨を押し潰す音がする。皮が歯を滑らせるも、より顎に力を込めれば歯の先端がぷつりと皮膚を裂き、溢れた液体で私の口を濡らす。
噛み千切れそうだと思った。だけど、鋭い衝撃が腹に当たり、ぎゃうっと犬みたいに吠えて仰向けに倒れてしまう。お腹で爆発が起こったみたい。四肢を痙攣させた私は大量の唾を吐き出しながら視線を向ける。片足を伸ばした状態の白兎が私を睨んでいた。蹴られたんだ。すっごく痛い。小さいのに、こんなに強い攻撃が出せるんだ。なんて呑気に考えていた私は、ぴょこんとお腹の上に乗った白兎をぼんやりと見つめていた。
あれ、何だか体が大きくなってはいないだろうか。一メートル、いや、もっと。私よりももう少し背の高い白兎。小動物は成長が早いけれども、いつの間にここまで成長したのだろう。
大きな兎は私の頭を掴み、床に叩き付ける。さっきのお返しとばかりに乱暴に。兎の手の平は大きくて、それに比べれば私の頭なんて卵みたいに小さくて脆いだろう。
ガン。ゴン。ガン、ガン。グシャ。
「あは、は。ふ、うぅーっ。ふ、えへ?」
頭の中がくしゃくしゃになって、私はただ泣きながら赤子みたいな声を出す。
痛いと感じたのは最初の一瞬だけだ。あとはただ衝撃だけが襲ってくるばかりで、もう訳が分からなくなって、楽しくなってくる。
白兎が私をいたぶるたび綺麗な花火が打ち上がる。色とりどりの花火が空中で弾け、鮮やかな光を散らばせた。その光は本物の花火のように余韻を残し消えていくことはない。キラキラと眩しい輝きのまま空中に広がっていく。何発も打ち上がった花火によって、眩い光はたっぷりと宙に飛んでいた。キラキラ光る輝きを見上げると、まるで星空を見上げているような錯覚に陥る。
綺麗。お星さまがこんなに綺麗だよ。ほら、見てごらんようさぎさん。
ぼんやりと白兎の手を取る。白兎は突然の私の行動に攻撃の手を止めて、まじまじと顔を覗き込んできた。滲んだ視界では白兎の姿をハッキリ映せない。白い毛並みの輪郭が空中に溶けていく。丸くパチリと開いていた赤い目がどんよりと濁った人間の目に変わった。
「…………にぃ、な、さ?」」
「……ねこー?」
白兎ののんびりした声がとろりと耳に溶けていく。猫? 違うよ、私は人間だよ。私はにへっと笑って、目でそう伝えた。白兎も同じ顔で笑って、右手で私の頬を撫でる。丸くなった左手は私の顔を殴った。
パチパチと弾ける音がする。目の奥から、脳から、心臓から、全身から何かが弾ける音がする。その音を聞くたび思考がぐずぐずに溶かされて目の前が虹色になっていく。喜楽の感情が溶けだして私の脳を焼き、唇は無意識に弧を描く。
なんだっけ。なにしてるんだっけ。今は朝? 学校はお休み? お父さん、お母さん、お散歩行こうよ。約束してたでしょ。
楽しいねー。お花畑、凄いよ、いーっぱいお花が咲いてる。かんむり作ってあげるね。被せてあげる。ほら見て上手でしょ? ね、えへへ、二人分。
頭撫でてくれるの気持ちいいな。嬉しいな。和子ちゃん、和子、って名前呼んでくれるの幸せだな。もっといっぱい名前を呼んで。もっとぎゅってして。大好き。二人ともだぁいすき。
「さあぞのしゃ。しののえ、さ…………? あぇ?」
私、なにしてるんだろう。
「っ……! あ、かは、ひっ」
肺が引くついて、まともに酸素を取り込めない。酷い寒気に体を震わせた。全身を襲う恐怖に、目を見開いて泣きじゃくる。
目の前に白兎が、違う、違うってば。仁科さん。仁科さんがいて。私は、仁科さん、を、掴んで。離しちゃ駄目。皆の方に行かせちゃ駄目。
「しの、ぇ、さっ。いののぇさ……! しのぉえさ、っ、のめしゃん、しのぇ、さ!」
何度も叫ぶ声は言葉として聞き取れず、回らない舌があぅあぅと小さな音を吐き出すにすぎない。肺を潰して叫んでも私自身の耳に辛うじて届くほどの小さな叫び。
己の意識を保つため、私は何度も大好きな人の名を呼んだ。気を抜けばすぐ意識は夢の世界に旅立ってしまう。仁科さんを抑え込もうとする今も、意識がぷつんぷつんと途切れては戻り途切れては戻りを繰り返している。自分が自分じゃなくなっていく感覚。生と死が繰り返し襲いかかってくるような絶望に、気が狂いそうだ。
「た…………」
続けて溢れそうになった言葉を殺すため唇を噛む。熱いも何かが顎を伝った感触に、血が出たのだと気が付いた。けれど薬のせいで痛みは感じない。
何が助けてだ。
「ふっ、ふぅっ……ふー!」
「うぅ…………あぐ、う――~~」
普通は。
普通はさ、こんなことしないよ。
人を殴ったり蹴ったり、傷付けたり殺したり。そんなこと人は普通しない。
私も。東雲さんも、仁科さんとネズミくんも、ハリネズミさんとヒツジちゃんも。ごはんを食べて、買い物に行って、天気のいい日に散歩して、誰かと笑って、布団に潜って寝る。そんな人達だ。どこにでもいる人達だ。だけど私達は誰一人として普通じゃないんだ。
まともな人間は他人を傷付けない、殺さない。そんな人間はこの場にいない。皆どこかおかしい。そんな人達を助けてくれる人なんていない。
私もそうだ。人の生死を握る世界。そんな世界に飛び込んだ時点で、まともな人間じゃない。ネコという名をもらったときから、人間ですらない獣になった。
自分に薬を打って、血を流して、狂乱した叫び声を上げて戦っている。そんなこと普通はやらない。やらないんだよ。
私も普通じゃないんだよ、東雲さん。
「あああああっ!」
仁科さんの喉に噛み付く。白い喉仏からゴリ、と音がして噛み付いた喉奥から呻き声が聞こえた。噛み付いた傷から溢れた血が、白い肌の血色を補おうとしているかのように喉を赤く覆う。
仁科さんを押さえ込む。歯が皮膚を裂き、溢れる血が舌に広がる。暴れる仁科さんに蹴られても、私は決して喉から口を離さなかった。血走った目を彼に向け、より歯に力を込める。
ああ、猫ってこうやって兎を捕食するのかな。なんて頭の隅でぼんやりと考えて笑って。そこでまた、私の意識はぷつんと途切れた。
「ネコ!」
東雲さんの声がした。
気が付けば、私はぼうっと突っ立って何もない空中を見つめていた。
あれ、と我に返って最初に、顎を濡らす何かに気付く。腕で拭えばべたりと血が付いたのを見て、鼻血を出していることに気が付いた。頬を切ったのか、それとも喉か分からないけれど、口からもほんの少しだけど血が溢れている。
背後から強く肩を掴まれた。振り向いた私の顔を見た東雲さんは、ネコ、と安堵と心配を半分ずつ混ぜた顔をする。
「体は」
「…………へーき、です」
嘘つけ、と彼は言う。薬はまだ抜けきっていないと思う。これだけ怪我をして痛みも疲れもあまり感じていないのだから。でも声に力は戻ってきているし、意識が途切れそうになることもなくなっていた。
東雲さんの存在を近くに感じ、ふらりと足から力が抜けそうになる。慌てて支えてくれた東雲さんの腕に掴まり、へへ、と笑った。
「…………う」
床に倒れている仁科さんが呻く。彼もボロボロだ。服も肌もあちこちが破け、黒い痣が全身に見えた。私がやったのだ。
駆け寄って抱き起すべきかと思った。だけど動きかけた足は、獣臭さの残る彼の唸り声を聞いてピタリと止まる。
「まだ薬が残ってるっていうのか!」
クソ、と東雲さんが私を背後に庇う。迷いなく銃口を仁科さんの肩に向ける彼を見て、本当に撃つ気だと分かった。これ以上暴れられてはこちらがもたない。肩や太ももを狙って動きを鎮静化できればいい。だがもし、それさえできなかったら。
最悪の想像に震える足。そこをすり抜けて、ネズミくんが駆け抜けていった。不意打ちすぎる動きに私も東雲さんも反応が遅れ、ネズミ、と東雲さんが叫んだときにはもう、彼は私達の手が届かない距離まで、仁科さんの方へと走っていってしまった。
当然ながら仁科さんの手がネズミくんへと伸びる。だがあえて彼はそれにしがみ付いた。そのまま仁科さんの服にしがみ付き、よじ登る。あっという間に仁科さんの顔にしがみ付いたネズミくんは、ぐわっと大きく両手を広げ、力強く両頬を叩いた。
「めぇさませ――――!」
大絶叫だ。キィンと耳が痛くなるほどの声量に、思わずハリネズミさんとヒツジちゃんも悲鳴を上げる。
耳に手を当て驚いた顔のままネズミくん達を見た。怒った仁科さんがネズミくんを投げ飛ばしやしないかと不安になった。だけど彼はネズミくんを引き剥がそうとしていた手を止め、ゆっくりとそのまま移動させる。骨ばった両手が丸い頭を掴み、持ち上げる。ネズミくんの膨れた両頬を仁科さんの手が押せば、ぷひゅ、と口から空気が漏れた。
「おはよ、マスター!」
「…………おはよ」
理性の伴った仁科さんの声に、私と東雲さんは揃って大きな溜息を吐いた。
私達に気が付いた仁科さんがネズミくんを抱えてやってくる。私の姿をまじまじと見た彼は、どうしたの、とのんびりした声で言った。
「ボロボロだ」
「……大丈夫です」
ガンッと床を叩く音が、私の肩を震わせた。
ハリネズミさんが鋭く私達を睨みつけている。彼女は何度も苛立たしげに床を蹴り付け、何度も舌打ちを繰り返した。
「せっかく面白い喧嘩が楽しめると思ったのに。結局誰も死なねえのかよ。もう一発ぶち込んどくか?」
ハリネズミさんが無作為に銃口を私達の間で揺らす。ぼんやり立つ仁科さんの足をぐいぐい引っ張ってハリネズミさんを睨むネズミくんを見て、彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「そいつ、下水道で育ったんだっけ? 体売ってた母親がマフィアとの間にガキをこさえたはいいものの、子供を組に入れられそうだからって追手が来ない下水道に逃げ込んだんだってな。子供のためにっつってもよぉ、クソみてえな汚いところで育つより、マフィアの下っ端として育った方がよっぽどマシな生活が送れたんじゃねえの、なあおい?」
彼女達に何もかもを知られている。私達が掴んでいない情報までも全て。
ネズミくんを引き寄せて腕に抱きしめれば、ハリネズミさんは鼻で笑う仕草を見せた。
「そうだな、子供は守りたくなるよな。小さくて可愛いもんは、愛玩にもってこいだ」
「子供をペットみたいに語らないでください」
「ペットなんだよ」
言葉に詰まる。反論しようとして、彼女の視線がヒツジちゃんに向けられていることに気付いてしまう。
「ペットにされる子供がこの街には溢れてんだ。こんな小さい子供を玩具にして喜ぶような連中がたくさんいるんだ、ここには。……あたしは馬鹿だし人殺しのクズだよ。それでも、そんなあたしでも、許せないようなクズがたくさんいるんだ」
ハリネズミさんの指がヒツジちゃんの髪を掬う。サラサラと絹糸のように繊細に流れる白い髪。ハリネズミさんがヒツジちゃんを見つめる目は少しだけ優しかった。姉が愛する妹に向けるような慈悲のこもった眼差しだった。けれど私達を見る眼差しには、優しさなど欠片さえも残さない。
「殺し屋も殺人鬼も同じ人殺しだ。お互いただのクズだよ。だけど同じクズでも、両者には決定的に違う点がある。目的のために枷を外せるか、外せないかだ」
「……………………」
「殺し屋は人を殺すことに理由を付けようとする。金のためだ、依頼されたからだ。殺す前だろうと後だろうと、とにかく理由を付けたがる。『仕方なかったんだ』って大義名分を欲しがってる。だけど殺人鬼は違うよ。あたし達は人を殺すことに許してもらえるような理由なんていらない。今回の件だって、自分達の目的のために行っているんだ」
「その目的とは…………『明星市の崩壊』か」
東雲さんの言葉は殺人鬼達の目的をこれ以上ないくらい的確に表しているものだと思った。だけど、ハリネズミさんは馬鹿にしたように笑って彼の答えを否定した。
ヒツジちゃんが静かに目を伏せ、ハリネズミさんを見る。ハリネズミさんは同じ視線でヒツジちゃんに答えてから、東雲さんに問いかけた。
「殺し屋。お前達がここに来た理由はなんだ?」
「そんなことお前に言ってどうなるって……」
「いいから答えろよ。あたし達を倒して力を証明したいのか? お前達のうち誰かが頂点に立ってこの街を支配したいのか?」
「……………………この街を守るためだ。お前達が行おうとしている、この街の崩壊を食い止めるために、俺達は」
「あたし達も同じさ」
東雲さんの言葉は途中で途切れる。理解ができない顔で私と東雲さんは彼女達を見た。
同じさ、とハリネズミさんはまた答える。
「あたし達殺人鬼は、明星市を救おうとしているんだよ」