第121話 追跡
店の外は何も変わりない。
行き交う車も、周辺で駄弁っている人々も、私達が店に入る前と何一つ変化が見られなかった。あれほど暴れたのだ。物音だって聞こえただろうに、皆些細な関心さえ持っていない。
息をすれば、排気ガスの煙が冷たく肺を満たす。無言で歩き出せば、爪先に当たった小石がカラカラと地面を転がって下水に落ちた。
夜の闇はどんどん深くなっていく。それは夜空が暗くなっていく、という意味ではなくて。この区の奥に進むごとに、体が重くなっていくような、そんな気分の闇だ。
蝶さんに教えてもらった道に嘘はなかった。私達は行き止まりにぶつかることもなく、先へ進むことができた。如月さんの作った簡易式の地図と蝶さんの情報を比べながら、少しずつ、けれど着実に目的地へと近付いて行く。
蝶さんは。私達がこの街にやって来たことを上はとっくに知っていると言っていた。
私達殺し屋側が如月さんの情報屋をよく利用しているのと同じく、殺人鬼側にも有能な情報屋はあるのだろう。第十区には数多くそういう場所が存在しているはずだ。
とっくに。それがいつからかは分からない。こうしてできる限り急いだって、相手は既に万全の準備を整えているかもしれない。
だがそれでも、足を遅くすることも、一時撤退することも、私達の選択肢にはない。
「止まれ」
聞き慣れぬ声に私達は身構えた。レンガ道の広がり、ぽつぽつと雑貨店やカフェが道の左右に並ぶ閑静な通りでのことだった。
最初は視界の中に誰の姿も映らなかった。だがすぐに、建物の陰から、塀の裏から、幾人かの人影が出てくる。暗闇の中に光る目が、私達を凝視する。
「あんたらここ初めてだろ。この道はこの時間帯、俺達が使ってんだよ」
殺人鬼グループの連中かと思ったが、そうではないらしい。単なるならず者の集団だ。年齢も背格好もバラバラだが、全員がその目をとろんと微睡ませたり、爛々と輝かせている。その目の色は以前、ティパちゃんのライブで見たときと同じものだった。
周囲を憚ることなく煙草のようなものを吸っている。中身は普通の煙草じゃないはずだ。薄い煙を飛ばしながら、彼らは気分が高揚した顔で話しかけてくる。
「ここ通りたい? 通っちゃう? どうしよっかなぁー、お姉さんとこっちの子が遊んでくれたらいいんだけどなー」
「…………面倒ね、別の道を行くわよ」
真理亜さんがかぶりを振って引き返そうとする。ちょっと待ってよ、と笑いながら男の人が真理亜さんの腕を掴んだ。途端真理亜さんの頬が引き攣り、勢いを付けて彼の腕を払った。
「触らないでっ」
「はぁ? ……なんだそれ。ムカつく。いーじゃん、楽しもうよお姉さん」
嫌らしい笑みを浮かべた彼らが私達を囲む。面倒なことになった、と露骨な不快感が私の顔に浮かんだことだろう。
彼らに話は通用しそうにない。じっとしていても時間を消耗するだけだ。強行突破しかない、と隠していたナイフを取り出そうとしたとき、一人の男が私の肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
反射的にその手を叩き落として飛び退る。その反応に顔を顰めた男が、んだよ、と声を荒げてもう一度手を伸ばそうとしてきた。素早くナイフを取り出し牽制のため突き付けようとする。
パン、と小さな発砲音が二発同時に聞こえた。私のナイフを視界に入れるより先に、男の体が誰かに殴られたように地面に倒れる。眉間と鼻先に一発ずつ。パチクリと目を丸くした私の横で、数秒たってようやく状況に気が付いた誰かがうぎゃっと声を上げる。
「人に失礼な態度を取るのはどうかと思うわよ」
「急いでいる。どけ」
東雲さんと真理亜さんがそれぞれ言って、一瞬目を合わせてすぐ顔をそむける。二人は硝煙の揺らぐ銃を同時に構え直して相手に向けた。
仲間が死んだというのに彼らはさほど取り乱した様子は見せなかった。薬をやっている最中だからだろうか。それとも、目の前で仲間が死ぬことに慣れているのだろうか。
仲間の仇ではなく、自分達に害を成すものに対しての怒りが湧いたのだろう。みるみるうちに真っ赤になっていく顔が恐ろしい。今にも飛びかかってくるだろうというそのとき、真理亜さんが私と東雲さんより一歩前に出て言った。
「先に行って」
直後、飛びかかって来た男を一人真理亜さんが至近距離から撃つ。ガクリと倒れこもうとする男の胸に足を乗せ、他の人に向かって蹴っ飛ばした。くるりと振り返って別の男の眼球目がけまっすぐデリンジャーの銃身を振り下ろす。目を押さえたその人の眉間に尖った拳を突き入れる。
「東雲、和子。先に行きなさい。この人達は止めておくから」
そんな、と真理亜さんの背に驚きの声を投げる。蝶さんとの戦闘でボロボロになった彼女は、手当てで少しは回復したとはいえ本調子ではないだろう。
現に腕に巻いた白い包帯に血が滲んでいる。激しく動いているせいで結び目が解れ、白い布が風に揺れる。拳やナイフを振るうたび傷だって痛むはずだ。
「無茶ですよ! 今の真理亜さん一人でなんて!」
加勢しようとした私の肩を東雲さんが掴む。首を振りその場を離れようとする彼に、私は怪訝な顔を向けた。
「真理亜さんを置いていくんですか!?」
「置いていくわけじゃない。任せるだけだ」
悲鳴が上がり、見れば倒れた男の手の甲を真理亜さんがヒールで踏み付けていた。血が滲むほど強く踏み付けた真理亜さんは、そのまま大きく跳び上がり別の男に大きくナイフを振るう。疲れだってあるはずだ。でも彼女の動きからは疲労も苦痛も大きくは感じ取れない。隠しているのだろう。でも、それにしたって彼女は次々相手を倒していく。私も東雲さんもほぼ加勢していないのに、彼女一人で次々に男達を倒していく。
強い。改めてそんな感情が胸に浮かんだ。真理亜さんの目と私の目がふと合う。濡れたような美しさを持つそのまつ毛が伏せられ、その下の強い意志を感じさせる瞳が優しく私を見つめた。
「私を誰だと思っているの?」
人魚姫よ、と彼女が笑う。
東雲さんに背を押され、私はつんのめるようにして前に駆け出す。東雲さんが近くの男を蹴り飛ばし、隙間を掻い潜って走る。
鋭い眼光を真理亜さんに向け、彼は言った。
「頼んだ」
「任せて」
短いやりとりを交わした二人の口元が、一瞬だけ弧を描く。
私は敵とやり合う真理亜さんに視線を向けていたが、唇を噛み、まっすぐに前を見て走り出した。
第十区の奥に行くにつれて、段々と空気がおかしくなっていくのを感じた。
賑やかな夜街の風景の中に。ぽつり、ぽつりと異様なものが見える。それは、道端で平然と注射器を扱っている人の姿だったり、裸体に近い姿でふらつく女性だったり、虚ろな目で空を仰ぐ子供だったり。
普通の街に紛れるおかしな光景。だけど周囲の人々はそれを気にする様子もなく、避ける様子もない。友達を談笑をしながら歩いていた青年が子供にぶつかっても、視線さえ向けず存在を無視して通り過ぎる。
私達の目に異質なものとして映っているそれらは、実は幽霊なのではないかとさえ思う。第十区の住民達にはそれが空気と同じ存在にしか映っていないんだ。
足が止まった。私と東雲さんは同時に顔を顰める。視線を交わし、どうしようかと無言で伝え合う。
目の前の道が大勢の人で埋まっていた。大通りの歩道から道路にまではみ出して、老若男女問わない何百という人がひしめき合っている。一様に顔は赤い怒気色に染まり、大声で罵声を発していた。
数十メートル先にも、同じく怒り狂った人々がこちらを向いて罵声を飛ばしている。今にも爆発しそうな二組のグループ。そのことに気が付いた私達はこの場を離れようと振り返り、またも同時に嫌な顔をした。
次々と人が輪の中に加わっている。元からグループを成していた人の友人らしき人もいれば、興味本位で入って来た様子の人もいる。そして加わった人々は意味も分からないまま周りに同調し、罵声を飛ばしていた。
周囲の喧騒から読み取ったこの対立の原因は、あまりにも馬鹿馬鹿しいものだった。最初は少人数のグループ同士が、ちょっとしたことで喧嘩を起こしていたらしい。それに興味を持った人々が状況も理解していないまま次々と加わりはじめ、これほどの大人数になってしまったようだ。
訳が分からない。喧騒と理解できない光景に頭を痛くする私の隣で、東雲さんが溜息を吐く。
「ここの人達、血の気が多すぎませんか?」
「…………そうだな」
第十区の住民達を理解することはできないと思った。
環境や経緯から、仕方なくこの区に来るはめになった人だってきっといる。だけど、ノリや好奇心で人を殺す人も、面白そうだからと感じたままに犯罪を起こす人もいる。感情のままに動く様は、まるで動物のようだ。
人混みを出ようとしても、ギュウギュウに押されるだけでちっとも動けない。そうしているうちに喧騒は一段とうるさくなり、人の波がざわりと蠢く。向かいのグループの人達も同じ動きをしていた。
まさか、殴り合いが始まるのか。こんな大人数で。
渇いた笑いが零れる。頬にじわりと滲む汗を感じたとき、不意に手を握られて肩が跳ねる。東雲さんが強く私の手を掴んでこちらを見つめていた。
「さっきのように走り抜けるぞ。倒れるなよ、死ぬぞ」
「ここを…………分かりました」
「手を離すなよ」
「はいっ」
横にも後ろにも抜けることができないなら、突っ切った方が早い。東雲さんの手を握り返し唾を呑む。この状況に感じる緊張か、それとも東雲さんと手を繋いでいることに対する思いか、ドキドキと胸が痛かった。
荒波のように騒がしかった喧騒に一瞬の空白が生まれた。その瞬間を狙ったかのように、誰かの雄叫びが波を貫く。東雲さんの手が、痛いほどに強く私の手を握った。
前の人に付いていくように、後ろの人に押されるように、私達は駆け出した。一瞬でも気を抜いたらいけない。周りと歩幅を合わせなければいけない。そうしないと、足がもつれて転んでしまう。何人か倒れた人の姿が見えた。だが周囲の人々はそれを助け起こすこともなく、何百という靴底が地面と同化したその人を踏んでいく。
先頭が相手とぶつかった。すぐに対立していた二つのグループが混ざり合い、もみくちゃになる。こうなってしまえばもはや目の前にいる人間が向かい合っていたグループなのか自分がいたグループなのかも分からないだろう。けれど皆、思うままに拳を振るい、噛み付き、獣のような声で騒いでいた。
誰かの頭が私の頭にぶつかる。奮われた拳が額を打つ。固い靴で脛を蹴られ痛みに呻く。
人に押され倒れそうになるたびに東雲さんに引っ張られる。逆に彼の死角から攻撃が来るたび、私が彼を引っ張って回避する。そうして波を掻き分けて進んだ私達は、ようやく喧騒の塊の中から抜け出すことができた。
「おい待てよ、そこのやつら!」
だけど血気盛んな人々はそんな私達にまで目を付ける。バットを振り回して追いかけてきた少年二人の姿を見て、私と東雲さんは息を吐く間もなくまた駆け出した。
どうにかして撒けないかと走りながら周囲に視線を巡らせる。と、路上にエンジンをかけっぱなしで止まっている車があった。車高が低い艶々とした赤色の格好良い車だ。他にも似たような車が何台か止まっている。持ち主は見当たらない。近くにいるのかもしれないが、エンジンをかけっぱなしだなんてあまりに不用心だ。
助手席側の扉に手をかけるとあっさり開く。飛び込むようにして運転席に転がり、東雲さんも乗り込んだのを見て全ての鍵を閉める。追い付いた少年達がバットを振るおうとしてきたが、東雲さんが銃を取り出し彼らに構えるとサッと一気に顔を青くさせ身を屈めて逃げていく。だが後ろに回った彼らはそこに止まっていた車の窓ガラスを揺り動かしていた。何をするのかとバックミラー越しに見ていれば、彼らはバットで窓ガラスを叩き割り、運転席に潜り込もうとしていた。車ごとぶつかって来ようとしているのだろうか。確かにそれなら、銃を向けられても生身よりは多少安全だ。
だがそうこうしているうちに車の持ち主達が戻って来たらしい。刺青やピアスをジャラジャラと揺らす、見るからに厳つい男達が数人。彼らは自分達の車を荒している少年達を見て顔色を変える。大声で怒鳴りながら車に駆け寄り、少年達を引きずり出して地面に倒していた。彼らの注意が少年達に向けられているうちに、こっそり出ていこうかと私と東雲さんは顔を見合わせる。
狭い車内でそっと体を動かし、ふと後部座席を見る。シートの上に無造作に放られた雑誌やら服やら。床にも色んなものが溢れている。お菓子の空袋とか、手足と口を縛られた女の子とか、ぐちゃぐちゃに散らばったサンダルとか、薬品らしきものが詰まったクーラーボックスとか。
「……………………」
目を閉じ口端から涎を垂らした女の子。胸が上下していることから死んではいないが、意識はない。目の端には涙の痕があり、足元に放られた可愛らしいピンク色の携帯は画面が割れている。
私と東雲さんはしばし無言だった。そうしているうちに後ろから聞こえる声が大きくなり、顔を上げれば私達の存在に気が付いた男達が顔を険しくさせていた。
東雲さんが苦虫を噛み潰したような顔をして銃を構える。しかし窓を開けようとした彼を私は制し、向けられた怪訝な顔に首を振る。
「この子、誘拐されてますよね?」
「そのようだな」
「私達が逃げられてもこの子はまた連れ去られちゃいますよね?」
「そうだろうな」
「弾は温存した方がいいですし」
「……じゃあどうする?」
「彼らを撒いて、せめてこの子を安全なところで下ろして、私達は目的地に向かう」
「…………どうやって?」
「シートベルトを締めてください」
東雲さんが天を仰ぐように手で顔を覆う。私はハンドルを握って足を下ろす。焦った男達がこちらに駆け寄って来た。ちょっと借りますね、という意味を込めて足を踏み、エンジンをふかす。唸る車に思わず彼らが車から離れた隙に、私は大きくハンドルを回し車体を上下させて走り出した。
「安心してください東雲さん。前に運転したときから、ちゃんと勉強しましたから。何でか如月さんが運転用の教材くれたので」
「…………そうか」
「十八歳にもなりましたし。まあ、受験終わってから行こうと思ってるから、まだ教習所には行ってませんけど!」
車は激しく唸る。スピードは前に運転した車より、ずっと早い。そういう風に改造されているのかもしれない。ビュンビュンと車が風を切る感覚は久しぶりでハンドルを握る手に汗が滲む。緊張と興奮でドキドキする私の横で、東雲さんは銃を構え警戒しながらもその顔を青くしていた。気分でも悪いのかな。
だけどスピードは落とせない。予想通り、私達を追って一台の車が爆走してきていたからだ。
相手が銃を持っていないことは幸いだった。だが獲物を取られた彼らはそう簡単にはあきらめてくれないだろう。
制限速度を守って走る他の車をどんどん追い越していく。青信号を走りぬけ黄色信号をかっ飛ばす。さて、とハンドルを握りながら唇を舐めた。どうやって撒こうか。
蝶さんが教えてくれた道のりの中には確か、海を渡る順路があったはずだ。大きな海橋を通って向かった先の陸地に目的の建物がある。そこへ行くには海橋を渡るか船に乗るかしかない。
突然電話が鳴った。東雲さんがちらりとそれを一瞥し、スピーカーにして通話状態にする。
『やあ、そちらはどうだい? 芋虫は倒せたか?』
「とっくに倒した。何の用だオウム」
『君達が生きているか死んでいるかの安否確認かな。なんだオオカミ、随分と疲れた声してるじゃないか』
如月さん、と運転をしながら私は声を張った。
「安否確認ってことは、他の皆との連絡も取ってるんですよね? 皆は? 大丈夫なんですか?」
『ああ、まだ全員生きてるよ』
「そうですか、良かった……」
ほっと息を吐き安堵したが、直後、左折してきた車とぶつかりそうになり咄嗟にハンドルを切る。前後のタイヤが熱くアスファルトを擦り、悲鳴のように高い摩擦音が響く。
「っ……如月さん! 今から言う場所の周囲を、できる限り緻密な地図で送ってもらうことってできますか? できるだけ早く!」
『こちらでも最新の情報を探っているから、前に教えた地図よりは精密にできると思うけれど……一体、オオカミとネコは今何をしているんだ?』
「夜のドライブだ」
東雲さんの答えに、ああ、と如月さんが納得した声を出す。何故か慈悲の込められた声だった。
周囲の建物を元に東雲さんが情報を告げると、要望通り少しもかからないで地図が送られてきたらしい。東雲さんがそれを見て私に尋ねる。
「どうする?」
「橋へ向かう道は、この先をまっすぐ進む以外に何かありますか?」
「道? そうだな、住宅街、路地、高速道路……いやこれは混んでるみたいだ」
「分かりました」
ハンドルを切り道路を変える。開けた道である上、こちらは交通量も少ない。アクセルを踏みにじり速度を上げる。遥か先で点滅していた青信号が黄色に変わる前に頭上を通り過ぎていく。
「三つ先の交差点の先に高速道路へ繋がる道がある。住宅街を進むなら左だ」
「路地へは?」
「二つ先の信号を左に曲がって、すぐ脇に逸れた道がある。そこに逃げ込むのか? 一旦後ろを撒かなければ、乗り捨てるのも難しいぞ」
車を乗り捨てて後部座席の彼女を抱えつつ路地に逃げる。果たして可能だろうか。後ろの彼らにいつ追い付かれるかも分からない。
二つ目の信号はあっという間に通り過ぎる。後ろの車も同じくらいのスピードで私達を追い続けてくる。
「……………………」
アクセルから足を離した。徐々にだが車の速度が落ちていく。後ろの車との距離が縮まり、運転手の怒り狂った顔が大きくなっていく。
「貸してください」
「おい!?」
パッと東雲さんの構えていた銃を取った私は、運転席の座席の上に膝立ちになり、座席に捕まりながら背後に向けて銃を撃った。
窓ガラスが砕け銃弾が後ろの車に飛んでいく。念の為狙いを逸らして撃ったため彼らにもその車にも辺りはしていない。だが見るからにその顔が強張った。そしてすぐ、更なる怒りに顔が歪み、一層速度を上げてくる。
ストンと座席に滑り降り、不安定に揺れていたハンドルを掴む。目の前ギリギリに迫っていた車を急いで避けてから銃を放るようにして東雲さんに返す。
「ありがとうございました」
「おっまえ…………! 馬鹿、この、馬鹿ネコ!」
「えー、そんなに怒らないでくださいよ」
「免許も持っていない人間が荒い運転をするな! 弾を温存しておいた方がいいって言ってたのは誰だ? 気分を高揚させて、おかしな真似をするんじゃない!」
「威嚇射撃は必要経費かなって。ごめんなさい東雲さん。あと、怒るのはもう少し待ってください」
「ああ、降りたら覚えておけよ」
「うーんと……っていうか、まとめて怒られる方がいいかなって」
「…………どういうことだ?」
えへ、と笑顔を浮かべて東雲さんを見る。彼は何かを察した様子で顔を強張らせた。