Face to Fake
シンと静まり返った子四つ刻。面積的には大きくはないが、それでも立派な古屋敷の廊下を、柔らかい羽で撫でるように、小さな影が走っていた。
影は、廊下の曲がり角にさしかかると、向こうから見えるすんでのところで足を止め、身を隠すようにしゃがんだ。
そしてのぞきこむように曲がり角の先を見た。人の気配がしたからだ。
廊下の先にはふすまがすこし開いた居間があり、そこから部屋の光が、薄暗い廊下にもれている。
――こんな時間まで起きてるのか? もう寝てると思ったんだけどなぁ。
影は、盗みに入った身としては、そろそろ寝て明日に備えてほしいものだと、勝手な心配をする。
――依頼の品は……、むこうかなっと。
影は、主に気付かれぬよう、音を立てずに居間の前を通り過ぎていった。
影が行き着いた場所は、屋敷の奥にある物置部屋だった。
戸は取手が付いているタイプのものだ。鍵穴はない。
戸をゆっくりと静かに開けようとしたが、あまり使われていないのか、建て付けが悪いため、鍵がついていないのだろうと、影は思った。
「こなくそっ!」
音を立てないよう慎重に、かつ大胆に戸を開ける。
部屋に風通しの窓があり、そこから風の音が聞こえてきた。
――通気はいいみたいだな。
影は一息つくと、物置の中へと入っていった。
その瞬間である。
屋敷内の、ありとあらゆる明かりがついた。
姿を表した影は、近代日本には不釣り合いな、紺色の忍装束を着ている。
その背丈は、小学生ほどであった。
「なぁははははははっ! もう逃げられんぞ。盗人」
忍のうしろから、甲高い嘲笑が聞こえ、影は振り向かずにそちらを見やった。
「あらら? お早いことで、クソオヤジ」
忍は慌てるどころか、「呵々々」と笑う。
「この屋敷には目下五千万は下らない焼き物が保存されているからな。新聞にそれが載った瞬間、お前が盗むとにらんだが、読みが当たって嬉しいわぁ」
忍を取り囲むように数十人の警官があらわれ、彼らの中央に立っている中年刑事が大笑いする。
警官の名は石川薫警部補。『かおる』という女性のような名前ではあるが、立派な男だ。
「そういやぁ、そんなこと書いてあったっけ?」
忍は、首をかしげる。
「とぼけても無駄だっ! 今日こそ年貢の納め時!」
「年貢って、まだ五月なんだけどな」
忍はからかうように言った。
「うるさいこの泥棒がぁっ! お前たちやつを捉えろ」
石川警部補の号令とともに、影のまわりにいる警官たちが、いっせいに影を捕まえようと飛び込んだ。
それをひらりと、まるで風にゆれる葉のように、忍は自分を捕まえようとする警官たちの手から抜けていく。
捕まえそこねた警官たちは、累々と積み重なっていった。
「クソオヤジ、年貢の納めついでにひとつ聞いていいか?」
忍はゆっくりと、余裕のある声で石川警部補にたずねた。
「なんだ? 負け惜しみか?」
「儂がいるのは、いったいどこだっけ?」
忍の言葉に、石川警部補はハッとしたが、
「バカかお前は? その部屋の窓は風は通せても、蚊すら通れない鉄格子。しかも屋敷の周りには警察庁の警官数百名が包囲している。逃げようにも逃げられんぞ」
その言葉に、影は広角を上げた。
「つまり、煙は簡単に晴れないってこったな」
そう言うや、忍は懐から丸い塊を、忍ばせた左手指の間の数。四つほど取り出した。
その塊には、白い糸が出ている。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前っ!」
右手人差し指と中指を立てて、虚空に九字を切るや、糸に火がついた。
「――しまったっ!」
石川警部補が忍のやることに気付く。が時すでに遅く、忍は火がついた四つの塊を、地面に叩きつけるや、そこから白煙が立ち上がった。
「くそっ! 毎度毎度忍者みたいなことしよってっ!」
石川警部補は咄嗟に腕で目をかばった。
視界をさえぎる煙は厚く、隣に誰がいるのかすらわからない。
その場合は経験上、あまり動かないほうがいいと判断していた。
逆に慣れていない周りの警官たちが慌てふためいている中、かすかに、物置の中から、鈴のような物音が聞こえ、
「彼奴はまだ物置の中だ! 煙が晴れるまで全員気を抜くなっ!」
石川警部補はゆっくりと、物置があった方へと歩み寄った。
ゆっくりと、煙が晴れていく。
「全員、中に突撃っ!」
石川警部補の声とともに、何人かの警官たちが物置の中へと入っていった。
「警部補っ! 奴がいません」
「そんなはずはないっ! どこかに隠れているはずだ!」
石川警部補の怒鳴り声に、警官たちは背筋を伸ばす。
「し、しかし――」
警官の一人が、石川警部補に話しかけた。
「こ、今回盗まれるかと睨まれていた茶碗が手付かずになっています」
そう言いながら、物置から出てきた警官が、古びた箱を持って石川警部補の前に歩みよった。
その箱の中には欠けてはいるが立派な、薄茶色の茶碗が入っており、
「な、なんだと?」
と、まるで鳩に豆鉄砲を食らったような顔で、石川警部補は聞き返した。
「や、やつの狙いはそれじゃないのか?」
「それだけではありません。やつは物置に閉まっていた宝には、なにひとつ手を付けていません」
部下たちの報告に、石川警部補は唖然とする。
――やつは狙った獲物はかならず奪う。しかし今回はなにも盗めなかった。
そう考えた結果。
「がははははははっ! 彼奴め! 盗めずに逃げよったかぁ」
石川警部補は大笑いした。
「我々の勝利ですね。警部補」
「彼奴自身を捕らえられんかったが、我々は勝利したのだ。しかし今度こそお前の正体をお天道さまに晒してやるぞっ! 石川五右衛門っ!」
石川警部補の声が、屋敷内に響き渡った。
「――だってさ? 警部補の勘違いもあそこまでくると感心するわね」
屋敷から少し離れたマンションの屋上で、二十歳ほどの、腰まである長い髪をした女性が、通信機に耳をかたむけながら、呆れ顔で言った。
「クソオヤジの読みは当たってるけどな。まだまだ思い込みが激しいんだよ。儂が盗む品の価値なんてのは、本来の持ち主にしか分からねぇんだ」
忍が口を覆った布をおろすや、そこから小学生ほどの、幼い顔が現れた。
「しかし依頼主もきつい仕事をさせるな。娘がなくした猫のキーホルダーを見つけ出して欲しいなんて」
少年の手には、猫のような形の、ちいさなキーホルダーがあった。
ようなというのには、顔が描かれておらず、形がすこし歪んでいたからだ。
とてもじゃないがきれいとはいえない。
物置の中から聞こえた鈴の音は、そのキーホルダーについているちいさな鈴が鳴ったのである。
少年があの屋敷に盗みに入ったのは、このキーホルダーを手に入れるためであった。
「借金苦で屋敷を手放さなければいけなくなり、引っ越し前に家の中を探したらしいけど、結局見付からなかった。で、引っ越したあとも探させて欲しいってお願いしたらしいけど今の主に聞き入れてもらえなかったみたい。で、私たちのところに依頼が来た」
「娘さんが家族旅行の時に自分の手で作った思い出の品みたいだしな。見付からなかったら見付からなかったで、依頼金を返却すればいいさ」
少年の言葉に、
「そんな考えでよくやっていけるわね。少しは苦労料くらい取ったら?」
と、女性――咲楽は言った。
「頼まれた仕事は死んでも遂行する。それが儂の――義賊である石川五右衛門の信念だろ?」
少年は、「呵々々」と高笑いを上げながら、闇夜に消えた。
翌日の、六時限目のことである。
「石川ぁっ! お前また赤点かぁっ!」
静寂した教室内で、数学教師の基川茂という中年男が教卓を叩く。
「んだよ石川、お前赤点か? お前くらいだろ? こんな簡単なテストで赤点取るなんてよ?」
クラスメイトの何人かが、教室の中央の机に座っている、小学生と見間違うほどにこぢんまりとした少年を蔑むように見下していた。そんな石川五希は、
「まぁ別に覚えてなくても、将来苦労はしないだろ?」
とあっけらかんとした表情で言い放つ。
それが基川の逆鱗に触れ、
「きぃさまぁっ! 放課後補修だっ!」
「別にいいけどさ? 先生うちが店やってるの知ってるでしょ? しかも爺ちゃんは耳が悪くてさ、しかも今寝込んでて店番どころじゃないんだわ」
五希はそう言うと、答案用紙を床に落とした。
「石川くん、落としたわよ」
斜め前に座っている中富光流という、髪の長い女子生徒が、答案用紙を拾い上げ、それを五希に渡そうとしたが、
「あぁ、オレ物覚え悪いからさ。別にいらないわ」
そう言うと、五希は小さくあくびをする。
「すこし寝かせてくれ。昨日は手伝いで疲れてんだ」
五希はそのまま、腕枕をし机に伏した。
「くそっ! せっかく委員長が答案用紙を拾ってくれたってのによぉ」
「別にいいわよ。ほらみんな石川くんは放っといて。先生授業を始めてください」
光流はそう言うと、自分の机に座った。
ふと、五希が落とした答案用紙が気になり、紙を開く。
================================
*次の2つの式をたしなさい。また,左の式から右の式をひきなさい。
①3α,6α,-7β
『10α-3β,-4α-7β』
②3x-6y,x+10y
『7x+13y,4x-16y』
③6α-12β,-α-8β
『-2α-18β,5α20β』
================================
そのほとんどの答えが間違っている。
――〇点って、ほんとちゃんと授業を聞いてないからこうなるのよ。
答案用紙を見ていくと、光流はある違和感を覚える。
――これ、同類項の計算がズレてる?
本来ならば、同類項で計算しなければいけないが、五希の答案は、α+β、y+xというように、同類項がずれた答えになっていた。
光流は怪訝な表情で五希を見やる。
「どうした中富っ! 集中しろ」
基川に注意され、光流は黒板の方へと視線を正した。
六時限目が終わり、ホームルームも終わりを迎えていた。
「それじゃぁ全員気をつけて帰るように。中富、号令」
「起立っ! 礼っ!」
中富の号令で、生徒全員が担任に向かって頭を下げる。
「よっしゃぁ部活だぁっ!」
「かったりぃなぁ」
と、生徒たちの愚痴にも似た会話が聞こえ、
「ふぁぁっ! よく寝た」
六時限目のほとんどを寝て過ごしていた五希が目を覚ますや、大きなあくびをした。
「石川、お前放課後補修だってよ?」
「パスな。オレ、今日は急いでるんだ。つまらねぇ補修なんて受けてる暇はねぇんだよ」
そう言うと、五希は教室のうしろにあるロッカーで自分のカバンを取ると、そのまま教室を出て行った。
「石川くんっ!」
光流が呼び止めようとしたが、
「光流、生徒会でしょ? あんなの放っといていいからさぁ」
逆に同級生に止められ、ちいさくためいきを吐いた。
生徒会の活動が終わり、光流は疲れた身体を癒すように腕を伸ばしながら帰路についていた。
――あの答案用紙、ほとんどズレて計算されてた。同類項だけじゃない。答えの欄をわざとズラしていたし。
光流が角を曲がろうとした時だった。
自分の上空を、紺色のちいさな忍が通り過ぎて行く。
――えっ?
光流はそれを目で追っていく。忍は手に絵画を持っていたが、それよりも見覚えのある背丈に、
「い、石川――くん?」
と、無意識に呼び止めるように、光流は忍に言った。
その声に気付いた忍は、視線を光流へと向ける。
――げっ? 委員長?
忍は突然のことで驚くや、
「うわっとっとととっ!」
着地に失敗し、塀を踏み外すと、公園の茂みへと崩れるように落ちていった。
「ちょっ! 大丈夫?」
光流は心配した表情で、その茂みに近付く。
「石川くん? 大丈夫?」
忍を探すように周りを見渡す光流のうしろから手が現れ、彼女の口を塞ぐや、公園の茂みへと連れ込んだ。
「んっ! んぐぅっ!」
ジタバタと、光流は忍の腕から逃れるが、思う通りに行かない。
――なにこれ? まるで絡まったように離れない。
「暴れてもムダだぜ。もがけばもがくほど縛りがきつくなるだけだからさ」
忍がうしろから囁くように言う。
「い、石川くんなんでしょ? どうしてこんなこと……んっ?」
忍は光流の口を手でおさえると、さらに茂みの奥へと身を隠した。
「くそっ! こんな白昼堂々と盗みに入るとは。彼奴めどこに逃げおった」
公園の近くで、石川警部補が部下数名を連れて周りを警戒していた。
「彼奴はかならずどこかに逃げているはずだっ! 探せっ! 探すんだっ!」
石川警部補たちが剣幕した表情で公園から遠下がっていくや、光流の口を塞いでいた忍の手がゆっくりと解かれていく。
光流は息を整えると、
「い、いったいどういうこと? 泥棒って……」
動揺した声色でたずねた。
忍は、おもむろに光流のうなじへと手を伸ばす。光流はそれを払おうとしたが、忍の鋭い眼光に怯み、喉を鳴らした。
「呵々々っ! 美しいお嬢さんはいったいなにをおっしゃいますやら。儂はしたない泥棒義賊。盗みを働いても、決して私利私欲のためではありませぬ」
忍は光流を真っ直ぐな目で見つめると、彼女のうなじを人差し指で突き当てた。
「――っ!」
その衝撃で、光流は気を失うようにゆっくりとまぶたを閉じていく。
「ここであったことは全部夢だ。委員長はなにも見ていないし、会ってもいない」
忍は光流の身体を抱きとめると、ゆっくりとその場に寝かせる。
「い、石川くん?」
光流は薄れていく意識の中、忍が自分を心配する目を向けると、その場から立ち去っていくのが見えた。
夕方を知らせる鐘の音が聞こえ、光流は目を覚ました。
虚ろな目で周りを見渡す。
――あれ? ここってわたしの部屋?
頭を小さく振るい、なにがあったのかを思い出す。
――たしか生徒会が終わって帰ろうとしたら、へんな忍者みたいなのが……。
そこまで思い出すと、
「そうだっ! あの忍者みたいなのって」
慌てて起き上がると、足に痛みが走り、ベッドの上から転げ落ちた。
「いったぁああああああっ?」
普段感じたことのない痛みがふくらはぎから伝わる。
俗にいうこむら返りである。
光流はその痛みに逃れようと、もがくように身体を転がした。
ようやく痛みがおさまっていくと、自分の机が目に入り、時計を見る。
針は八時を回っていた。
それと同時に、光流のお腹が鳴る。
光流は照れくさそうな表情を浮かべるや、痛い足を引きずりながら、リビングへと足を運んでいった。
「あら? 光流起きたの?」
母親がテレビを見ながらそうたずねる。
「お母さん、わたしいつ帰ってきたんだっけ?」
「おかしなことを聞くね? えっと……いつだっけ? お母さんが帰ってきた時にはもうあんた帰ってきてたからね」
母親はちいさく首をかしげる。
「それでは次のニュースです。今日の夕方、財界のドンと云われている霞桜益輝の自宅で盗難事件が起きました。警察が捜査に入ったところ、犯人は石川五右衛門と名乗る怪盗とのこと。沖さんこれをどう思いますかね?」
ニュースキャスターの男性が、鼻で笑ったような表情で隣に座っている沖という女性キャスターにたずねた。
「この石川五右衛門という怪盗、これまでにも何度か盗みを働いているそうですが、いまだに捕まっていないそうですね。しかも狙っているものはいったい何なのかまったく検討がつかない。今回盗まれた絵画はいったいどれくらいの値打ちがあったんでしょうか?」
――絵画?
光流は、ジッと集中するようにテレビに目をやった。
「えっとですね、警察の発表によると盗まれたのはヨハネス・フェルメールの『真珠の耳飾の少女』だそうですが?」
「フェルメールですか? たしかあの作家は贋作が多かったはずですね」
「そう思い、霞桜益輝は鑑定書を常に額の中にしまっていたようです。これが本物だという証拠に……」
沖の言葉が途中で途絶える。母親がテレビを消したのだ。
「ほら、御飯の用意するから手伝って」
光流はもう少しテレビを見たかったが、母親には逆らえず、トボトボと台所へと足を向けた。
薄暗い店の中、ワッチという帽子をかぶり、サングラスをかけた女性が、レジカウンターに座っている少年の前まで歩み寄った。
「今回の依頼の品。無事に依頼主に届けてきたわ。仕事料はこれくらいよ」
真澄は懐から細長い紙切れを取り出すと、少年の目の前に置いた。
少年はそれを手に取る。
「あ、仲介料は貰っておいたから」
真澄はサングラス越しにウインクする。
「でもよ、結局は贋作だろ? それに絵を手に入れたからといって、行方が分かるわけでもあるまいし」
少年は訝しげな目で真澄を見る。
「依頼品が戻ればいいでしょ? それとも、なにか気になることでもあるのかしら?」
「なんでもねぇよ。そんじゃぁ、ちゃんと口座に金が入ってるか確かめに行かねぇとな」
少年は立ち上がると、ハンガーにかけていたジャンバーを羽織る。
「気を付けなさい。まだ警察が徘徊してるかもしれないわよ――五希」
真澄の忠告に、五希は「呵々々」と嘲るように喉を鳴らした。
「あ、真澄さん、念のため、咲楽にちょっとお願いしといてくれ」
そう言われ、真澄は首をかしげる。
「なにかあるの?」
「なぁに、ちょっとした予防線だよ」
五希が霞桜益輝の屋敷から絵画を盗み取る三日ほど前のことである。
「盗んでほしいものがあるんです」
薄暗い部屋の中心にあるソファに座った、齢八十はとうに超えている鈴原という老淑女が、細々と五希や咲楽、真澄にお願いした。
「具体的なことを、どこから何を?」
咲楽はたずねるように言う。
「霞桜益輝の屋敷から、フェルメールの『真珠の耳飾の少女』を盗み出して欲しいんです」
「霞桜益輝?」
部屋の隅にもたれている五希が、鈴原を連れてきた真澄を見る。
「聞いたことない? 財界のドンと云われていて、しかも絵画コレクターとしても有名なのよ。ただ、すこし妙な噂もあってね」
「妙な噂?」
咲楽が怪訝な表情で聞き返す。
「そのコレクションの真贋が疑わしいのよ。もうひとつ、どこからそれを手に入れてるのかというのもね」
「裏で手に入れている……ということか?」
「おそらくね。本物と言ったって、テレビで一般の人が持ってる絵画なんてのは、作品の練習に描いたようなものでしょ? 今回の依頼品である絵画は本物なら、オランダのマウリッツハイス美術館に所蔵されているはずだからね」
「――言わずもかな、偽物ということか」
五希は鈴原を見る。
「どうしてそれを盗み出してほしいんだ?」
「実は、夫が十五年以上戻ってこないんです。霞桜益輝が家に来て夫を連れて行って」
鈴原は、すすり泣きながら言った。
「霞桜益輝の屋敷に行って、夫のことをたずねたんです。ですが、知らないの一点張りで」
「そのことを警察には?」
咲楽の言葉に、鈴原は首を振った。
「警察に言っても、もみ消されるだけです」
「うーん、盗んでほしいものはフェルメールの作品ねぇ……」
五希はすこし考えると、
「なぁおばあさん。夫はなにかやってたんじゃないか?」
「夫が悪いことに加担していたと?」
鈴原は怒鳴るように、身を乗り出す。
「そういう意味じゃねぇよ。なにか霞桜益輝が得するようなことをしていたんじゃないかって」
そう言われ、鈴原はすこし考えると、
「たしか夫は高校大学と趣味ですが絵を描いていました。でも人に見せられるようなものじゃないって、私にも見せてくれませんでしたから、下手なんだと」
鈴原はうーんと首をかしげるように言った。
五希は表情を変えず、真澄を見やる。
「他にも似たような人がいないか調べられないかねぇ?」
「五希、わたしたちの仕事は、あくまで頼まれたものを盗む。それ以上のことは首を突っ込まないんじゃない?」
真澄は五希に忠告する。
「まぁ、そうなんだけどな。ところで霞桜益輝がそれを手に入れた時期は分からないのか?」
そう言われ、鈴原は手提げバッグから、新聞から切り取った記事を取り出した。
「日付は今から十四年くらい前みたいね。『霞桜益輝は一九四六年に見つかったフェルメールの代表作である『真珠の耳飾りの少女』の絵画を、十億円で落札し手に入れる。』と書いてるけど」
咲楽が記事を手に取り、読み上げた。
「おじいさんの行方が分からなくなったのは、それより前ってことか」
五希はすこし考えると、
「霞桜益輝の屋敷が手薄になる時間帯は?」
「だいたい夕方前後ね……」
それを聞くや、五希は腕を伸ばす。
「夕方か……。まぁ別に忙しくもねぇし、大丈夫だろ」
そう言うと、五希は部屋を後にする。
「あの、お願いを聞いていただけないんでしょうか? ここに来ればかならず聞いてくれると」
鈴原は訴えるように五希に言った。
「なぁばあさん。これだけは約束してくれ。第一に、儂等の正体を他言しないこと。そして二度とこんなことを考えないことだ。そして……どんな結果であるにしろ、変なことを考えるな」
五希は振り向くことなく、忠告するように言った。
「後悔するということですか?」
「――五希、もし君が思ってることが本当だとしたら、普通は用済みで開放されているはずよ?」
真澄が訝しげな目で五希を見る。
「もしそうだとしても、高々一枚の絵を描き上げるのに十五年もかからねぇだろ? それに霞桜益輝が依頼の品を手に入れたのだって、もう十四年も前の話じゃないか」
「それじゃぁ夫は口封じのために?」
「もしくは……という考えもあるんだけどな」
五希はそう言うと、自分の部屋へと消えていった。
「五希くん、ちょっといいですか?」
昼休み、光流は教室を後にする五希に声をかけた。
「なんだよ? 委員長」
「昨日の夕方、どこに行っていたんですか?」
「どこって……なんでそんなこと云わないといけないんだ?」
五希は怪訝な表情で聞き返した。
「そ、それは……」
光流は困った表情を浮かべるや、顔を俯かせた。
とてもじゃないが、絵画を盗んだんじゃないかとは聞けない。
「それに、ちょっと調べたいことがあるんだよ。図書室にそれがあればいいんだけどな」
「調べたいもの?」
「そうだな……贋作で食っていけるかとかな」
五希は、からかうように言った。
「贋作? それがどうかしたんですか?」
「いやぁ、一回本物って云われているやつを見たことあるんだけどなぁ。なんか妙に色合いが可笑しくてさ……。なんっていうか、本当なら青いところが妙に赤みかかった……」
五希の言葉に、光流は怪訝な表情で睨む。
「もしかして、昨日ニュースで言っていた盗まれた『真珠の耳飾りの少女』のことですか?」
そう言われ、
「そうそう、テレビでそれを見てたらさ、妙に可笑しかったんだよ。まぁテレビに写ってるのだって本物じゃないかもしれねぇけどさ」
と、五希は「呵々々」と笑った。
それを光流は訝しげな表情で見る。
「どうかしたのか? 委員長」
「いえ別に。でももしかすると偽物を本物に見せるには色々とその絵を研究する必要があるんじゃないでしょうか?」
「研究ねぇ」
「絵画だって、描いた時代によって使った筆や絵の具の種類も違うでしょうし、描いた人の癖も真似しないと騙せないんじゃないですか?」
それを聞くや、五希は……。
「なるほどな……」
と納得した表情を浮かべるが、逆に光流は意味が分からず、
「ところで石川くん、本当に昨日の夕方」
問い質そうとした時、五希は光流の肩を抱いた。
それに驚き、光流はちいさく悲鳴を上げる。
「い、石川くん?」
「委員長、もしさそれで食っていった人がいたとしたら誰になるんだ?」
「えっ? フェルメールの絵を贋作してですか?」
光流はすこし思い出すように顔を俯かせると、
「たしか、昨日ニュースでも同じようなことをキャスターの人が言ってましたね。それで気になったのでネットで調べたんですけど、ハン・ファン・メーヘレンという贋作画家がよくフェルメールの絵を描いていたそうなんです」
「でもよ、結局は贋作だろ? 今だったらすぐに分かるんじゃないか?」
「それが、メーヘレンが贋作を売っていた一九四〇年代だと、フェルメールの作品は研究に緒についたばかりの頃で、一握りの専門家を騙せれば、それが本物と証明出来ていたそうなんですよ。もちろん、フェルメールが絵を描いていた時代の駄作から絵の具を削ぎとっていたみたいですけど」
「――削ぎ取る?」
「知らないんですか? フェルメールの絵は油絵がほとんどで、その『真珠の耳飾りの少女』もそうなんですよ。それに油絵は、パレットナイフで簡単に塗ったところを削ぎ取ることができて、塗ったところからさらに重ねて塗ったりもしているんです。――って、いつまで……」
光流が五希の手を振り解こうとしたが、すでに五希の姿がなく、どこに行ったのかと周りを見渡した。
が、五希の姿を見つけることはできず、あきらめようとしたが、五希が調べ物があると言っていたことを思い出し、図書室へと向かったが、結局、そこにも五希の姿を見つけることができなかった。
教室に戻ると、どこからか携帯の着信音が鳴り響いており、それが五希のカバンからだとわかると、光流はそれを止めようと携帯を取り出し、切ろうとしたが、間違えて受話器を取ってしまった。
「おい、いるんだろ?」
黒服の男が、うるさいほどにアパートのドアホンを鳴らす。
そこは、五希たちに依頼した鈴原の住処であった。
「お前が誰かに頼んであの絵を盗ませたんだろ? いったい何が目的だ?」
「おい、聞いてるのか? うちの旦那がいったい何をしたっていうんだ?」
古びた階段を革靴が鳴らすように、一人の黒服が上がってくる。
「管理人から鍵を借りてきた」
ポケットから鍵を取り出し、それを仲間に手渡す。
「早くあのババアから盗み返すんだ。あれがバレたらただじゃ済まないぞ」
「口封じすればいいだけだろ――よし開いた」
黒服の男は、ドアを勢い良く開けるや、
「うわぁっ!」
と大きな悲鳴を上げた。
ドアを開けた瞬間、布団を丸めたものが、それこそ梵鐘を鳴らすがごとく、男三人を、外へと押し出したのである。
「予防線貼っといてよかったわ」
そのアパートの正面にあるビルの屋上で、咲楽は双眼鏡を片手に、黒服たちの様子を見ていた。
「あの人たちは、あの絵を取り戻しに来たんでしょうか?」
依頼人である鈴原が、困った表情で咲楽を見る。
「たぶんね。でも財界のドンがいくらで手に入れたのかは知らないけど、それを取り返そうっていうんだから、もしかしたら五希が思ってることが本当なんじゃ」
咲楽は、鈴原を見ると、
「ところで、ちゃんと盗んだものはあのアパートに?」
「はい。ただ本物だと照明するものは入ってませんでしたが、多分盗みだす時に」
それを聞くや、咲楽は……。
「それは可笑しいわよ、あの子がそんな失敗するわけない。だってその証明書は額の中に絵と一緒に入れられていたんでしょ?」
答えるように、鈴原はうなずく。
「もしかして五希……」
咲楽は連絡を取ろうと、懐から携帯を取り出す。
「もしもし、五希っ! ちょっと聞きたいことが……」
「あ、あの……」
電話先から聞こえてきたのは、聞き覚えのない少女の声だった。
「え、っと……、あの石川五希くんの携帯じゃないのかしら?」
戸惑った表情で、咲楽は電話先の、光流にたずねた。
「あ、はい。たしかに石川くんの携帯ですけど、電源を切っていなかったので」
「そ、そう。それじゃぁまたあとで連絡するわ」
そう言うと、咲楽は携帯を切った。
それと同時に、光流の方も、五希が教室に戻ってくるやいなや、勝手に扱ったことを注意されたが、逆に電源を切っていなかったことを注意している始末であった。
その日の晩のことであった。
「刑事さん、まだ犯人は見つからないんですかな? しかも、また盗みに入るとかなんとか」
ガウンを来た小太りの白髪交じりの男が、葉巻を片手に、石川警部補にたずねる。
「やつは狙った獲物はかならず奪います。予告状を出したのは、きっとまだ盗みとっていないものがあるのでしょう」
石川警部補はそう言うと、自分の腕時計を見やった。
時間は午後九時を回っている。
『乙姫が眠りし晩。盗み忘れたものをいただきに参ります。石川五右衛門』
という予告状が、今日の夕方、霞桜益輝の屋敷に届いたのである。
「乙姫が眠りし晩か……。いったい何時のことだ?」
意味が分からず、石川警部補は頭を抱える。
「お金はいくらでも払います。ですからこれ以上盗ませないでください」
「分かっています。こちらも彼奴を捕まえなければいけませんからな」
石川警部補がそう言った時である。
「きさま、いったいなにをしにきた?」
屋敷の入り口から、黒服たちの慌てた声が響き渡る。
そこには、今回の依頼主である鈴原の姿があった。
「あ、あんたは……。ふん、自分のやったことを自首しに来たか」
霞桜が、不貞腐れた表情で、鈴原を睨む。
「いえ、私は石川五右衛門さんからここに来るようにと言われたんです。あなたが夫を亡きものにしたという証拠を見せると云って」
「そりゃぁ、いったいどういうことですかな?」
石川警部補が、霞桜を見る。
「そ、そのババアのうわごとです。信じてはいかん」
霞桜が狼狽した時である。
屋敷内の照明が一瞬にして消えたのだ。
「彼奴め、現れたか? おいっ! 誰か明かりを灯せっ!」
そう言われ、点けられたライトの明かりは淡い紫色だった。
「ようクソオヤジ、いつもご苦労なこって」
廊下の奥から、紺色の忍装束を着た五希が現れる。
その表情は人をからかうような笑みであった。
「現れたな、石川五右衛門。今日こそ貴様を捕まえてやる」
石川警部補が五希を捕まえようと、近づいた時である。
「おっと、今日は別に金品を取りに来たわけじゃねぇんだ」
と、五希は手を広げる。
「それじゃぁ、いったいなにを盗みに来たんだ?」
怪訝な表情で、石川警部補は首をかしげる。
「今回の依頼主のおばあさんが言っていた通りだ。その証拠を見せてやるって言ってんだよ」
そう言うや、五希は屋敷から拝借した絵画の一枚を額から取り出す。
「ここに取り出したりまするは一枚の絵画。どこにでもある油絵の絵画で御座います。油絵というものは、塗った絵の具の上から更に絵の具を塗ることができまして――」
「能書きはいいから、本題には入れ」
しびれを切らした石川警部補が、怒鳴るように言った。
それを、五希は『すこしは余興に付き合えよ』と呆れた表情を浮かべる。
「これから皆々様方にお見せいたしまするは、世にも奇妙なお話。十五年ほど前のこと、とある方がそこにいる霞桜益輝に連れて行かれた日から夫は行方不明。疑問に思った依頼主は、あんたにたずねたが知らないの一点張り……。云えねぇよなぁ、奴隷のように贋作の贋作を描かせていたんだからさぁ」
その言葉に、霞桜は表情を歪ませる。
「贋作の……贋作?」
石川警部補は訝しげな表情で、霞桜を見やる。
「な、なにを世迷い言を……、刑事さん早くそいつを捕まえてください」
「別にさぁ、捕まえられねぇことくらい分かってるしな、余裕綽々なんだけどさ、あんたが今日の昼、部下を使って依頼主のアパートに入ろうとしていたのは、お天道さまが見てるんだよ」
「どうして警察に言わなかったんですかな? 場合によってはあなたも強盗の罪で問われますが?」
「ぐぬぬ……」
霞桜はくぐもった声を上げる。
「だが、どこにそんな証拠がある?」
「それを今から見せるんだよ」
五希は懐からパレットナイフを取り出す。
「さっきも言ったけどよ? 油絵っていうのは塗った絵の具の上からさらに絵の具を塗って、下地の色を重ねる技法もあるんだ。儂が今回盗んだ『真珠の耳飾りの少女』は別名『青いターバンの少女』と言われていて、どっちかというと、目に行くのはターバンの方なんだよ。でもな青の割には赤が混じっているような、妙に紫っぽかったんだよ」
淡い水色を放つサーチライトが、五希を捉える。
「そ、その絵は?」
鈴原と霞桜が戸惑った声を上げる。
五希が持っていた油絵は『真珠の耳飾りの少女』であった。
「ちょっと急いでばあさんの家に盗みに入ってさ、盗ませてもらった。まぁばあさんには必要ないかもしれねぇけどよ」
五希は悪びれた表情で、鈴原に小さく謝った。
「クソオヤジ、ここをよーく見てくれ」
五希は、青いターバンの、妙に紫かかったところを指差す。
「そこがどうしたというんだ?」
「ここをちょいと軽く削るだろ? で、無水炭酸ソーダと過酸化水素水を混ぜたものを吹き付けると」
説明しながら、五希は懐から洗剤の入れ物を取り出し、液体を削ったところに吹きかけた。
すると、その部分だけが青い光を放った。
「こ、これはまさか、血液反応?」
その場にいる全員が、驚きの表情と声を上げる。
「そう。依頼主の旦那さんは血反吐を吐かされるまで完璧な絵を描かされていたんだ。それだけじゃねぇ、他にも何人もいるんじゃないか? 贋作の贋作を描かせて、用済みにした人がさぁ」
五希は、睨むように霞桜を見る。
「こいつはクソオヤジに渡すよ」
そう言うや、五希は絵画を石川警部補に投げ渡した。
「きさまぁ、いったいなんの真似だぁ? いったいいつ気付いた? これが贋物だといつ?」
青褪めた表情で、霞桜は五希を睨む。
「おばあさんが見せてくれた十四年前の記事に書いてあった、あんたがあの絵を手に入れた時期だ。その絵はなぁ、フェルメールの絵じゃなくて、フェルメールの贋作を描いていたメーヘレンの作品なんだよ。そもそも本物は一八八一年頃からマウリッツハイス美術館に所蔵されているんだよ」
「つまり、私は贋物を掴まされていたということか」
霞桜は愕然とした表情で膝を付く。
「儂はもう用が済んだんでな。これで帰らせてもらうぜ」
五希が立ち上がった時である。
「お前たち、彼奴を取り逃がすな」
石川警部補は絵画を投げ捨てるや、五希に飛びかかった。
「空気の読めねぇクソオヤジだなぁ」
五希は懐から煙玉を取り出す。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前っ!」
虚空に九字を切り、煙玉に火を灯す。
「くそっ! 同じ手に掛かるか」
石川警部補は、腕で目を覆った。
しかし、その予想は裏切られる。
耳を劈くほどの爆発音が、屋敷全体に響き渡った。
その衝撃音に驚き、全員が目をつむってしまう。
「畜生、どこだ? どこにいる?」
石川警部補は手探りで、周りを右往左往する。
「呵々々、じゃあなぁ、クソオヤジっ!」
五希が石川警部補をからかうような声でその場を後にした。
「くそぉっ! 取り逃がしたか」
耳鳴りが収まりかけた頃、石川警部補は悔しげな表情で床を叩く。
「警部補、庭で待機していた警官の報告ですが、取り逃がしたそうです」
「分かっている。お前たちでは彼奴を捕まえることができんくらいな」
石川警部補はそう言いながら、霞桜を見やる。
「あんたには色々と聞かねければいけないな。それからおいばあさん」
鈴原にそう言うや、
「あんたはあいつにあの絵を盗んで欲しかったのか? それとも……」
石川警部補が詰め寄った時、鈴原は五希から言われたことを思い出す。
――どんな結果であるにしろ、変なことを考えるな。
最初はどういう意味だろうと、鈴原は思った。
しかし、夫が殺され、希望を失った先にあるもの……。
鈴原は死を覚悟していた。
五希は、そのことを薄々と感付き、忠告したのである。
「お、おいばあさん、あんたなんで泣いてるんだよ?」
戸惑った表情で、石川警部補は言った。
鈴原は、大粒の涙を流していた。
「いえ、なんでもありません」
鈴原は静かに、手を差し出す。
「今回彼に盗みをお願いしたのは私です。私を罰してください」
鈴原の手首に、冷たく重い手錠がかけられた。
「大富豪霞桜益輝の屋敷に警察が捜査に入り、押収された絵画のうち半数が贋作と判明。霞桜はそれを売っていたみたいね」
翌朝、テレビのニュースを見ながら、咲楽はコーヒーを淹れていた。
「しかもその絵を描いていた人たちは、用済みになれば口封じに消していたそうよ」
「まぁ、あの記事に書いてあったことと、委員長が言っていたメーヘレンが結びつかなかったら、どうにもならなかったけどな」
五希は淹れてもらったコーヒーを口にする。
「あら? 委員長ってもしかして昨日出た女の子かしら?」
咲楽はからかうように言った。驚いた五希は口に含んだコーヒーを吹き出してしまう。
「なんだよそれ? てかさぁ、なんであんな時間に連絡を入れるんだ?」
「まぁまぁいいじゃない」
二人が言い合いをしている時だった。店のドアが静かに開き、鈴の音が鳴り響く。
「ほら、お仕事お仕事」
咲楽は作業用のエプロンをかけるや、店に出る。
「あの、ここにくればどんなものでも探しだしてくれると聞きまして」
「はい。ここはリバース・トーン。お客様のご依頼の品はかならず手に入れる。別名『思い出輸入雑貨店』です」