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アルカナハーツ  作者: 風水 夕日
第一章 『恋愛』の選択
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皇帝のお出まし ―The Emperor―

 俺は三兄弟を一声で抑えた青年を見据えていた。

なぜだかあれだけ騒いでいた三兄弟でさえ黙って男を見つめる始末だ。

というより、俺の中で彼の声を聴いた瞬間また面倒臭いなぁという声が響いていた。

何度目になるだろうか、この言葉は……


(だから、俺は記憶喪失で何にも分からねぇんだよ!!)


 俺は若干不機嫌になりながらも、とりあえずは三兄弟のリンチならぬ束縛から逃れられたことに安堵した。だが、そのせいか妙に今までよりも静けさが際立った。少し前のにぎやかさが嘘のように、まるで嵐で吹き飛んだかのように思えた。

 三兄弟が急に黙りこくったのが不気味で、俺は挨拶をくれた青年へ返答するのを忘れていた。とりあえず色々面倒になるのは嫌なので、七夏を庇いながら俺は適当に返答する。


「おう。なんかよくわからねぇがよろしく!!」


「よろしくだな。

……なんだなんだ?まるで俺を初めて見るような目つきと態度だなぁ?

これでも俺はお前の親友なんだけどなぁ勇人?」


「あぁ……(くそっ!!めんどくさいな。また親しい間柄のやつか)」


「なんか言ったか?」


 怪訝そうに言う青年は、どこか見透かしたような笑みを浮かべて俺を見つめる。


「いや、別に特に何も言ってないけど……」


「そうか……」


 どこかほっとした様なため息をつくと、青年は俯いてぼそっと何かを言った。

その瞬間、パリーンと何かが割れる音が複数回響いた。

星間三兄弟がタロットカードを砕いた音だった。より正確に言えば、三人が俺に敵意むき出しの目で武器を構えていた。


「な、なんだよいきなり!?」


「てっきり騙されるところだったよ……勇人ちゃん。いや、(シン)さん!!」


「!?」


 さっきまで俺の腕にすり寄っていた星七までもが、距離を取って声を低くして俺を睨み付ける。殺意むき出しの目で俺を見据えていた。暁月、陽太の二人も同じように構えて唸っている。

 星七は武器らしい武器を持っていないが、指に赤い宝石のついたごつい指輪を装備していた。おそらくあれが能力の元となるものだろう。未だにタロットの種類は分からないが、確実に能力を持っている。【鍵】であることは確定したわけだ。

 暁月はその手にレイピアを構えているし、陽太に至っては幾重もの短剣を宙に浮かべて睨んできている。この二人も【鍵】のようだ。

 頭で冷静に考えてはいるが、実際俺は三人のあまりの変化に困惑していた。なぜこうなったのか全く理解できない。俺は何かまずいことでも言っただろうか?まずいことでもしたか?

全く身に覚えがなかった。急すぎる。急すぎてどうすることもできない。


「お前は誰だ?偽物。」


凄惨な表情を浮かべて歩み寄る青年に、俺はどうすることもできずにただ立ちすくむ。


「いや、わかりきったことか……この世界にいるのは能力者か、罪だけだもんなぁ!!」


 そして、彼までもがタロットカードを出現させていた。そして、そのカードを俺は読み取ることができた。でかでかと、中心に威厳よく玉座に座る白髭の男が描かれている。


「【Ⅳ:皇帝】!!」


「あぁ……俺は【皇帝】のカードを保持している。

そして、広瀬勇人の相棒でもある。それは事実だ。

あぁそうだ偽物……お前のミスを教えてやる」


「は……?」


「勇人はなぁ、俺が『これでもお前の親友なんだけどなぁ』って言ったら、必ずこう答える。

『面倒臭いなぁ……確認の必要ないだろう?』ってな!!」


 彼がそう叫ぶと同時、手の中のカードは割られ、代わりに長大な鉄の塊──大剣が握られていた。彼は俺へと歩み寄りながら大剣をゆっくりと構える。よく見ると、光の糸のようなものが大剣の柄の最低部から伸びている。その糸をたどると男の右手へと続いていた。


「くっ!!」


 俺は反射的にカードを出現させて即座に割った。割った瞬間、俺の脳裏で四回ほど鍵が開くような、ガチャンッといったような金属音が響いた。そのあとには不気味な笑い声がエコーのように響き、そして頭の中で消えていった。

 だが、俺がその音を気に掛けている間も戦局は変わっていく。結局、頭の中はごちゃごちゃだ。

ついていけないし、どこかでついていくのを放棄してしまった感じがする。ただ、気は抜けない。

俺は千載一遇の好機を逃さないようにだけ注意を払う。


「ッ!!能力保持者!!」


 大剣を悠々掲げていた青年は、目を見開いて俺から距離を取った。

星七たち三兄弟も驚いた表情に変わっている。そこに一瞬の隙が生まれた。逃す理由はない!!


「今だッ!!ナンバーⅥ、『恋愛』!!」


 瞬時に帯を装備した俺は砲弾のように駆けて、目の前で後退する青年へと突っ込んだ……はずだった。

急に頭痛が襲ってきたかと思うと次の瞬間には体が重くなり、そして俺は突っ込んだはずの青年にもたれかかるような形で抱きとめられた。


「なんだっ!?」


「戻ったんだよ。現実に」


 囁くように言ったのは、青年だった。


「現実って………」


「言葉通り!!俺たち能力者以外も暮らしている【表】の世界だ!」


「……」


 俺は、支えてくれていた青年を押し飛ばすようにして立ち直ると、すぐさま周りを見た。


「……赤くない。時計も動いてるっ!!」


 実感がいまいち湧かないけれど、今ここには不気味な赤い世界はない。時計も動いてる。何より、生き物の気配がする。

窓の外を見てみると、元気そうに鳥が囀り空を飛んでいる。


「戻ったんだ……」


 俺はため息のような声でそう言った。あまりに突然な現実への帰還に、俺はその場でへたり込んだ。空は青いし、風も気持ちよかった。朝の陽ざしも温かくて気持ちいい。


「戻ったんだし……寝よう!!」



 俺としては普通だと思う言葉だが、あとで聞いてみると呆れに呆れられていたらしい。帰ってきて最初に言う言葉がそれかよ!となったらしい。まぁ、それを言った本人は勇人らしいと爆笑したが……

後言うなら、この言葉が決定打となって青年たちは俺を敵でないと認めてくれたらしい。それが第一声の敵なんてこっちから願い下げと言われる始末だった。


 

 俺はしばらく放心してから立ち上がると、後ろからゴンっと殴られた。


「ってぇ!!何するんだよ!!」


「悪い悪い!!まさかお前が能力者だとは思わなくてよ!!

しかも、いつもの返しじゃねぇから罪が化けてるんだと思っちまってな。悪かった」


 そういって飄々とした態度で頭を下げた青年は、本当に申しわけなさそうに深々とした謝罪だった。

俺は頭を叩いた方を詫びると思っていたから、その謝罪があまりに過激に思えた。だが、だからと言ってそんなに謝らなくても……とは言わない。そんなことを言うのは面倒くさいからだ。それに、これは割に合ってるんだからいいんだ。


「それで聞きたいんだがよ」


 俺からの返答がないことをものともせず青年は次の話題へと移った。というよりはこっちが本題だ。

彼は顔をあげて俺の目を見据えてから、一言一言をしっかりと意を込めるように発した。それが、彼にとって最も重要なことだといわんばかりに。


「お前は、勇人なのか?」


 そういった彼の目は、何かを見極めようと冴えわたり、深く俺を捉えていた。

この世に無二の親友をその目はなぜか拒んでいるようにも見えた。

まるで、来るな来るなと祈らんばかりに──

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