迷子の子猫
――小さい頃から方向音痴。それは大人になっても変わらなかった。
「あっれー? おっかしいなー」
私、谷川唯花。只今迷子の真っ最中です。
「こっちだと思ったんだけど……ここどこだろ?」
地図を片手に右往左往して約三時間。引っ越し先に向かうため、最寄りの駅で降りたのはよかったんだけど、問題はそこからだった。
自分の極度の方向音痴は自覚してたのだけど、契約で一度来たから大丈夫だと油断していた。
「はぁ……どうしよ……」
さすがに途方に暮れて、道端に座り込む。うろうろしていたから足がパンパンだ。
「どうされました……?」
「ふぇ?」
太ももをトントン叩いていると、上から心配げな声が降ってきた。
びっくりして顔を上げた私はポカンと口を開けたまま静止した。
まさに一目惚れ。顔ではなく、佇む雰囲気に。
こんなことってあるだ、などと惚けていると彼が私の顔の前で手を振る。
「大丈夫ですか……?」
「あ……はい!単なる迷子ですから!」
勢いよく立ち上がり、私はガッツポーズをしてみせる。
そんな私に彼はきょとん顔。
「迷子って……」
「日常茶飯事ですから、お気になさらず」
笑いながら言うと、一拍置いて彼の盛大な笑い声が辺りに響き渡ったのだった。
「唯花!」
背後から切羽詰まったような男の人の声がして、すぐに腕を掴まれる。
「あ、春樹さん!」
息を切らしながら私を探してくれていたらしい愛しい人を指差す私。
引っ越ししてから約一年。それでも未だに迷子になる私を彼、下北春樹さんは探してくれる。
あの日、私が彼に一目惚れしたあの後、彼は私を引っ越し先まで案内してくれた。しかもご近所さんだったみたいで、何かと気にかけてくれるようになった。
「またお前は……迷子になるの分かってんだから声かけろよ!」
「だって、いつもいつも悪いし……それにコンビニ行くだけだし……」
慌てて言うと、盛大なため息が帰ってくる。
「……コンビニ、反対方向」
「え?あれ?」
混乱する私の手を取り春樹さんは歩き出す。正しいコンビニの方へ。
「全く……次から一人で行動するな」
「えー?じゃあ家から出られない……」
出られなければ買い物ができない。これは死活問題だ。
「駅までの道なら覚えたもん!」
「そら毎日通勤する道ぐらいは覚えてもらわなきゃだからな」
当然、と言われてむっとする。それはそうだけど……
「じゃあ買い物どうしたらいいの?」
「俺と行けばいいだろ。なんなら買ってくるし」
事も無げに言われて若干拍子抜けする。というかそれって……
「どういうこと?」
「……」
先を行く春樹さんが呆れたように私を見る。なんか今、すっごくバカにされた気がする。
「だから、俺とずっと一緒にいろって言ってんの」
「……へ?」
言われたことを頭の中で反復する。これってまるでプロポーズ的な?
「鈍い奴……結婚してやるって言ってんだよ。お前の面倒みれるの俺ぐらいだろうが」
半まくし立てるように春樹さんが言う。いやいや、ちょっと待って。その前に……
「私達、付き合ってたの?!」
コンビニ目前の小道に響き渡る私の素っ頓狂な叫び声。次いで、春樹さんの口から漏れたのは本日最大のため息でした。
【End】
皆様お久しぶりです。
私の中では長めの短編となりました今回の作品、いかがでしたでしょうか?
なんともまぁ、バカな女の子を書いたなぁと思います。
まぁ方向音痴は作者もですが、ここまでではないと信じたい…
さてさて、今回のはちょっと続編考え中。
もし読みたいな〜と言ってくださる方がいたら頑張ります。
ここまでお読みいただきありがとうございました☆