第4章、0から1の決意
週末の夕方、ハルは自室の窓際に座っていた。机の上には、昨日のノートと、以前描いた小さな刃物のスケッチ。何度も閉じようとしては、手が止まる。
「もう…どうすればいいんだろう。」
独り言のように呟き、窓の外の街灯を眺める。赤みがかった光が建物の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。胸の中のざわつきが、波のように押し寄せてくる。
その時、ユウが訪ねてきた。ドアをノックし、少し緊張した声で呼ぶ。
「ハル…今、いいか?」
「うん、入って。」
ユウが部屋に入ると、ハルはスケッチを机の端に押しやる。視線を落としながらも、心臓の鼓動は速い。
「ずっと考えてたんだな…」
「…そうだな。ずっと考えてる。」
ユウは机に腰を下ろし、真剣な目でハルを見つめる。
「でもな、俺、お前がそう簡単に終わらせる人間だとは思わないんだ。」
ハルは小さく息をつく。指先でノートの端を握りしめる。
「でも、怖いんだよ。もし間違って消えたら…誰も見てくれないまま、終わっちゃう気がする。」
ユウは静かに頷き、声を落として言った。
「だからこそ、今ここで一歩踏み出すんだろ。消えずに、生きるって決めるんだ。」
ハルは視線を上げる。ユウの言葉は、胸の奥で小さな灯をともしたようだった。
「…一歩か。」
「そう、一歩。ゼロのままじゃ何も始まらない。動くことで、次が見えてくるんだ。」
ハルは机の上に置かれたスケッチをじっと見つめ、深く息を吐いた。刃物はただの紙の上の線に過ぎない。実際に手にする必要はない。大切なのは、自分がどんな行動を取るかだ。
「わかった…やってみる。怖くても、逃げずに。」
ユウは笑った。
「その顔、久しぶりに見たな。いい顔してるよ。」
ハルは小さく笑みを返す。胸の奥のざわつきはまだ完全に消えていないけれど、それでも前より確かに落ち着いている。
窓の外では街灯が赤みを帯びた光を放ち、ハルの決意をそっと照らしていた。
「今日から、自分で生きることを選ぶ。」
机のノートにペンを走らせ、ハルはその思いを文字に刻む。迷いや不安もまだある。けれど、それでも今は、生きる一歩を踏み出した自分がそこにいた。
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