第3章、消えない手
翌日の放課後、ハルはいつもの教室に残っていた。課題を終えたミカが、静かに机の前に座る。
「昨日、ノート見たんだ。すごく…丁寧に書いてたね。」
ハルは顔を赤らめて、視線を床に落とす。
「別に…そんな、たいしたことないよ。」
でも、ミカの瞳は真剣で、何かを伝えようとしていることが伝わる。ハルの胸の奥が、少しだけ暖かくなる。
「ねぇ…手、貸してくれる?」
ミカがそう言うと、ハルは思わず顔を上げた。
「手…?」
「ええ、鉛筆を持つ手。こっちの問題、一緒にやろうってだけ。」
ハルは小さく笑い、手を伸ばす。指先が触れると、不思議な感覚が胸の中で跳ねる。痛みでも恐怖でもなく、確かに、誰かと繋がった瞬間だった。
「ありがとう…なんだか、少し楽になるな。」
「うん、私も。誰かと一緒だと、少し安心するよね。」
その日、教室の窓から差し込む光は、夕陽で赤みを帯びていた。ハルはその光に手をかざし、温かさを感じる。目を閉じると、昨日まで胸の奥で渦巻いていた不安が、少しだけ落ち着いたように思えた。
その帰り道、ハルはユウと一緒に歩く。
「昨日は変だったな、教室で」
「うん…でも、今日少し、救われた気がする。」
ユウはにやりと笑う。
「それでいいんだよ。少しずつでも、進めばいい。」
ハルは歩きながら、指先でリュックの紐を握り直す。思えば、自分の手だけじゃ何もできないと思っていた。けれど、少しずつ他人と手を重ねることで、自分の存在が確かになっていく気がした。
家に帰ると、ハルは日記を開き、今日のことを書き留める。
「誰かと触れ合うことで、消えたい気持ちも少し静かになった。消えることより、繋がることの方がずっと強いんだ…」
ページに向かってペンを走らせると、胸の中の渦は、まだ完全には消えていないけれど、少しずつ形を変え、落ち着きを見せ始めていた。
ハルの指先がペンを握る手は、昨日より確かで、温かかった。
そしてその手は、もう一人ではないことを静かに知らせていた。
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