第2章、渦の中で
放課後の教室は、いつもより静かだった。窓の外には冬の陽が斜めに差し込み、机や椅子の影を床に落としている。ハルは一人、教室の隅でノートを開き、文字を書こうとするが、筆は止まったままだ。
「また一人かよ、ハル。」
声をかけたのはクラスメイトのリョウだった。いつもは冗談ばかりのリョウも、今日はどこか鋭さを帯びている。
「うるさいな…別に一人でいい。」
ハルの返事は短く、壁にもたれるように背を預けた。心臓の奥で、ざわざわとした感覚が渦巻く。誰かと話すべきか、でも言葉はいつも引っかかる。
「お前、また変なこと考えてるだろ。顔に出てるぞ。」
リョウの言葉に、ハルは視線を逸らす。自分でも気づかないうちに、胸の奥に小さな緊張の刺が立っていた。逃げたいのか、耐えるべきなのか、感情が混ざり合う。
「別に…考えてない。」
しかし、口から出た声は震えていた。
その時、ドアが開き、ミカが入ってきた。彼女は落ち着いた足取りで、ハルの机の前に立つ。
「ハル、今日の課題、一緒にやらない?」
その声は、突き刺すようにハルの心を揺さぶった。彼は視線を落とし、手をこすり合わせる。心臓の鼓動が速くなる。まるで、止まらないワルツに巻き込まれたようだ。
「…いいよ。」
二人でノートを並べる。指先が偶然触れると、ハルの中で、何かが跳ねた。痛みでも、安堵でもない、説明できない感覚。怒りや不安、孤独がぐるぐると回り、逃げ場のない舞踏のように絡みつく。
「大丈夫か?」
ミカの声は優しい。だが、ハルはうまく答えられず、ただうなずくしかなかった。
その日の放課後、廊下を歩くハルの耳には、他の生徒の笑い声や、椅子の軋む音、足音が渦巻いて届く。すべてが重なり合い、胸の中で小さな衝突を起こす。まるで、血の流れが速くなったかのように。
「俺、なんでこんなに…胸が騒ぐんだろう。」
ハルは独り言のようにつぶやく。返事はなく、ただ冷たい空気だけが周りを包む。
その夜、家に帰ったハルは、ノートを開き、今日のことを描き始める。言葉にしなくても、文字にしていくうちに、胸の渦が少しずつ落ち着いていく感覚があった。
「生きてるって、こういうことかもしれない…」
手は震えていたが、ハルはページに向かってペンを動かす。渦のような感情を、文字に変えて、少しだけ外に出すことができたのだ。
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