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14 別れ

空港に到着した後、直接部屋に帰らず空港近くのビジネスホテルに泊まることに決めていた。


さらを失った悲しみを時間をかけてしっかり味わいながら心の区切りをつけたい。


前を向いて生きて行くには必要な時間だった。


明日、部屋に帰る前にさらと出会った大学で2人だけの時間をもって最後の別れをしたかった。


大学は夏休みに入っているので人は少ないはずだ。

さらとふたりだけで心ゆくまで魂の会話をしてみたい。


そして区切りをつけるんだ。

前を向いて生きてゆくために...。


翌日の昼過ぎ。

予定通りに今日を区切りの日にすることを自分に誓っていた。


駅からの人通りの少ない道をゆっくり歩いている。


正門に近づくとドキドキしながらさらに初めて手紙を渡したことを思い出す。


それも遠い昔のことのようだ。

今、大学の正門前のあの私の好きな土の道に立っている。


突風に舞い上がる落ち葉のように私の心は掻き乱されたが、今は心静かにすべてを受け入れている。


葬儀の時にも感じていたが、映美のあの悲しみの黒い液体がどんどん沈澱していって上の方はより透明になっている。


今さらが天国を垣間見せてくれているように感じる。

さらは確かに生きている。死んでも生きている。


私がまだ神を信じていなかった頃には天国は現実ではなかったが、今は天国の存在をまったく疑ってはいない。


キリストの言葉が真実と力を持って私の中に優しく留まっている。

さらは死んでも天国で生きているのだ。


今ここで私はひとつのことを決心する。


さら、あなたを憧れの対象のように美化することに別れを告げることにしたよ。


今日この場ではっきり約束する。

あなたの亡霊を追いかけたり嘆いたりしたくはない。


さらがそんなことを望むはずがないことがわかるから。


今思えば、さらは私がさらに憧れているのに気づいていて、軌道修正をしてくれていたように思えることが何度かあった。


私がキリストに目を向けるように、さら自身に目が向かないように気を配っていたように感じることがあった。


その時はちょっと冷たいなと思っていたが、私の信仰の歩みに最大限の配慮をしてくれていたんだ。


今はわかる。

私がさらから受け継ぐのはキリストの十字架だ。


尊敬する誰かではない。

正直さと本当のことを見つめていく力と眼差しだ。


私が神の子供として素直に生きていくことだ。


余計なものは取り除かなければ真っ直ぐには歩けない。


さら

あなたのメッセージしっかり受け取っているよ。


映美は心残りなくさらにさよならできる気がしていた。


夏の夕暮れ、映美はしゃがんで土を優しく撫でて土の感触を味わった。


ボストンの土の下にさらの身体が埋葬されていることを思いながら土を見つめた。


その場にしゃがんだまま、両手の指をやさしく開いて手のひらを土の上に置いてみた。


昼間の夏の熱が残る地球の体温を感じる。

さらをハグした時のあの体温と同じだった。


さようなら さら....


また、会える時を楽しみにしているからね。


さようなら さら...


ありがとう さら...


映美は掌にくっついた砂を丁寧に土に戻してゆっくり立ち上がり、空を見上げる。


夏の夕焼け空はこんなにも美しかったんだ。

この風景を心に焼き付けておきたい。


天国は夢物語のおとぎ話なんかではない。


映美は目を閉じて、まだ見ぬ天国に思いを馳せ、胸いっぱいに爽やかな地球の匂いを味わうように肺に招き入れる。


永遠の天国に入ればこの地球を懐かしく思うようになるのだろうか?


そんなことを考えながら、深呼吸を繰り返していた。

地球との一体感を感じる...。


自然と涙が溢れていたが、今はもう悲しみの涙ではない。


爽やかな希望の涙に変わっていた。

映美は時を忘れて心ゆくまで涙を流した。


涙を夏の夕暮れの風が乾かしてゆく。

映美はゆっくり神の子供として歩み始めていた。


確かに自分は生まれ変わったと感じている。


映美は神を見つめる美しい女性になっていた。

まさに信じる者の気高き表情をしていた。


さら...

あなたが私をボストンに呼んでくれる前に(命を見つめる)ということについて私に話している夢を見たと言っていたよね。


さら、あなたは自分の命をしっかり見つめてる女性でした。


そしてその限りある命の使い方を身をもって私に見せてくれた。


私も自分の命をしっかり見つめて生きてゆくよ。


そしてこの与えられている命を大切に大切に誰か他の人たちのために燃やして生きてゆくよ。

約束する!


あなたが私に伝えてくれたイエスキリストの十字架をしっかりこの胸に刻んで神の子供として誇りを持って生きていくよ。


さら...


ありがとう...


空一面に広がる雲が綺麗なピンク色に染まり、この大地を優しく照らしている。


映美は胸に両手を当てて、もう一度空を見上げる。


桃色に輝く光が全身に降り注いでいた。


映美の瞳に色鮮やかな永遠の世界がはっきり映し出されている。


さら...

あなたは命終えても

街を彩る落ち葉のように

私の心の風景にしっかり刻まれているよ...。


さら...

あなたが教えてくれた生かされている意味を噛み締めながらこの命を生きてゆきます...


ありがとう...

さら...

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