【第6章】未来人、国とは何かをもう一度問う件
──「帰属って、悪者だったのか?」
世界が崩壊してから、半年が経った。
街は沈黙していた。
誰もが“自由”を手に入れて、“孤独”に堕ちた。
あの夜の灯りはもうない。
一人一人が持っていたはずの光が、いつの間にか消えていた。
俺は廃墟になった街の図書館にいた。
かつて国があった頃、人々はここで歴史を学んでいたらしい。
埃まみれの棚から、一冊の本を拾う。
タイトルは――「国民とは何か」。
ページをめくる。
“国家とは、個人が他者と共に生きるための約束である。”
……ああ、そうか。
国家は檻じゃなかった。
ただの「共有フォルダ」だったんだ。
未来の俺たちは、
そのフォルダを削除した。
でも、削除した瞬間に気づいたんだ。
孤立とは、自由の副作用だって。
街の中央広場に出ると、
子どもたちが焚き火を囲んでいた。
火を見つめながら、静かに笑ってる。
彼らに“国”はない。
でも、“一緒にいる”という空気があった。
それはルールでも法律でもない。
ただの共鳴。
でも、それだけで十分だった。
俺はひとりの少年に聞いた。
「お前たちは、国が欲しいと思うか?」
少年は首をかしげて笑った。
「国って何?」
……完璧な答えだ。
文明がここまで進化して、
結局、行き着いたのは**“一緒にいる”という原始的な感覚**だった。
でも、それがすべての出発点でもあった。
未来の人類が国家を捨てて、
それでも滅びなかった理由は、
この小さな「共鳴」がまだ残っていたからだ。
俺は空を見上げた。
雲の切れ間に、青があった。
どこの国の空でもない。
誰のものでもない。
でも確かに、みんなのものだった。
ポケットから古い端末を取り出す。
画面には最後に残ったファイル名が光っていた。
【CIRCUIT 1.0 - 共鳴社会プロトタイプ】
タイトルの下に、一文。
“国家を超えても、人は孤立しない。”
俺はゆっくりと送信ボタンを押した。
信号が光となって空へ飛んでいく。
それはどこか遠くで、また誰かに届くだろう。
「……というわけで、“未来人、国とは何かをもう一度問う件”でした。」
退場。
拍手ゼロ。
でも、焚き火の音がした。
風の中で、誰かが笑ってた。
それで、十分だった。
【終章メモ】
人は、帰属しなければ孤独になる。
だが、帰属しすぎると自由を失う。
その中間にあるのが、“共鳴”だ。
国家も個も越えて、ただ理解し合う力。
未来人の時代では、それを「テンション」と呼んだ。




