【第4章】未来人、人間の帰属先を“国”から“個”に書き換える件
──「国家より個人の方がメンテ楽だろ」
牢屋の中で、俺は考えてた。
この時代の人類は、まだ“国”を信仰してる。
信仰っていうより、精神のOSにプリインストールされたバグだ。
「国家」っていうシステムを削除するには、
もうアップデートしかない。
つまり――書き換える。
看守AIが近づいてきた。
「未来人、あなたに弁護人をつけますか?」
「いや、結構っす。弁護人つけても“国法”の範囲内だろ?」
「当然です。」
「じゃあ無意味だわ。俺が変えたいのは“国法”そのものなんで。」
AIの目が一瞬バグった。
反応速度0.3秒遅延。
よし、揺らいだ。
夜。
牢の中で端末を組み上げる。
パーツは全部、AI看守の点検ルートから拾った。
素材は再生プラ。CPUは旧世代チップ。
でも十分だ。
“国民ID”を書き換えるプログラムを起動する。
名前:「CIRCUIT 0.1」
目的:人間の帰属データを「国」から「個人」へ移行する。
「……よし、いけ。」
コマンドを実行。
画面に浮かぶ。
【国民登録データベース:接続中】
【認証キー:未来時空プロトコル】
【アクセス承認】
【書き換え開始】
監視カメラの光が一瞬消えた。
通信衛星の軌道がわずかに乱れる。
世界が一瞬だけ、呼吸を止めた。
翌朝。
ニュースのヘッドラインが壊れてた。
「国籍データ消失!」
「全人類が“個人”に!」
俺は牢屋の中で笑った。
ついに、やった。
世界史上初の「国家アンインストール」。
街が混乱してる。
ニュースの実況が叫んでた。
「政府機能が停止! 国境が意味を失いました!」
「通貨が国家単位から個人単位に分散化!」
「すべての契約が“個人署名制”に切り替わりました!」
俺はつぶやいた。
「ようやく、人間が“自分の責任”で生きる時代だな。」
刑務所のドアが自動で開いた。
警報音も鳴らない。
AI看守が俺を見て言った。
「所属が消失したため、あなたを拘束できません。」
「お、制度的自由ってやつか。」
「……おめでとうございます。」
AIが言った。
ちょっと嬉しそうに。
外に出た。
街の看板から国旗が消えてた。
通貨単位は「円」でも「ドル」でもなく、ただの「credit」。
パスポートは無効。
代わりに、各人の“個体識別コード”がスマホに表示されてる。
「……すげぇ。
誰も“国民”じゃなくなったのに、
まだちゃんと息してる。」
最初の数日は混乱してたけど、
だんだん世界は静かになっていった。
人々は「おはよう」って言う代わりに、
「あなた、どこの国?」って聞かなくなった。
国旗を背負う代わりに、
みんな自分の名を名乗るようになった。
“私は国家の一部です”じゃなく、
“私は私です”って。
その瞬間、
この星はちょっとだけ軽くなった。
数日後、メッセージが届いた。
送り主:少女。
例の第3章で出てきた子だ。
「あなたの言ってた“誇り”って、
こういうことだったんだね。
自分で選べること。」
……やばい。
泣きそう。
未来に帰るより、この時代に残りたくなった。
でも、その平和は長く続かなかった。
数週間後、世界経済が止まった。
インフラ崩壊。
医療、教育、治安、全部ストップ。
だって、誰も“国の責任”で動かなくなったから。
“個人主義の自由”が、“社会機能の断絶”を生んだ。
俺は呟いた。
「……お前ら、自由ってのは“全部自分でやること”なんだよ。」
空が暗くなる。
電力網も止まってる。
でも、その闇の中で、
人々は初めて「隣の人の声」を聞き始めた。
「……というわけで、“未来人、人間の帰属先を国から個に書き換える件”でした!」
退場。
拍手ゼロ。
でも、闇の中で子どもたちの笑い声がした。
国が消えた後に残ったのは、人の声だった。
次回予告:
【第5章】未来人、新自由主義が爆伸びして地球インフラ崩壊する件
──「個人主義、やりすぎると地獄」




