異世界の白い部屋だと思ったら義妹の白い下着の中だった。俺の靴下に穴が開いていてザマァァァァからのNTR下剋上
シリーズ第五弾
小説家である俺はスランプに陥っていた。
何作か書いてみたものの全く面白くなかったのだ。
「今回も駄目だ。何のひねりもなく物語が終わってしまう。新たな発想も出てこない……」
十作は書いてみたが、全く何も心に響かない作品ばかりだった。
その十作の中で一番まともそうなものを選んでアシスタントに感想を貰おうと試みた。
しかし、アシスタントの女子大生:早乙女恋(20)は顔面蒼白になっていた。
小説家である俺(39)の今の時点で渾身の最高傑作『異世界の白い部屋だと思ったら義妹の白い下着の中だった。俺の靴下に穴が開いていてザマァァァァからのNTR下剋上』の原稿を読み始めることもなく、全ての時が止まっていた。
マズい、これだけは致命的に失敗したか……と焦りが俺の身体を包み込んできた。
「あなた、とうとう売れなくて小説家を止める決心がついたのね。良かったわ」
や、やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
「わたしも、そろそろ応援するのが難しいと感じていたのよね」
いや、止める気はないぞ? どうしてそんなことを言うんだ、恋、哀れな子羊を観るような眼をしないでくれ、俺の心は風前の灯火で搔き消されてしまいそう。
恋はポツリと零した。
「もう日記以下ね」
「ま、待ってくれ。頼む、読むだけ読んで欲しい」
「だって、タイトル見ただけで駄作って容易に判るもの」
「いや、寧ろこのタイトルで話を作れっていう方が無茶じゃね?」
「いつもと同じでタイトルと中身が違うんでしょ? 読む価値ってあるのかな」
「そ、それは……」
「あなたが読者なら、つまらないと想像がつく作品をクリックすると思う?」
「読むだけで時間泥棒に感じて、作者に対して怒るかも知れん」
「もう貴方の作品は凶器なの。つまらない凶器よ。言い方は酷いけど拷問だわ」
「うっ……、それは正しい。恋、君が正しいよ。でも何とか辻褄を合わせたんだ」
『異世界の白い部屋だと思ったら義妹の白い下着の中だった。俺の靴下に穴が開いていてザマァァァァからのNTR下剋上』
逆に考えるんだ、このタイトルで話が作れただけ凄いことじゃないか?
「もう、しょうがないわね。今回だけよ。はぁ」
俺との交渉の末、恋は原稿をめくり始めた。
・・・・・
・・・・・
僕は現在、体育館裏で人を待っている。
相手は一つ下の一年生、飛びっきりの美女で可愛いと評判の女子だ。
名前を星奈優ちゃんという。
彼女は入学以来、早くも告白の山を作り、惨敗した屍のような男子を量産していた。
告白があまりにも成功しないので、罰ゲーム嘘告の際にはこうやって利用されてしまう。
可哀想な乙女でもある。
僕は村上。ある時を境にしてボッチをやっている。陰キャと呼ばれる生徒だ。今回は嘘告をしろという罰ゲームでわざと負けてここに居る。巻き込まれ罰ゲームをしたのはボッチ系の僕の友達ばかりだった。陽キャの数人が音頭を取って巻き込んできた。そこで僕はわざと負けたわけ。
体育館裏の僕の背後には陽キャたちが隠れて様子を眺めて楽しんでいる。
はぁ、しんどい。
待ち合わせの時間が来た。すると彼女もやってきたようだ。
「……お待たせしました」
彼女は視線を僕の背後に集中させていた。少しご機嫌が悪そうに見える。
嘘告に自分が使われているのを分かっているのだろう。同情心が芽生えた。
「こんなところまで来てくれてありがとう。星奈さん、今までも男子から告白されて迷惑をしていると知っているけど、申し訳ない。きっぱり振ってくれていいから、僕にも告白させて欲しい。僕は村上浩紀。二年生だ」
彼女は僕の後方にある陽キャの隠れ場所から視線を戻し、僕の顔をじっと見ながら目を見開いた。
いつもの男子とは違う告白だったのか、すぐに返事を返してくれなかった。
後ろの方から「やれやれ、もっと話せ」、「早くフラれろ」という囁き声がする。
「……」
「星奈さん、君の事が好きだ。お互いに知らない間柄、これからは親しく、仲良くなりたい。友達として少しずつ付き合って欲しい。よろしく」
手を彼女の前に差し出す。握られたら成功、ダメな場合は「ごめんなさい」だ。
少しだけ時間が経ってから手を柔らかいものが包んだ。
彼女の小さく可愛い手だった。
「えっ……」
「わたしのほうこそ、よろしくお願いします。村上先輩」
彼女の眼は僕の背後を捉えていた。キッという目つきをしている。
ざわざわ…… ざわざわ……
(おい、成功しちまったぞ)
(話が違うじゃないか)
(なんで、あんなヤツが成功するんだよ)
(おい、どうする、邪魔するか?)
「……行きましょ、村上・せ・ん・ぱ・い」
何という事だ、入学早々、学校を代表する美少女となった星奈さんに
僕は手を繋がれ引っ張られている。
・・・・・
この一般男子が学校一の美少女と恋人同士になるというのは通常あり得ない。
もちろん、僕達にも秘密はあった。
「もういいかな、校門を出たよ。ありがとう、面倒をかけたね」
「ダメ」
「優ちゃん。ちょっと……もう大丈夫だって」
「イヤ」
彼女はつないでいた手を外し、改めて指を絡ませ恋人繋ぎをしてきた。
そう、僕と彼女は義理の兄妹だ。彼女は旧姓のまま星奈を名乗っている。高校の入学を機会に、僕の姓と同じにするかどうか考えたが、彼女はこう言っていた。
『同じ姓だとイチャイチャしても兄妹でしょ、それじゃお兄ちゃんに告白してくる女の子を防げないもん。姓が別だからこそ、いいのよ』
優はお兄ちゃんっ子であり、理想の兄ができたと大喜び。
それ以来、べったりであった。
ただ、正式な彼氏彼女になっているわけではない。
優は僕の事を好きだと告白しているが、僕は兄として受け入れてはいない。
「ねーねー、これで公式カップルになったね。むっふー」
「優ちゃん、今回は僕の罰ゲームで迷惑をかけたね、約束通りお礼に何か奢るよ」
「カフェに行きたい。あと名前呼びは、ちゃんなしで」
「分かった。カフェで奢るのはお礼じゃなくても、いつもやってるけど」
「浩紀っ。細かいことは良いの」
「優はいい子だな」
「もっと甘やかしてっ褒めてっ」
僕は思っていた。キスぐらいおねだりされたら好いのにと。
最寄り駅に近いカフェに着いた。僕たちは窓際の二人席に座った。
メニューを目で追う。変なドリンクは記載されてなかった。
「お兄ちゃん、何にする?」
「そうだなぁ……」
(お兄ちゃん、しゅきっ!)ボソリ
「ん、優ちゃん、何か言ったかい?」
すでに名前呼びは忘れ去られていた。
一方、二人の後を付けて来ていた陽キャたち。
「星奈さんを狙っていたのに、なんだよこれ」
「近くで観たら本当に可愛くて奇麗だったな」
「俺、ちょっとショック。こっそり狙っていたのに」
「村上が選ばれるだなんて何があったんだ」
「俺達より村上の方がモテるということだろ、単純に」
「明日から彼を真似して陰キャになろうかな」
この陽キャたち、罰ゲームは主催したが、そんなに悪い連中ではなかった。
もちろん、イジメに発展することもない。寧ろ村上のようになりたいと考えて努力する。彼ら陽キャというのは良いと思ったら取り入れる姿勢を持つ、だから陽キャになる。
「あれ? 村上と星奈さん、すんごい仲良くなってる」
「カフェにいるところ、じっと見るなよ」
「モテると言われる俺たちも、まだまだだな」
「カフェに入って、おめでとうって言ってやるか」
カランカラン
「「いらっしゃいまっせーーーっ」」
「おっと、クラスメイトの村上浩紀じゃないか、どうした? おや、その子は?」
「へぇ、村上にも彼女がいたんだ」
「浩紀、えらい可愛い娘じゃないか、隅に置けないな」
「俺、浩紀の親友なんだ、君の名前は?」
「ああ、お前らか、彼女連れでごめんな。彼女は星奈さん」
「あ、あの……、わたし、星奈優といいます。浩紀のお友達ですか?」
「……(か、かわいい。そしてもう呼び捨て!)」
「……(笑顔を俺に向けてくれてる)」
「……(あー、なんだよー、むらかみー)」
「……(可愛すぎて言葉が出ねぇ)」
「あ、あの……お客様、どちらの席にお座りになられますか?」
優の余りの可愛さに我を忘れ感動した陽キャ連中、素直に少し離れたテーブル席に座る。
「おれ、いつものやつ、ミカジュー」
「それなら俺はユキジューにしようかな」
「俺はサキュ・ジューにするか」
「お前らツウだな」
ラノベではよくあるトラブルは全く起きず、平和な時間が過ぎていった。
「じゃみんな、僕達先に帰るよ」
「失礼しまーす」
「おう、明日またな」
「教室で」
「おめでとう」
「彼女を大切にな」
「あの……、先輩方、浩紀をよろしくお願いします」ペコリ
「うん……(めっちゃ可愛い)」
「ああ……(あかん、ホレたわ)」
「はい……(誰だよ、嘘告イベントにしたやつ)」
「おう……(星奈さん、星奈さん、優ちゃん、優ちゃん)」
カラン カラン
「「ありがとうございましたー」」
・・・・・
【村上と星奈の自宅】
「ふぅ~、疲れたぁ」
リビングのソファにバタンと倒れ込む。その瞬間、目を瞑った。
「お兄ちゃん、お疲れさま。フフフ……私たち公認カップルね」
(スースースー)
「寝ちゃってる……。お兄ちゃん、ストレスで疲れちゃったのかな。可愛い寝顔」
優はリビングのカーテンを引き、部屋を暗くしたうえで、ふわっと何かを兄の顔にかけて、更に暗くしてあげる。アイマスクの代わりだろう。彼女はとても優しい。
・・・・・
【夜】
「ここは……白い部屋……いつの間に眠ってたのか……短い時間だったけど、よく寝たな。ん?」
僕が目覚めた時、顔に布が掛けられていた。白い布だった。
手に持って眺める。その布は義妹である優の白いブラだった。
「お兄ちゃーん、起きたのー?」
「ああ、ごめん、精神的疲労で気絶していたようだ」
「あ……」
モジモジしはじめる優。
「優ちゃん、白いブラがこんなところにあったんだけど」
「か、返して……」
「ショーツだったら変態になるところだったぞ」
「ふふ……。お兄ちゃんだったらいいもん。どーーーん」
まだソファに寝転んでいた僕に、彼女が勢いで抱き着いてきた。効果音付きだ。
「今日はごめんな。嘘告に付き合わせちゃってさ」
「お兄ちゃんが困ってたら私は助けるわ。気にしちゃ嫌よ」
「明日からカップルの振りをするのか……上手くいくかなぁ」
「お昼休みにはお弁当持って行くからね。手作りの!」
「手作り弁当かぁ、可愛い妹だなぁ~」
「あ、靴下に穴が開いてるよ。ここ」
「ほんとだ。また買わなきゃな」
「次の休みにショッピングモールに行こ?」
「ああ、いいよ」
やったー! デート、デートー
【ショッピングモール】
「あ、お兄ちゃん! コンサートやってるよ」
「見に行こうか」
「ザ・マーメイドってグループみたい」
「「「ザッッマァァァァァァァーーメイドぉぉぉぉぉぉ」」」
「ファンが一杯いるな」
「離れようっか。ちょっとファンの歓声がすごいね」
しかし、歓声がザマァにしか聞こえなかった。これは指摘したら駄目だろうか。
「ふぅ~、ちょっとお化粧直しに行ってくるね」
「僕も行くよ」
僕は先に用を足して近くのベンチに座っていた。
少し先にゲームコーナーがあるのを発見し、あとで優と一緒にぬいぐるみでも取ろうかと、様子を見に近づいて行った。
しかし僕はトイレから離れるんじゃなかった。優は美少女、単独で居ればすぐにナンパに遭ってしまう。ゲームコーナーを観てから戻ると、案の定、大学生らしいグループに優が捕まっていた。
「きみ、可愛いね。ひとり? 今暇だよね?」
「あ、あの、その……」
「あ、すいません、彼女は妹なんで。家族で来ているんですよ」
「お前は?」
「今言いました通り、彼女の兄です」
「ちっ」
もう慣れたものだ。外出すると優に必ず声が掛かる。
その際に相手達に言うのは、恋人のケースでは
『こんなダサいやつより俺たちと一緒にカラオケ行こうぜ』
と言い出してカラオケでワイセツな行為を働いてくるだろう。
だから妹だと言って家族で来ていると決め台詞を言うのが正解だ。
「お兄ちゃん、いつもありがとう」
「いいんだよ、さぁ行こう」
(お兄ちゃんと、いつキスできるのかしら)
仲良く手を繋ぎながら義理の兄妹はウインドウ・ショッピングを楽しんだ。
もちろん、目的だった靴下を購入した。
まだ遠くからコンサートの歓声が聞こえている。
「「「ザッッマァァァァァァァーーメイドぉぉぉぉぉぉ」」」
【後日、学校にて】
今日から堂々と公認カップルになった僕達。
自宅から義妹と仲良く一緒に学校へ行くと驚いた。
みんなが羨ましそうな目で見てくる。
「村上、おはよう」
「浩紀くん、早いね」
「おう友よ、調子はどうよ」
「村上、ゲームやろまい」
「星奈さんと少しは進んだか?」
いつの間にかカーストトップに君臨することになった陰キャだった筈のボク。
優を射止めたのが評判となり、評価が爆上がり。
みんな嫉妬して僕をケナすより、どうしたら星奈さんみたいな可愛い娘と付き合えるのか、僕みたいになりたいと尊敬の眼で見られるようになった。
この二人に栄光あれ
・・・・・
・・・・・
完成した原稿を恐るおそるアシスタントの早乙女恋(20)に読んで貰った。
「うん! 面白かった。最高の出来だったわ!」
「えっ……」
「何といっても嫌われ役の陽キャのイケメン男子さんたちが善い人ばかりという点ね。義妹の白い下着がブラなのも良かった。ショーツならヘンタイ逝きだったけどね。そしてコンサートでのザマァ(-メイド)と、あ、そうそう、靴下の穴の伏線も回収してるわね」
「ええ……」
「あと、前作のミカジュー、ユキジュー、サキュジューをちゃっかり出してるわね。これはコアなファンにとって堪らないサービスよね」
「……」
「ちゃんとNTRも入れてないし、偉いぞ~」
恋は人が変わったように新作を褒めたたえた。何があった?
「あとね、後半だけど、早く巻こう、畳もうという気持ちが滲み出ていて良かったわ」
「そう……ですかい」
「最後の『二人に栄光あれ』というのも意表をついて味があっていいわね」
「案が出なくてさ、ほぼタイトル詐欺なんだが」
「あー気にしない、気にしない。そういう事もあるよ」
「書いた俺が言うのも何だけど、これって面白いか?」
「最高傑作よ!」
……ああ恋……そんな目で俺を観ないでくれ……
彼女は視線を俺からずらし、窓の外を見た。そのまま見続けている。表情は暗い。
小説の良し悪しよりも、もっと重要な、何か。その何かが恋を苦しめているようだった。
「なぁ、恋、何かあったのかい? 俺で良ければ話を聞くぞ?」
「う、うん……。な、なんでもないよ。心配してくれて、ありがとう」
その時、彼女のスマホに連絡が入った。
彼女はすぐさま引っくり返して表示が見えないようにした。
初めて見る仕草だ。今までは見られても良いというスタンスだった筈だ。
「恋、だ、誰からかな……?」
「と、友達。女の子のね」
嫌な予感がして背中に冷たい風が吹いた。
・
この世には理解不能な現象というものが存在する。
まさに褒め殺しだった。俺は後日にでも『離婚届』という書類が恋により渡されるのではないかと戦々恐々としている。それだけは嫌だ。それを阻止せんがために、さすがに次こそは感動作を書き上げてみせると肝に銘じていた。
ただ、恋は寂しそうな瞳をし、窓から外の景色を観て何も言わずに佇んでいた。
彼女は何を思うのか。思ってしまったのか。
いよいよダメかもしれない……
このタイトルとは裏腹に、二人にとって悲しい結末が迫って来ていた。
彼女には夫に言えない苦しみが身を削っていたのだ。
to be continued......
↓ 星奈優「お兄ちゃん!」
★タイトルのネタ元
異世界から現実世界に戻ってきた
(第二話一番下)
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