表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

もう一人の少年①

 雨。


 今日は朝から雨が降っていたから畑仕事はお休みだ。手持ち無沙汰になった俺は一人軒下で丸太に座り、小刀を使って木彫りをやっていた。


 彫っているのは五センチぐらいの大きさのフクロウだ。父さんが彫っているのを見て興味が湧いて教えて貰った。


 なんせこの世界にはゲーム機、スマホ、漫画本といった娯楽がないのだ。あと中身が中身なので同年の子と遊ぶのは少し苦手だ。いや苦手というよりどうしても大人目線で対応してしまうため、周りから「お前は俺のかーちゃんか!」って言われてしまうのだ。いや、かーちゃんって……複雑な心境になったぞ。


「よし! 出来た!」


 俺は出来上がったフクロウの木彫りを目の前にかざした。形はまだ歪だけど前より大分マシになったほうだ。不意に目の前にかざしたフクロウの木彫りの背後、ずっと向こうに雨の中に佇む魔女の搭が視界に入った。


(……やっぱあれ、どう考えても幻覚じゃ……ねぇよな?)


 三日前、俺は不思議な体験をした。近づくことができないはずの魔女の塔に居たのだ。もちろん自分の足で行ったわけではない。気づいたらそこに居たって感じだ。ドミニク叔父さんと同じ体験だ。


 ただ一つ違っていたのは俺が会ったのは魔女ではなく一人の少年だった。


(なんかめっちゃ物語の主要キャラですって感じの奴だったなぁ……)


 ちらっとしか見えなかったが顔立ちが凄く整っていた。デカくなったら間違いなくイケメンになるな。と俺は一人頷く。


 ドミニク叔父さんにこのことは話していない。自分の体験を話したせいで甥っ子が魔女の搭に行ってしまったなんて知ったら、自分のことを酷く責めるだろう。


 まあ、あとはなんとなく誰にも話さない方がいいかなって俺自身思ったからだ。


(ドミニク叔父さんは一度きりだったみたいだし……俺もそうだろうな……)

 

“真っ赤な血みたいで……き、気持ち悪いって„


 不意に金髪の言葉が脳裏に浮かんだ。


 俺は前世で嫌と言うほど自分の血を見てきたから、あいつの目の色が血の色みたいだと言われてもピンと来なかった。


 寧ろ太陽に照らされてきらきら光るトリグラの実そっくりで綺麗だなって思った。


(……って今思えば木の実と同じって失礼だったんじゃね?)


 あの清潔そうな服装……どう見てもお貴族様だろ。あと雰囲気的にも。

 なんでお貴族様があそこに居るのかは甚だ疑問だが……。


 ハッ! もしかして!

 追放されたけど、実は世界最強でした。なんて展開が⁉


「いやいや、ねぇだろ」


 自分の考えに自分でツッコんだ。前世で一時期ネット小説の追放系に嵌まっていたから思考がそっちにいってしまっていた。


(あいつ一人なのかな?)


 ふとそんなことを思う。多分魔女もいる? と思うけど他にいるのだろうか?


(あいつが心の底から信頼出来るダチが出来ることを願うしかねぇなぁ…)

 

 「はぁ…」と俺は小さく息を吐き小刀を鞘に納めると立ち上がってぐっと背伸びをした。……次の瞬間。


 目の前にびっしりと並んだ分厚い本の背表紙が現れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ