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金髪の少年①

「……ドミニク叔父さん、マジで魔女の塔に来ていたのか」


 ドミニク叔父さんの話を疑っていたわけじゃない。不思議な体験だったね。ぐらいの気持ちだった。


 え? 何? ドミニク叔父さんの話は嘘じゃないよって分からせるために、魔女は俺をここに呼んだの? やだぁぁ。……って違う。落ち着け俺。……まさか自分が体験するとは思っていなかったからかなり動揺している。


(ドミニク叔父さん大丈夫かな?)


 自分が魔女の塔に行ったことを話した後、目を離した瞬間に忽然と姿を消してしまった甥っ子。きっとドミニク叔父さんは慌てて父さんや母さん……村の人達に話すだろう。


「なんとしても……ここから早く出ないと……」


 こうなったのは俺のせいではないが、前の人生のように両親を悲しませたくない。俺は一度深呼吸をし、ここから出る方法を見つけるため辺りを調べることにした。


 ドミニク叔父さんは魔女が現れて失神して元の場所に戻ったと言っていたが、俺はどうだろう?


(優しい魔女であってほしい……)


 そう願いながら塔をぐるっと回った。前世の一般的な一戸建てと同じぐらいの幅で寸胴だ。窓はいくつかあるけど入り口がなかった。

 

 一番下……一階の窓から中を覗こうと思ったが、窓の位置が微妙に高くて中を覗くことは出来なかった。諦めて今度は壁伝いにぐるっと回り扉の前で立ち止まった。大人が一人通れるぐらいの大きさで、装飾もなくどこにでもある木製の扉だ。ただ尋常じゃない量の茨が扉を覆っている。


「……やっぱ出口はここしかねぇよなぁ」


 ドミニク叔父さんはこの茨まみれの扉を素手で叩いたのか。俺も素手で叩けってか? ……無理だっ!


「……ねぇ」

「ひょほっ!?」


 どう脱出するか思案していた時だった。背後から声が聞こえびっくりした俺は変な声を上げた。「まさか⁉」と思いバッと後ろを振り返るとそこに居たのは魔女……ではなく一人の少年だった。


 金色の髪に透き通るような肌をしているが、目元まで伸びた前髪のせいで顔立ちが分からない。見た目からしてなんとなく年は近そうだ。汚れのない真っ白なシャツに黒地の膝丈ズボン、白のソックスと革靴を身につけていた。


 ……いや、ちょっと待て。


 さっきまで俺一人だったよな? 魔女の塔には入り口はなかったはずだ。とすれば残りは……。


「お前も魔女の塔に来ちまったのか?」


 俺と同じように。そう問えばそいつはふるふると首を振った。一瞬だけ前髪の隙間から目が見えた。


(あ、こいつの目の色……)


 俺がそう思った瞬間、金髪がなぜか前髪をバッと両手で抑えた。なぜ?


「えっと、でも塔に入り口なかったよな?扉はここだけだし……」


 金髪の謎の行動には触れないでおこう。俺は腕を組んで首を捻った。あ、もしかして……。


「ここに住んでいるのか?」


 そう聞くと金髪は前髪を抑えながら一歩下がった。あれ?もしかして聞いちゃまずかった?


「ええっと、俺こっから出たいんだけど、どうすれば出られる?」

「……その……鐘が鳴れば出られると……思う」


 金髪は腕が疲れたのか両手を下ろながらおずおずと言った。


「マジ⁉ 良かった!」


 俺は心の底から安堵し肩の力を抜いた。と、不意に春風に似た暖かな風が吹き金髪の前髪が靡いた。


 今度ははっきりと見えた金髪の目。


 その目の色はトリグラの実そっくりだった。金髪は「あっ」と言って慌てて前髪を抑え俯いてしまった。


(もしかてこいつ……)


 人と目線を合わせるのが苦手なタイプか?


 または人の視線が気になるタイプかもしれない。なら視線はなるべく向けないほうがいいかもな。


「……き、気持ち悪くないの?」

「は?何が?」


 金髪の言葉に俺は首を傾げた。気持ち悪いって何が?


「ぼ、僕の目見たでしょ?……真っ赤な血みたいで……き、気持ち悪いって」


 消え入りそうな声で言った金髪の言葉に、俺は「ああ、なるほど」と思わず手をポンと叩いた。つまり金髪は人の視線云々じゃなくて、目の色を隠したかっただけなのか。


 金髪の口振りからして今までずっと周りからそんな目で見られていたんだろうな。……うーん、でも俺は前世でゲームや漫画で赤い目のキャラを沢山見てきたし、なんなら水色やピンク色の髪や目のキャラもいた……あ、この世界ならあるかも。


「や、……やっぱ気持ち……悪いよね」


 泣きそうな声に俺は我に返った。黙ったままだったから肯定と取られてしまった。


「手出せ」


 俺は革袋に手を突っ込んでトリグラの実を一掴みして、握ったまま金髪の前に突き出した。



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