第2章第7話〜鍛錬〜
私と結衣は今道場の観客席にいる、なぜならばあの後渡辺さんと林さんが結局仕合いをすることになったのでせっかくだから見学しようとなったからである。
「…いつでもいいぞ。」
林さんはたんぽ槍を構え、渡辺さんに先を向ける。
「…さぁ、やろうか。」
対する渡辺さんは木刀を林さんに刃を向ける。
〜林視点〜
勝斗と仕合うのは1年ぶりだ…やっぱり勝斗のマナ総量と覇気が俺にとんでもない圧を掛けてくる。
「やっぱえげつないよなぁ…」
構えて睨み合っているこの状況下ですらかなりの緊張感を覚えている自分がいる。
「…来ないの?」
勝斗が余裕な笑みでこちらを見る、正直ちょっと癪に触るからお望み通りに仕掛けてやろう。
「じゃあお望み通りに行かせてもらうよ!」
俺は勝斗に向かって刺突を繰り出す、しかし…
「刺突って相手に余裕がある時にやってもあんまり強くないんだよね。」
そう言い横にステップをして躱したと同時だった。
「繰り出しの後の動作が遅いよ。」
俺は急いでバックステップで回避をするも、それより早く横一文字に斬られた。幸い胴に直撃ではない為そこまで入らなかった。
「相変わらず速いなぁ!勝斗!」
そう言いながら横に槍を凪ぐも、勝斗には当たらず、風を感じるのみだった。
〜咲視点〜
「見えなかった…」
結衣がボソッと呟いた、今先程渡辺さんが林さんの刺突を防ぎ、懐まで入って斬る動作が私達には一切見えなかった。いや、林さんも速いのだがそれよりも遥かに速い速度で動いていたのだ。
「多分…無駄な動きがないんだと思う。」
「どうゆう事?」
結衣は私に聞いてきた。
「攻撃を繰り出す時、基本的には予備動作が必要となるんだけど、渡辺さんはそれを最小限の動きで済ましているからあの速度で斬れるんだと思う…そうだとしてもあんなに速いのはどうかしてるけど。」
あれが…英雄と謳われた人の動きなのか…
〜林視点〜
やっぱり一筋縄ではいかない…今俺と勝斗は互いに睨み合う状態となっている。今の所勝斗はノーダメ、俺は横一文字のダメージがあり、やや俺が不利な状況だ。
「どうした?もう終わりか?」
勝斗は余裕な表情でこちらを見つめたまま俺の懐まで侵入して来た。
「ならばこれで終わりよ!」
繰り出されたのは袈裟斬り、でも俺は捉えることができなかった。
「ぐぅぅ!」
俺はその場に倒れ込んだ。
〜咲視点〜
林さんが倒れた、つまりこの勝負は渡辺さんの勝利というわけだが…
「私達、あれに稽古つけられるの?死ぬんじゃない?」
結衣が言うことに私は首を縦に振るしかなかった、事実私や結衣の視界では、懐にまで迫る所どころか刀を振る速度でさえ目で捉えれなかったからだ。
「君達、降りておいで、それぞれ持ち武器の形をした物持って来て。」
渡辺さんがこちらを向くことなく私達に呼びかけて来た。こう言われては私達もやるしかないのだろう。
たんぽ槍と大盾を私は持っていくと渡辺さんは林さんに手をかざしていた。
「あの、何してるんですか?」
「ん?あーこれ?治療術使ってるだけだよ。」
治療もできるんだ…林さんの身体の傷が丸々消えていった。
「…治療術は正直言って誰でも使える、けどそれを習得するには少なくとも半年はかかる、私も8ヶ月で習得したけどこんな風に癒える事はなかったね。」
渡辺さんは林さんの治療をしながら私に語りかけてくる、ちなみに結衣はまだ時間がかかるとのこと。
「…君達には今からマナの使うタイミングを教え込もうと思ってるから、しっかり覚えて身体に叩き込むんだよ?」
私は首を縦に振る、すると後ろから結衣がやってきたので渡辺さんは林さんを隅に置いて木刀を構えた。
「…いくよ!」
渡辺さんが足を前に踏み込んだタイミングで私は盾を前に出した。
〜勝斗視点〜
…盾を前に出した…タイミングは良いな、よくできている、でも…
「甘いよ」
『雷牙突!』
俺は刀身に電気を纏わせ刺突する、すると盾を持っていた女の子は防ぎきれずに後ろに軽く飛ばされた。
「盾の女の子、君は盾を前に出すタイミングは良かった、でも前に出すと同時にマナを盾に込めないと防ぐ事はできない。」
そして俺はフレイルを持っている女の子の方を見る。
「フレイルの女の子、殴っておいで、振り切る瞬間にマナを木球に込めるんだ。」
すると女の子が勢いフレイルよく振り上げ、振り降ろしてくる、でもマナが籠ってない。
「マナが籠ってない、そんなんじゃ頭を殴打することどころか素手で止められるよ。」
俺は言った通りに素手で薙ぎ払った。まだ甘いな。でもまだ技すら覚えていないのならまだそんなもんか、逆に考えてこの2人は武器の使い所、使い方はそれなりに高い、遥に教わればさらによくなるだろうな…。
「とりあえず今日はこの辺り、今から私は見回りに出るからゆっくり休みな。」
そう言い俺は刀を背に背負い道場を後にした。
〜結衣視点〜
渡辺さんが出た後、私と咲は夕飯を食べ、私は家に帰る支度をしていると、咲がたんぽ槍を持って何処かに行くのが見えた。私は気になってバレないように後をつけると、咲は道場に入っていった。
「ふっ…!ふっ…!」
咲はマネキンに向かってたんぽ槍を突き出す動作を取り返している。それも必死な顔で。
「…初めて見たな、あんな顔…」
私が咲と出会ったのはいつ頃だったろう。少なくとも幼い頃から一緒にいる記憶がある、最近の咲は色んな表情を出してくれるが、組織に入る前は無愛想で何に対しても興味がなく、周りから孤立している、そんなことから冷たい人だと言われていた。そんな咲が
「はぁ…はぁ…まだ…まだやれる…!」
今こうして、必死な顔をして鍛錬をしている。
「努力するということは」
突然私の背後から声が聞こえた、私は驚きながらもその声の主の方を見る、林さんが立っていた。
「努力するのは当たり前、そう思っている人が多いのは勿論だが、それをやるという行動力がある人は意外とそんなに多くないんだわ。」
私は思わず林さんの言葉に聞き入ってしまう。
「皆は勝斗の事を天才だとか才能があるだとかいうけどさ、実際は違うんだ、あいつは死ぬ程努力をして、しごかれにしごかれて今に至るんだよ。」
当然俺も最初は才能やら天才やらと言ってたけどね、
と林さんは続ける。
「それに、俺らは強くならなきゃすぐに死んじまう稼業だからな、そしてそんな風にすぐに死んでしまったらさらに多くの人が犠牲になる。」
それはそうだ、私達は命を賭けてこの日本の人々を守る為に戦っているのだから。
「だからこそ、あんな風に努力して強くなろうと必死こいて頑張っているんだろうな、あの子なりのやり方でね。」
気づけば私はフレイルを持って道場に入っていった、咲はこちらを視認すると驚きながらも平然を保っている。
「咲」
私は咲を見つめると、咲はどうしたの、という風にこちらを見つめてくる。
「一緒に稽古しようよ、1人でじゃなくて、私達2人でさ?」
「…うん。」
心なしかその表情はとても嬉しそうに見えた。なんだ、そんな顔できるじゃん、普段からそうすれば可愛いのに、綺麗な顔が勿体無い、と心の中で毒を吐いて私はフレイルを構え、咲とぶつかりあった。
〜林視点〜
「柄にも無いこと言うじゃん?」
「お前…帰ってきてたんかよ。」
勝斗が俺の後ろから声を掛けてきた、この感じだと最初あたりから聞いていたな…
「俺は最初からお前みたいに強くはなかった…ってそう思ってたよ、けど蓋を開けてみればお前も最初から強くなくて、相当な…それも幼い頃からずっとしていたんだってのを知って変わったんだよ。」
「誰から聞いたんだか…」
勝斗がやれやれとした表情で溜息を吐く。
「困知勉行…才能がないなら才能がないなりに努力して、工夫をして、やっと凡人になれる、そう思いながらやれば誰でも皮を剥くことができるんだよ。」
うぉ…こいつ良いこと言いやがった。
「…誰の言葉?」
「俺の師匠の言葉さ」
さてと、と言い勝斗は道場を向く。
「後輩が頑張ってんだ、それに応えることができなければ俺らは成り立たれねえよ。」
「…そうだな。」
そう言い俺らはあの子達にマナの使い方から教える為に道場に足を前に進めた。




