1章50話 身代わりの覚悟
私が驚愕している暇もなくゴブリンウィッチの攻撃を盾で防いでいるタイラーの背後にゴブリンが2体、ロビンに回復薬を飲ませているリリィの元に2体が向かっていた。
この時の私に詠唱モドキをしている暇もなく、私は無詠唱で水の玉をまずタイラーの方の魔物に放ち、その球がゴブリンのに当たるかなんて確認もしないままリリィの方のゴブリンへと水の球を放った。
イメージを固める時間が短かったからか、水の球のサイズはいつもより小さいがゴブリンを倒すには十分だったようで、4体のゴブリンは水の玉に押されて吹き飛び、2体は死亡し、残り2体も生きているようだが重傷なようで立ち上がってはこなかった。
私の無詠唱の魔法にロビンは回復薬による回復中で意識がまだ朦朧としているようで気づいていなく、リリィも回復薬をロビンに飲ませるのに集中していて気付いていない様だった。
タイラーは不審に思ったようだがそれどころではなく、なにも言ってはこなかった。
そして、ゴブリンウィッチは無詠唱の魔法を見てこちらを訝しそうにそして、どこか嬉しそうに見ていた。
「うっ……」
「ロビン!大丈夫!?」
背後で二人の声が聞こえ、回復薬が効いてロビンが意識を取り戻したのだとわかった。
「ロビン……意識が戻ったか……リリィ!マリ!ロビンを抱えて森の外まで逃げろ!」
タイラーの怒気のこもった指示に場が凍る。
「何言ってんだ?タイラー?」
意識を取り戻したタイラーがリリィに支えられながら立ち上がり、か細い声で言った。
「そうだよ!タイラー!何を言ってるの!?」
「前の敵を見ろ!俺らのかなう相手ではない!それなら一人が犠牲になってでも他のメンバーを逃がした方が全滅よりはいいだろ!」
タイラーはゴブリンウィッチの魔法を受けながら怒鳴り声でいった。
ちなみに、ゴブリンウィッチは余裕なようでタイラーがいつ倒れるかを楽しんでいるようにタイラーのみを攻撃していた。
「俺が……リーダーだ……俺の責任だ……犠牲になるのは俺だ!」
ロビンはやっとのこと一人で立ち上がり息切れを起こしながら言った。
「ボロ雑巾のようなお前に何ができる!!リリィ!これは親友としての願いだ!ロビンを連れて逃げろ!」
タイラーの悲鳴に近い怒号には、強い感情が感じられた。
「……なんで……タイラーが犠牲にならないといけないの?」
リリィはタイラーの選択に納得しなければならないのに納得できなかった。
リリィの発言は現実が見れておらずリリィの感情が定まっていないのがよく分かった。
「リリィ!……ロビンのことが好きなんだろ!なら!ここで逃げて幸せになってくれ!それが!俺の!一番の望みだ!」
私は悩んでいた……私にはやらなければならないことがあり、それはこのパーティーでなくても達成できるし、いまだ私は3週間とパーティーに入ってから日が浅い。
冒険者には死はつきものであり、タイラーの合理的な考えは一理あると私も思ったからだ。
ただ、今の言葉を第三者目線で聞き、タイラーの本当の気持ちが分かり、私の境遇と重ねてしまった時点で私は見捨てることをやめたくなってしまった。
「私……残るわ!」
私が力強く言い切るとあまりに衝撃的だったのか、攻撃を受けて居る最中のタイラーがこっちを一瞬見る。
「マリまで何を言ってるんだ!マリのにはやらなきゃいけないことだって帰らなきゃいけない故郷だってあるだろ!」
タイラーの声色には明らかに怒りの気持ちが込められていて私は少し怖いと思った。
「タイラーの言うとおり、私にはやらなきゃいけないことがあるし死ぬ気はないわ!」
「じゃあどうして!」
「私とタイラーでゴブリンウィッチ相手ならかなりの時間を稼ぐことができると思うの!それこそ救援が来るくらいは!リリィ!お荷物だと思うけどこの戦場に居られるともっと邪魔だから申し訳ないけどそのボロボロのロビンを連れて森の外まで行ってくれる?そして森の外に出たらそのお荷物を置いて自慢のその足でロンロンの街まで走って救援を頼んで頂戴!タイラー!私たちでそれまで耐えるわよ!」
「う!うん!」
私の言葉を聞いたリリィの声色はいつものようなやる気に満ちた元気な声色で私は安心してリリィに背を向け、ゴブリンウィッチの方を向いた。
「マリ……その口調……」
ロビンも緊張がほぐれたのか軽口をたたいてきて、さっきまで死を覚悟していたとは思えなかった。
ただ!タイラーの目には強いやる気を感じた。
「なに?知らないの?女は1枚や2枚猫を被るものなのよ!」
「じゃあリリィは女じゃないなw」
「確かにw……でも!好きなんでしょ!」
「……うるさい!」
私たちはそんな軽口を掛け合いながらゴブリンウィッチに対して戦闘態勢をとった。
タイラーは私の前で盾を構え、私の手には無詠唱で水の玉があらわれる。
「確かにそれで猫2枚目だな!」
今の二人はリリィなら救援を呼んで帰ってくるという自信と信頼しかなかった。
「イヤャァー―――――!」
その瞬間すぐ背後から甲高い悲鳴がこだました。