1章22話 初めてのおにぎり
「ねぇ!ママはどうやってパパと結婚したの?」
「どうしたの?急に?」
「いや!だって確かにママは美人だけどパパも顔整っててしかも村長の息子だったんでしょ?ライバル多かったんじゃないかなって」
「あらあらそんなこと聞いて気になる子でもいるの?」
「まままぁ……私だって年頃の女の子だし~きき気になる人の一人くらいはね~」
「あらあらマナにこ~んかわいい顔をさせるなんてママ少し焼いちゃうわ~」
「わわ私のことはいいからママとパパの馴れ初めが聞きたいの!」
「うふふ……そうねーママは最初にパパの胃袋を掴んだのよ!パパったらママが手作りのお弁当を上げたらすっごく喜んでね~おいしいおいしいって尻尾を振ってるワンちゃんみたいだったわ!」
ママとパパののろけ話を聞くのは娘としてきつかったが少し頬を赤らめたママの姿は娘から見てもとてもきれいでパパの心を奪ったのは料理だけではないことはよくわかった。
私もこんな顔ができればアキトに振り向いてもらえるのかな……。
でも確かに手料理はいいかも!料理はしたことないけど私だってママの子供なんだからきっと料理だってうまいはずだわ!
「ママ!私に料理教えて!」
「任せなさい!まず何を作ろうかしらね!」
そして私とママはキッチンに向かいママが食材をウキウキしながら選んでいく。
自分のことじゃないのにルンルンのなママの姿に私の中に恥ずかしさがこみあげてきた。
「おにぎりなんてどうかしら?おにぎりなら片手で手軽に食べれるでしょ?」
確かにおにぎりは昔の勇者が広めた料理でヒナさんの故郷で良く食べられてる料理らしいしアキトもよく食べてるだろうからちょうどいいかも。
「あらあら!うふふ」
考え込んでいる私を見るママの目は優しくそして、鋭いきがした。
そして私はママと一緒におにぎりを握った。炊き立てのお米はすごく熱々で私は何度もお米を投げちゃいそうになったが一生懸命握った。
「できた!えへへーどうかなー」
完成したおにぎりはとても形がいびつで隣のママのおにぎりと比べると雲泥の差だったが、私の頭には喜ぶアキトの顔が浮かんでおり、自分のおにぎりの出来にすごく満足していた。
「ママ!早速渡しに行ってくるね!」
私は我慢できなくなりおにぎりを持って勢いよく家から出た。
「マナ!そのおにぎり味み……」
後ろから何かを言うママの声が聞こえたが私の耳には入ってこず、修行の疲れが取れるように塩多めに入れたからきっとアキトの疲れなんて吹っ飛ぶわ!そんなのんきなことを考えながらスキップをするかのようにハイテンションでアキトの家へと向かった。
「アキトー!私がきてあげたわよぉ〜」
わたしはアキトの姿を見付けてすぐさま声をかけた。
「…………」
アキトは私の声掛けを無視するくらいに素振りに集中していた。
「ねぇーねぇーわざわざ私がきてあげたのよ?なんかないの?」
私の中にずっとこの集中しているかっこいいアキトを見ていたい自分と私の方を見てほしい自分が両立したが、私はいつものようにからかうことでこっちを見てもらう選択をした。
「………………」
「なに?もしかして剣振りながら寝てるの?聞こえないのー?」
からかっても見向きもしないアキトに私はむきになってからかいが煽りへと変わっていく。
「……」
「おーいおーいあーきとくーん」
自分でも私ってめんどくさいなとも少し思いながらも歯止めが利かない私は煽り続ける。
「うるっさいわぁ!ボケェー!!どう考えても集中しながら剣の修行してるんだろうがよぉー師匠ならあっちだから早く行け!」
ついに私はアキトを怒らせてしまったがそれよりもあの修行狂のアキトが修行中なのに意識をこちらに向けてくれて喜びが大きかった。
まぁ……こんな言い合いを私は半年前のあの日から続けているわけで素直になれない自分にかなり呆れている。
「アキトそのくらいで集中切らすなんてまだまだだなぁ」
そんないつも道理の会話をしていると私のライ……魔法の師匠であるヒナさんがやってきてアキトをからかう。
「アキトまだまだね!」
私はやっとこちらに向いた意識をライ……ヒナさんに取られたくなく、何か言おうと思うがヒナさんに同調してアキトをからかうことしかできなかった。
「ふざけんなお前!誰のせいだと思ってんだよ!てか!師匠もこいつの味方やめてください!こいつが調子乗ります!」
ヒナさんだってアキトをからかったのに私だけ怒られた現状を不満に思う。
「すまんすまんwマナを見ていたら私もアキトをからかいたくなってなw」
そういったヒナさんは大人の女性なはずなのにどこか子供のようなかわいさがあり、正直羨ましいし、ずるいと思った。
「どうせ今日も師匠に魔法を教わりに来たんだろ!素振りの邪魔だからいつも通りあっちでやってくれ。」
それでさえ私はヒナさんとの戦力差にやられて気落ちしてるというのにアキトは私に追い打ちをかける。
「何なのよ!邪魔者みたいな扱いして!」
邪魔だと言われた私の中に怒りがこみ上げるが今日の私には秘密兵器があるのでいったん落ち着く。
「だからお前は邪魔者なんだよ!」
あまりにストレートな言葉に傷つきそうになったので私はこのタイミングで秘密兵器を出すことにした。
「へぇーそんなこと言っていいのかなーこのかわいい私が手作りで初めておにぎりを作って来てあげたのにーそんなんじゃおにぎりあげないぞぉ!」
私は自信満々に言いのけて頭の中で喜ぶアキトの姿を想像する。
「はぁ?お前のおにぎりになんの価値があるんだ?師匠のおにぎりならまだしも!」
アキトの口から出た言葉は私の想像していたのとは違いとても残酷だった。
「………………」
確かに、アキトが私のおにぎりで素直に喜ぶわけがなかったんだ……私はそう言い聞かせることで勝手に舞い上がって期待していた自分の心の傷を見て見ぬふりをしようと……心を守ろうと……でも私の心は確かな傷を受けていて今にも出てきそうな涙を止めたいのに勝手に出てきてしまう……私はアキトに涙を見せたくない一心でアキトの前から逃げようとする。
逃げようとした私の腕を誰かが掴む……私は腕を掴んでいるのはもしかしたらアキトなのではという期待が頭に広がるが私の腕を掴む感触がアキトでないことを私に伝えてくる。
また期待してしまった自分の愚かさと理想どおりにいかない現実への憤りと自分が勝手にライバルだと思っていた自分の慈悲を受けたことにより自分のみじめさを感じたことで私の瞳から流れる涙の勢いが早まる。
私の思考はいつも以上に早く回り心がマイナスに沈んでいく。
そんな時私の背後から大きな破裂音が鳴り、私を意識の世界から現実へと引き戻す。
「アキト…今の言葉はよくない…」
後ろから聞こえるヒナさんの声色は今までに聞いたことがないくらい重量感があり私は衝撃と恐怖から私の顔は自然と後ろに向いた。
振り向いた私はさらに衝撃を受けた……ヒナさんの顔はとても悲しそうでなぜか今にも泣きそうであった…その顔は今の状況で第三者のはずのヒナさんが自分のことのように感じていることを物語っていた。
「ごめん…マナ…言い過ぎた…許して欲しい」
アキトが落ち込んだ声で私に謝ってきたが私の沈み込んだ思考はアキトはヒナさんに言われたから……ヒナさんを悲しませたく無いから誤っているんだ……私に謝っているわけではないという邪念が浮かぶ。
そんな邪念を否定したい自分もいるが邪念をかき消すような材用が私の思考の海には無かった。
私の思考の中を邪念が支配し、パンパンになった思考をアキトにぶちまけて楽になりたいと思考が訴えるが、そんなことをすれば確実にアキトを傷つけるしもしかしたら関係を壊してしまうかもしれないと理性が訴えてくる。
「……うん……いいよ……でもごめん今日はもう帰る……」
私は今にも張り裂けそうな思考を理性で押し付けて絞り出すように言葉を発した。
私はいいよと言いながらも思考を邪念が支配していたため、アキトを傷つける前に帰ることにする。
帰ろうと振りかえった私の腕がまた掴まれる。
さっきとは違う腕の感触に私の曇り切った思考が少しクリアになる。
私の腕を掴む人間がだれかを理解した私の中に幸福と緊張がはしった。
アキトの腕のぬくもりには幸福を感じるが、私はアキト次の行動が想像できず恐怖していた。
今以上に……傷つく言葉を突き付けられたら私は……。
ここでアキトが優しい言葉をくれたとして信じられるのだろうか……。
「なに?……」
恐怖から出た私の言葉はとてもかぼそかった。
私の目線は自然と恐怖と好奇心からアキトの口元へと向いた。
そんな私を裏切るようにアキトの腕が私が持っていたバスケットの方へと手が伸びる。
私が完全に不意をつかれて唖然としているとアキトはバスケットからおにぎりを取ると、おにぎりを思いっきり口に運んだ。
アキトの顔が一瞬歪み、唖然としていた私の中に不安が広がる。
「マナは料理はっ!うまいんだなこのおにぎりも最高だよ!」
私の思考が停止した……ぐちゃぐちゃになった思考がこれが現実なのか夢なのかすらも判断してくれない。
アキトが普段呼ばないマナという呼び方……いつもと違う優しい口調……私の期待していた言葉……そのすべての要素が私の思考をオーバーヒートさせていく。
邪念に満たされた私の感情に幸福感があふれ出す。
私は思考することを辞め、半ば現実逃避をするように幸福感に身を任せる。
「えっへへーそーでしょぉほんとギリギリセーフね!もしかしたらこんなに美味しい私のおにぎりが食べれないところだったわよ!食べれてアキトは幸せ者ね!」
私の口角は自然に上がり、どんどん心が幸せでいっぱいになる。
すると、私の思考の中に欲望が芽生えた。
もっと甘い言葉をかけてほしい……傷ついた私を抱きしめてほしい……そしてそのまま私とアキトは……。
私の感情にゆとりが出始めたことで停止していた理性が動作を始める。
理性が動作したことで私の思考が冷静になっていき……自分の考えがとても恥ずかしいことに気づく。
私は恥ずかしくなり、村の方へと足早に変えるがまるでスキップをするような私の足取りはまだ理性が働いていないことを物語っていた。
私は家に着くと、バスケットをキッチンのテーブルに置くと一目散に部屋へと向かった。
私は自分のベットに飛び込むと恥ずかしさからもだえ苦しむ。
私の脳内ではアキトの言葉が永遠に再生されておりそのたびに私は思考はオーバーヒートする。
そんな中玄関の方から「ただいま」というパパの声が聞こえるが今の私の頭の中には入ってこない。
そして少し経ったとき今度はキッチンの方から「しょっぱーーー!!」という叫び声が聞こえる。
その時私の脳内にある不安が宿り、私はその不安を否定したい一心で声の方へと向かった。
そこには、勢いよく水を飲むパパの姿があり、パパの手には形の少しいびつなおにぎりがあった。
その現状とさっきの言葉から推理できる答えは一つなのだが私はそれを信じたくなかった。
私は信じたくない一心で恐る恐るバスケットの中のおにぎりを取る。
そんな私の隣でなんだかパパが色々は話しているがわたしの頭には入ってこない。
そして私はおにぎりをゆっくりと口に運んだ。
「………………!!!」
その瞬間私の舌と脳に強い衝撃が走り、私の不安が事実だと突き付けられる。
口の中に広がる刺激と米と米の間から出るじゃりじゃりした食感に不快感がでてくる。
そして、私の口の中が刺激と不快感から解放されていくにつれ自分のしでかしたことを思い出し、私の頭が真っ白になり目から涙があふれ出てきた。
真っ白な脳内に隣からパパの声で「パパが悪かった!このしょっぱさが疲れた体にきいていいな!」なんて言う言葉と共にもう一口食べてもだえる姿が見えたが今の私はそんなことを気にしていられなかった。
すると私の肩を誰かが叩き私が振り返ると布が私の目元からあふれていた雫を拭き取る。
私がその布の正体がママのエプロンだと気付いたときにママは私の耳元に顔を寄せてきて小声で呟いた。
「ちょっとお部屋でお話ししましょ!」
そういうと私はママに手を引かれて私は自分の部屋に向かう……最初パパが泣きそうな顔しながら私たちについてこようとしたがママに睨まれて今にも泣きそうな顔でキッチンの椅子に座り直した。
「マナ?今日何があったのか聞いてもいい?」