第1話:転生先がハズレだった件
目を開けると、俺はなんとも言えない質素な草原に立っていた。風は気持ちいいし、空気は澄んでいる。だが、問題はそこじゃない。
「……これ、どこ?」
辺りを見回しても、あるのは遠くの森と何匹かのウサギだけ。だいたい、転生ってもっとドラマチックなものだろ? 見知らぬ土地で目を覚ますだけなら、異世界じゃなくても田舎に迷い込んだだけじゃないか。
「ようこそ、勇者よ!」
唐突に声がした。振り返ると、煌びやかなローブを羽織ったおっさんが現れた。杖を持ち、何やら偉そうに見えるが、俺はすぐにため息をついた。
「いやいや、ちょっと待って。どう見ても俺、勇者っぽくないんだが?」
鏡がなくてもわかる。俺は身長170センチそこそこで、筋肉もなければ特別なオーラもない。ただの冴えないサラリーマンだったんだから。
「確かに、見た目は頼りないが、選ばれし者だ!」
「いや、それどういう基準? 俺、オーディションとか参加してないけど?」
おっさんは苦笑しながら言葉を続けた。
「詳しいことは王城で……」
「ちょっと待て。王城? まず飯だろ、飯。俺、さっきまで働いてたんだぞ。異世界転生って、普通もっと歓迎ムードじゃないの?」
おっさんは一瞬黙った後、ポケットから固そうなパンを取り出した。
「これでも食べて元気を出してくれ」
渡されたのは、どう見ても石ころにしか見えないパンだった。俺はそれを受け取り、再びため息をつく。
「……帰りたい」
こうして俺の、やる気ゼロの異世界生活が幕を開けた。