45 金色姫と雪の草原(終)
「皆、そろそろ準備はできている?」
「はい!」
「大丈夫です、奥様!」
わたしが使用人達を振り向くと、彼らはいい笑顔で返事をしてくれた。
使用人達同士も、かなり仲を深めたらしく、ルビエールの侍女達の中には別れを惜しんで泣いてくれている人もいる。
「サーシャさん、またね。本当に、気を付けるのよ」
「すぐに慌てる癖は直さないとだめよ」
「髪はちゃんと櫛を入れてね」
「寝るときは髪を乾かして」
「もう!! 皆さん、私のお母さんですか!?」
ストロベリーブロンドのリーディア付きの侍女は、何やら侍女部屋のアイドルだったらしい。
お茶目で粗忽ものなピンク髪の二十歳は、人懐っこく元気一杯で、先輩侍女達の母性本能をわしづかみにしてしまったようだ。
これは、連れて帰らない方がいいのかしら。
「あっ、奥様! 私も帰りますよ! 置いていかないでくださいね!?」
「考えを読むなんて、恐ろしい子……」
「奥様!!!」
サーシャは青ざめた顔をしながら、しっかりと旅行鞄を手にして、帰る意思を示している。
「冗談よ。あなたがいないと、リーディアが寂しがって困るわ」
「本当ですね!? いえ、冗談ですね!?」
今回の旅で苦労した使用人第一位に輝いた彼女には、あとでこっそりボーナスを渡すことにしていた。
けれども、今それを言うと彼女の口から全てが駄々洩れてしまいそうなので、あともう少し、秘密にしておこうと思う。
そうして、わたし達大人が、順調に別れの挨拶を交し、そろそろ出発という頃。
まだお別れのすまない、金銀の高貴で可愛い天使と姫がいた。
もちろん、リーディアとエルヴィラちゃんである。
リーディアとエルヴィラちゃんの首元には、お揃いの木彫りの首飾りが下げられている。
タラバンテ族の木彫りのおじい様が、エルヴィラちゃんのために、もう一つ首飾りを作ってくれたのだ。
その首飾りの中心にはもちろん、母ナタリーさんの名前が刻まれている。
「エリーちゃん。一ヶ月後にね、リーは王都にいくの。だから、そこでまた会えるよね?」
リーディアの言葉に、エルヴィラは青ざめる。
王都と言えば、女の人に追いかけまわされる魔境のことではないのか。
そんなエルヴィラに、ディエゴは不思議に思った。
エルヴィラは、王都が大好きだったはずだけれども、その表情はどうしたことだろう。
「リアちゃん。王都は危ないのよ。たくさんの女の人に追いかけまわされるのよ?」
「エリーちゃんに会うためだから、リーはね、頑張るの」
「リアちゃん……!」
感動に打ち震える金色姫と、頼りがいのある顔をしているつもりのもちもちほっぺの銀色天使に、わたしもリカルドも首をかしげる。
「追い回される?」
「そうよ。マリアさんは知らないの?」
「ママ。エリーちゃんにはね、秘密を教えてあげたの。エリーちゃんを守るためなの」
世にも神妙な顔つき――傍目にはぷくぷくほっぺが何より可愛い、愛らしい天使とお姫様――をした二人は、手を繋いだまま、わたしに向き直った。
何やら、彼女達はその身に抱える重大な秘密ごとをわたしに教えてくれるらしい。
「王都に行くと、可愛い子や格好良い子は、たくさんの女の人に追いかけまわされるのよ。はくしきなリアちゃんに、教えてもらったのよ!」
「ふふーん」
自信満々で知識を披露する、わたし達の可愛いリルニーノ達。
そんな可愛さ爆発の二人に、この誤解をどう解くべきなのか、わたしとリカルドは青い顔をして顔を見合わせるのだった。
〜 第二部 金色姫と雪の草原 終わり 〜
続編完結です。
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