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44 リキュール伯爵領への帰還



 こうして、わたし達は十二月十五日を迎えた。

 ルビエール辺境伯領を発ち、リキュール伯爵領に帰る日である。


 元々、わたし達は十二月十五日便でリキュール伯爵領から王都に向かい、社交をする予定だった。

 しかし、ここまでいろいろとありすぎたので、一家三人で協議した結果、わたし達はひとまず、リキュール伯爵邸に帰宅することにしたのである。


「マリアさん、ここまでどうもありがとう」

「ルシアおばあ様」

「本当に楽しかったわ。また絶対に、遊びに来てちょうだいね」

「はい、必ず! これからルシアおばあ様がいないなんて……わたし、すごく寂しいです」

「もう、マリアさんたら可愛いんだから!」


 涙をにじませながら抱きしめてくれるルシアおばあ様に、わたしも遠慮せずに抱き着く。


 ルシアおばあ様がリキュール伯爵邸にやってきてからというもの、毎日がとても賑やかで楽しかった。

 リカルドも、ちょっとした領地経営の相談もしていたようだし、リーディアも懐いていて、それは素敵な日々だったのだ。


 そうして別れを惜しむわたし達に、ルイスおじい様の低い声が割って入った。


「大げさだなルシア。一ヶ月後にはまた会えるだろうに」

「そうだよ、おばあ様。リカルド兄さん、来月には王都に行くんだろう?」

「その予定だ」


 頷くリカルドに、ルシアおばあ様は嬉しそうに目じりをぬぐう。


 今日の十二月十五日便で、わたし達はリキュール伯爵領に戻るけれども、十二月末か一月十五日便あたりで、社交を行うために家族で王都に行く予定なのだ。

 ルビエール辺境伯家としても社交は必要なので、同じぐらいの時期に王都に向かう予定らしい。



「それじゃあ、本当に暫くの別れになるのは、俺達だけかな」


 そう言ったのは、タシオである。

 実は、旅立ちに当たり、タシオとディエゴ君も見送りに来てくれたのだ。


「そうなるな。タシオ。色々あったが、君との戦いは素晴らしいものだった。どうもありがとう」

「まーたキラキラした顔でそういうことを……あんたも割と、マリアに負けず劣らず人たらしだよなあ」

「そうか?」

「まあいい。レヴァルじゃあないが、またいつか再戦しようぜ。コテンパンにしてやるよ」

「望むところだ。……ただ、そうだな。今度は君がうちに来てくれ。歓待するよ」


 リカルドの言葉に、タシオは目を丸くしている。

 そして、くつくつと笑いながら、手を差し出した。


「そうだな。うん、そうだ。今度は、俺がそっちに行くよ」

「ありがとう。待っている」


 手を握る二人に、わたしは嬉しくて、頬がほころぶのを感じる。


 タシオはきっと、変わっていくのだろう。

 もしかしたら、草原から逃げ回るローズリンシャさんと、穏やかに顔を合わせる日が来るのかもしれない。



「それにしても、お父さんがここにいるなんてね」


 チラリと視線を投げるわたしに、共に帰領予定の父マーカスは肩をすくめる。


 わたしはあれから、父マーカスに、何故この場にいるのか詰め寄った。

 なんと、父はわたし達を心配するあまり、今年の冬の行き先を変更して、わざわざルビエール一帯にやってきて草原の部族を巡っていたらしい。


「お前は本当に鈍感だからなあ」

「お、お父さんに言われたくないもの! お父さんだってね、お母さんが髪を切ったことに気が付かないくせに!」

「あ、あれはほんの少し毛先を切っただけじゃあないか。それに、お母さんはどんな髪型でも可愛いから、父さんには見分けがつかないこともあるんだ」

「お父さん、最低!」

「もう、これだから娘は大変だ」


 肩を落とす今回の立役者に、リカルドはただ、くつくつと笑った後、心からの礼を述べて頭を下げた。


 もちろん、あとからわたしも、抱き着いてお礼を言っておいた。

 父は呆れたようにしながら、頭を撫でてくれた。



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