43 今まで出会った中で最高のスナイパー
会場が、ワッと歓声で沸いた。
花吹雪が舞い、楽しげな音楽が流れ、その軽快な空気が祝杯の始まりを告げている。
「……タシオ、君は」
「――だが、あのまま行けば、俺の勝ちだったな」
肩を離し、ニヤリと笑うタシオ。
言い返すことのないリカルドに、彼はその肩を小突いた。
「絶対に幸せにしろよ」
「生涯をかけて幸せにすると誓おう」
「……あんたは、本当にそうするんだろうな」
「もちろんだ。彼女の笑顔を見るためにできる限りのことをする。それが私のやりたいことだからな」
タシオは目を見開いた。
マリアの笑顔を見ること。
それは、タシオにとって、彼女の隣にいるだけで可能なことで、その立場を得ようとはしても、笑顔を増やすために何かをしようと思ったことがなかった。
『一緒にいると、もっと幸せになれる人』
つまりは、そういうことなのか。
「なるほどな」
「うん?」
「いや、なんでもない。……あんたとマリアはお似合いだよ、リカルド」
つきものが落ちたようなタシオの笑顔に、リカルドは目を瞬く。
そして、嬉しそうに顔を綻ばせた。
~✿~✿~✿~
「……よ、よかった……」
わたしは、緊張から脱したせいで、綺麗な衣装が汚れるのも構わず、へなへなとその場でへたり込んでしまった。
会場には笑顔が満ちていて、それが、全てが丸くおさまったのだということを感じさせてくれる。
とはいえ、怒涛の展開に頭がついていかずに混乱していると、横から可愛い銀色スナイパーが抱きついてきた。
「ママ!」
「リーディア」
可愛い銀色スナイパーは、わたしを見ると、紅葉のようなお手手でわたしの頭を撫でた。
「もう。ママ、あぶなかったの。やっぱり、ママは可愛いから、すぐに攫われちゃうのよ。気を付けないとだめなのよ?」
真面目な顔をして、ぷりぷり怒っているリーディアに、わたしはやはり言葉が出てこず、ポロリと涙を落とした。
ピャッと飛び上がったリーディアに構わず、わたしはポロポロと涙をこぼし続ける。
そうだ、最初からこの可愛い大切な愛娘は、気をつけろと言ってくれていたではないか。
なのにわたしときたら、本当に本当に、至らないママで。
『一緒に頑張ればいいのです。奥様が幸せにしたいと願う新しい家族は、きっと奥様の力になってくれますよ』
いつしかに、わたし付きの侍女マーサが言ってくれた言葉が脳裏に蘇る。
転けた私を助け起こしてくれたのは、やっぱり新しい家族だった。
可愛くて愛しくて、わたしの心をいつでも射抜いてくる、今まで出会った中で最高のスナイパー。
わたしは気持ちのままに、リーディアに抱きつくと、彼女は急なことに驚いていた。
だけど、至らないママは、リーディアを離してあげたりしないのだ。
だって、救世主な銀色スナイパーに、わたしという新米ママは、またしても心を撃ち抜かれてしまったのだから。
「ママ!?」
「リーディア、ありがとう。ありがとう……」
そうして、泣きながらずっとしがみついているわたしに、リーディアはあわわわ、と顔を赤くして目を彷徨わせている。
そして最終的には、「も、もう。ママは甘えっ子ね?」「本当に、リーがいないとだめなの。リーの後ろにちゃんと隠れているのよ?」と、沢山頭を撫でてくれたのである。







