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40 レヴァルの戦い ※タシオ・リカルド視点



 レースが始まり、タシオは最初にスパートをかけた。


(奴の体はでかい。だから、足が速いのは、身軽な俺の方だ。先に大きく引き剥がして、相手の馬のやる気を削ぐ!)


 みるみるうちに、リカルドの馬との距離を作るタシオ。

 リカルドも馬の意欲を削ぎたくはなかったのだろう、鞭をふるい、タシオの背に追いついてくる。


 タシオは、ニヤリとほくそ笑んだ。


(初期にそんなふうに走らせていいのか? 同じように走らせても、こちらの方が体力があるから――)


 最後まで思う前に、リカルドから木刀の剣戟が飛んできた。

 まだ射程外だと思っていたため、想定外の攻撃に、タシオは慌てて上半身をしならせ、それを避ける。


「っ!」

「なかなか、柔軟じゃないか!」


 リカルドは、その背の高さ、長い手足を利用し、タシオに剣戟を届かせてくる。

 タシオが避けても、剣捌きで柔軟に彼の意表を突いてくる。


 避けきれなかった剣戟を木刀で数度受け、タシオの動きが鈍ったところで、リカルドはすかさず渾身の一撃を入れてきた。

 激しい音と共に、タシオは弾き飛ばされ、馬ごとコースの外側に振られる。

 その隙にリカルドはインコースを取り、タシオの馬との距離を引き離す。


(あいつ! ……なんって、重い剣戟だ!)


 リカルドは背が高い。

 大きな体躯のものは、一般的に、力任せの不粋な剣を使うことが多い。


 だから、リカルドがこのように柔軟な剣遣いをするとは予想外で、その剣戟の重たさは予想以上だった。


 しかし、タシオは笑った。


(これでこそ、レヴァルだ!)


 男同士の戦い。

 女を屈服させ、手に入れるための勝負。

 敵は充分に、戦いの技術を持った勇士。相手にとって不足はない。


 タシオは、鞭を持つ手に力を入れた。



   ~✿~✿~✿~


 リカルドは、タシオを追い抜き、距離を空けたものの、内心冷や汗をかいていた。


 タシオの馬は、想定以上に速い。リカルドの剣が届く範囲に追いつけるうちはこうして先を奪い返せるけれども、いつまでそれが続くか。


 けれども、勝算がないわけではない。


「リュクス、ありがとう。お前はスロースターターだ。なのに、よくぞ最初に追いついてくれた」


 魔力を乗せないリカルドの言葉は、リュクスと名付けたその馬に伝わるかどうかは分からない。

 けれども、リュクスは、その耳をぴくりと震わせ、リカルドに呼応するように走りを早める。


 そうしているうちに、タシオの馬が後ろから追い上げてきた。

 鞭を振るい、馬を鼓舞し、追い上げてきたのだ。


 近くに寄るタシオを、リカルドは何度も退けた。

 父から学んだ剣術を使い、タシオの剣を避け、腕を、体をしならせ、後ろへとタシオを跳ね飛ばす。


 しかし、四周目に突入したところで、タシオがリカルドの馬を潜り抜け、前へと躍り出た。


「くっ!」

「ははっ、こうなったら追いつけまい!」

「……っ! その驕りが、身を滅ぼすぞ!」


 前を駆けるタシオに、リカルドは鞭を振るい、馬を駆り、コースを駆け抜ける。


 この二週間、リカルドはリュクスと、ずっと草原を駆けてきた。

 たった二週間だけれども、リカルドはリュクスの癖や好み、性格を知るために向き合ってきたのだ。


「お前の一番、好みの流れだ」


 魔力は使わない。

 ただ、音で、リュクスに語りかける。


「有利に、何者もいない先頭を駆ける。ゴール直前に、追い抜かれる。負けず嫌いで、スローターターなお前の好む、最高の舞台だ」


 リカルドは、ただ、勝利を確信している。


「行こう」


 鞭を振るい、リカルドはリュクスを追い立てる。

 馬は騎手に呼応し、目の前を行く不届な馬を押し退けるべく、目を見開き、これ以上ない程の脚力を発揮する。


(なんだと! 俺が、追いつかれる!?)


 みるみる距離を縮めるリカルドの馬に、タシオは焦りを見せる。


 次に追いつかれたら、おそらく剣で弾かれ、外に弾き出される。

 そして、レースはあと一周を切った。

 もう追いつくための距離はない。


(追いつかれなければいい! あと半周を、逃げ切れば!)

(追いつける! リュクス、お前ならいける!)


 追う者と追われる者。

 両者は勝利を確信し、ただひたすらに終着を目指す。



 そして、ゴールまであと一歩というところで、白い光が弾けた。



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