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37 戦いの前 ※リカルド視点



 リカルドは控室のソファに座ったまま、目をつむり、手を組んで静かに集中していた。


 先ほど、余興の一貫で、リカルドとタシオはレースの会場を一周、試走した。


 二人揃っての試走ではない。

 しかし、ただ相手の走りを見るだけで、それが優秀な騎手のものであることは見て取れる。


 タシオの走る姿を思い浮かべながら、リカルドはただ、静かに自分の馬がレースで走る流れを脳裏でなぞる。



 リカルドは、リキュール伯爵家の一人息子として、それは厳しく育てられた。

 余りの訓練の厳しさに、一度父に、何故ここまで厳しくするのか尋ねたことがある。


「守るためだ」

「父さん?」

「ラフィリエは――母さんは、体が弱い。だからお前に兄弟はいないし、お前自身が戦場に立つこともおそらくないだろう。だが、お前の息子達は違う」


 背筋を伸ばして傾聴するリカルドに、父ロイド=リキュールは、涼やかな紫色の瞳を細める。


「私達リキュール伯爵家は、戦に駆り出される。この治癒の力が、聖女の力が、争いを呼び、人の欲を駆りたて、我らを戦いに赴かせる。お前はお前の息子達を守るために、厳しく育てなければならない」

「守る、ため」

「そうだ。きっとお前にも分かるときがくる」



(父さん、ありがとう)


 リカルドは今まさに、亡き父に感謝していた。


 息子達どころではない、今この瞬間、正にリカルド自身が戦いの場にいる。

 自らの力だけを試され、愛する家族を守るために、引くことのできない勝負に赴こうとしている。

 そのリカルドを守っているのは、間違いなく父の教えだ。


 父の持つ血筋は、リカルドに強靭で大きな体躯を与えた。


 父の施した訓練は、リカルドの力を大きく伸ばした。


 父の伝えた技術は、その力と体を効率よく使う武器となった。


 そして、父の教えはいつでも、リカルドの心の中にある。


「家族を守れ。この力は、私達の血は、いつでも我が一族に多くの選択を迫ってきた。だがリカルド、お前は大切なものを見失うな」


(そうだ。大切なのは、血ではない。力じゃない。家族を守ること)


 負けたらリカルドは、マリアに伝えたとおり、このルビエールとの縁を切る。

 伯爵位を返上して、隣国へ逃げることもいとわない。

 リカルドは、大切なものを見失わない。

 父の教えは、リカルドの背中を押し、その心を守っている。


 ただし、その選択肢が愛する妻の心に棘を残すことを、あの真面目で愛情深い人に傷を残してしまうことを、リカルドは誰よりも分かっている。


 そして、妻をあらゆる意味で守り切る方法も、これ以上なく理解している。


(絶対に勝つ)


 リカルドは、大きく、そしてゆっくりと、息を吐いた。


 タシオの馬は早い。

 自分よりも小さな体躯は、馬に負荷を与えず、早さを促すものとなっている。


 けれども、勝機はある。


 リカルドは、タシオに負けるつもりは一切ない。



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