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32 和平を繋ぐために ※ディエゴ視点


 こうして、ディエゴはエルヴィラに、頻繁に会いに行くようになった。


 「エリーと遊んでも、つまらないと思うのよ」という小さな金色のお姫様は、ディエゴをいつも初心に立ち返らせてくれる。


(自分の文化を、押し付けるだけじゃだめなんだ。相手の想いを理解しないと。でないと、エルヴィラは笑ってくれない)


 子どもならではの素直さで、エルヴィラはいつも、ディエゴのふとした時に現れる驕りを、敏感に感じ取っていた。


 ディエゴが草原の民のルールを押し付けると、エルヴィラはそっぽを向く。

 けれども、エルヴィラの気持ちを汲み取りながら話をすると、エルヴィラはころころと花のように笑ってくれる。


 正直、あまり好かれてはいないようなので、エルヴィラがもう少し大きくなったらこうした訪問もやめなければならないなと思いつつ、自分の未熟さを感じるディエゴは、つい、エルヴィラの元に足を運んでしまう。



   ~✿~✿~✿~


「ディエゴは、異国の王子様なの?」


 そんなときに現れたのが、南の地方からやってきたリーディアだ。


 この頃には、ディエゴは十歳、エルヴィラは六歳になっていた。


 透明感のある銀髪の眩しい、六歳のリキュール伯爵令嬢は、一目ディエゴを見ると、そのふくふくのほっぺを林檎色に染めて、目を彷徨わせながら、そうエルヴィラに聞いたのだ。


 ディエゴは珍しく、朗らかに笑った。


 王国民と会うとき、ディエゴは期待しないようにしていた。


 相手は草原の民を嫌っているかもしれない。

 蔑んでいるかもしれない。


 この頃には、ディエゴは、北の和平を保とうと努力している王国民は、主にルビエールの者であり、他の領地の王国民はそうでない場合が多いことに気が付いていたのだ。


 けれどもディエゴは揺らがなかった。


 ディエゴも、父のケメスも、ライアン達も、相手を尊重し、友好を結ぶために努力している。

 彼は十歳にして、多少の困難があるからこそ、人の上に立つ自分達が注力しているのだと知っていたのだ。


 そんな中で、なんの穢れもない、まっすぐな憧れの瞳を向けられ、ディエゴがどんなに嬉しかったか。


「ははっ、リーディア。君は面白いことを言うね」

「だってね。ディエゴはとってもキラキラしてるの。お顔も、なんだかリー達と違う感じで、でも格好いいの!」


 嬉しくてつい、サービス過剰かと思いながらもエタノール王国風の紳士の礼をとると、リーディアは飛び上がるように喜んでくれた。


 何故かもちもちほっぺをぷくーと膨らませていた金色姫は、その日以降、こころなしか態度が柔らかくなった気がする。


 人の和は広がっていくものなのだ。

 ディエゴは嬉しかった。


 リーディアの母マリアも、彼女と同じように、草原に好意的な人物であった。


 きっと、この和平は未来に繋がっていく。


 お互いのいいところを、尊重して、受け継いで。



   ~✿~✿~✿~


 そう思っていたディエゴの耳に、レヴァルの知らせが入った。


「なんてことをしたんだ、タシオ叔父さん!」


 十歳に過ぎないディエゴにとって、二十五歳の叔父に歯向かうことは、とても勇気のいることだった。

 けれども、ここで引く訳にはいかない。


「言うじゃないかディエゴ。お前、子どもごときが大人の俺に歯向かうのか」

「子どもでも分かることだ! 何故大人なのに分からない」

「なんだと」

「叔父さんは、外交担当じゃないか! この草原の民の中で、ルビエールのことを、誰よりも尊重すべき立場にいるあなたが、どうして相手の気持ちを尊重できないんだ!」


 レヴァルは、神聖な儀式だ。

 草原の民は、その申立ての重さを理解している。女性達も、そうしてレヴァルの果てに勝ち取られることを誇りに思っている。


 しかし、エタノール王国の女性達はそうではない。


「王国民と草原の誓いは、こんなふうに一方の想いを押し付けるためのものじゃない。お互いの考えを尊重せずに、和平などなるものか」

「ディエゴ!」

「タシオ叔父さんはレヴァルを取り下げるべきだ。マリアさんは、リカルド殿とリーディア嬢の家族だ。レヴァルでは、彼女の心は、叔父さんのものにはならない!」


 ディエゴの真っすぐな想いに、しかしタシオは頷かなかった。


 冷めた目で、自らの甥を見据えている。


「お前は子どもだ、ディエゴ」

「叔父さん!」

「だから、あの女の価値が分からない」


 は、と固まるディエゴに、タシオは笑う。



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