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12 銀色天使と金色姫の出会い



 エルヴィラは、またしても不機嫌の絶頂だった。


 今日は、十一月にしては一段と寒い。外は実際、雪がふぶいているのだ。

 だというのにエルヴィラは貴族の正装をさせられ、真っ白な毛皮のコートに身を包み、扉の外に出てのお出迎えの準備をしていた。


「こんなに寒いんだから、中でお出迎えすればいいのよ」

「こら、エルヴィラ」

「ママ。こんなのヒコウリツテキよ。エリーはきらい」

「また、そんなことを言って」


 ため息を吐く母ナタリーに、エルヴィラはツーンとそっぽを向く。


 エルヴィラは、母ナタリーや使用人達が、自分のことを我がまま娘だと言っていることを知っていた。


 だけど、どうしても我慢できない。

 だって、嫌いなものは嫌いだし、嫌なものは嫌なのだ。


 ここじゃないどこかに行けば、きっとこの気持ちは安らぐに違いない。

 そう思って、エルヴィラは王都を夢見る。


 緑色のビロードのワンピースに身を包み、タイツと皮のブーツでしっかり足元を守って、真っ白なウサギの毛皮のコートに身を包みながら、エルヴィラは自分の着ているコートにため息を吐く。


 王都御用達の仕立て屋のカタログでは、とっても可愛らしいデザインのコートが沢山あったのだ。

 しかし、このルビエール辺境伯領で、そのコートを使う時期は短い。半年以上、この毛皮を被って生活しなければならない。

 雪も寒さも分厚すぎるコートも、エルヴィラは大嫌いだった。


「おじい様達が到着したみたいだぞ。ほら、外に出よう」


 父リチャードの容赦ない宣告に、エルヴィラは母ナタリーに手を引かれながら、眉を限界まで顰めつつ、扉の外に出る。


「寒い!」

「寒いわねぇ」

「ははは、まあ来月よりは暖かいじゃないか」

「パパ、寒いものは寒いのよ!」

「ほら、パパの懐中石を持つといい」

「いらないもん」


 ぷいっとそっぽを向くエルヴィラに、やれやれと両親は肩をすくめる。


 そうしているうちに、白い景色の中、キラキラと輝く豪奢な馬車が四台、ルビエール辺境伯邸の門を潜り、中庭を通過し、扉の前にたどり着いた。


 どうせ大人が沢山降りてくるだけなのだ。

 そして、小さくて愛らしいエルヴィラを見て、彼女を褒め、その後、パパ達とおしゃべりをしながら居間にでも去っていく。

 そうしたら、エルヴィラの役目は終わりだ。

 早々に自室に戻ることにしよう。


 そう思っていると、なんだか父リチャード達が気になる会話をしていた。


「ルイスおじい様、おかえりなさませ」

「あの娘も来てくれたんだ。エルヴィラも喜ぶだろう」

「本当ですか! いや、よかった。この辺りに、中々同じ年頃の貴族の子は少ないですから」


 怪訝に思って、エルヴィラが曽祖父ルイスを見上げると、ルイスはがははと笑いながらエルヴィラの頭を撫でた。

 帽子ごと撫でるものだから、エルヴィラの頭はぐしゃぐしゃである。


「ひいおじいちゃま!」

「わはは、悪い悪い。ほら、エルヴィラ。お友達が遊びに来てくれたぞ!」

「お友達?」


 一体なんのことだろう。

 同じ年頃の、娘?


 そわっと浮き立つ心を押さえ、エルヴィラは髪の毛を直しながら、ルイス達の降りて来た馬車の一台後ろの馬車に視線を送る。


 するとそこから、背の高い銀髪の貴公子が降りてくるではないか!


 パカッと口を開け、呆然と彼の方を見ていると、貴公子はエルヴィラの視線に気が付いたのか、ふわりと目を細めて笑ってくれた。

 物語に出てくる王子様のようなその姿に、エルヴィラは空も飛べそうな心地になる。


 その後、なんだか優しそうな、ふわふわしたミルクティー色の髪の女の人が降りてきた。

 エルヴィラを見ると、パッと華やぐような笑顔になった後、馬車の中に声をかけている。


 そうして、ふわふわの女の人に導かれるようにして現れたのは、銀色の天使だった。


 透明感のあるツヤツヤサラサラの銀色の髪に、白くてふくふくのほっぺ、桜色の唇に、大きくて吊り目がちな紫色の瞳。

 キラキラ輝くその紫色の宝石に、エルヴィラは息が止まるかと思った。


「天使様……」

「お姫様……」


「「!?」」


 お互いの言葉に、ビクッと固まるエルヴィラと天使に、周りの大人達は目を丸くしている。


「ほら、エルヴィラ。ご挨拶は?」

「!」


 呆然として礼を失した自分に気が付き、エルヴィラは白い頬を桜色に染め、慌てて淑女の礼をする。


「ルビエール辺境伯が孫、エルヴィラ=ルビエールです。よろしくなのよ」

「リキュール伯爵の長女、リーディア=リキュールです。よ、よろしくなの」


 お互いに見つめあいながら、精神的衝撃でプルプル震えている六歳児二人に、大人達は皆一様に目じりを下げる。

 しかし、いつまでもこの寒空の中、外にいる訳にはいかない。


「さあ、ここは寒い! 中に入るぞ!!」


 曾祖父ルイスの鶴の一声で、皆先を急ぐようにして、室内へと入ったのだった。



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