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5 旅立ちの準備と絶望の箱入り娘


 この冬に、一家でルビエール辺境伯領に行く。

 それはもう、リキュール伯爵家にとって、大変なイベントである。


「急いでお洋服を用意しなければ!」

「リーディアのものは仕立て中だったけれど、防寒性が足りないわよね?」

「奥様の衣装も足りませんわ。これと、この箱の分は使えそうですが、型が古くて」

「旦那様のものは、あるにはありますが、数年前のものですから……」

「新調するしかないわね。日にちもないし、急いで、仕立て屋を呼んで、吊り物を調整しましょう」

「はい!」


 わたしは、侍女マーサ達と共に、衣装部屋で旅行用の服を見繕う。


 今回の旅行――視察旅行は今のところ、十一月十五日の便で向かい、十一月末日の便で帰ってくる予定だ。

 半月分の着るもの、夜会用のドレス、そして何よりも大事なのは、コートである。


 ルビエール辺境伯領の冬は寒い。

 だから、服はそれ用の物を準備しなければならない。


 わたし達が仕立て屋の手配や荷物ケースの準備に邁進していると、てちてちと、可愛い箱入り娘が、散乱する冬服衣装箱を避けながら、乳母アリスをつれてやってきた。


「ママ、ママ」

「どうしたの、リーディア」

「リーは旅行に持っていく物、決めたよ」

「あら。すごいわリーディア。一番に準備が完了しそうね」

「ふふーん」

「それで、何を持っていくの?」


 リーディアには、この旅行に際して持っていく物の荷造りをするよう、伝えておいたのだ。

 家からほとんど離れたことのない箱入り娘の彼女には、荷が重い作業だと思っていたけれども、どうやらあっという間に選定を済ませたらしい。


 頭を撫でながら褒めるわたしに気をよくした彼女は、自分の後ろに控える乳母アリスを、満面の笑みで振り向く。

 アリスは、それとなく疲れた顔をしながら、侍女エプロンのポケットからピラリと紙を取り出し、書かれている内容を読み上げた。


「ウサギさんのぬいぐるみ、クマさんのぬいぐるみ、ミケネコちゃんのぬいぐるみ、おもちゃ箱三箱に、各種ぬいぐるみの衣装ケース三箱、奥様に差し上げたジョウロに、奥様とお揃いでつけたことのあるリボン十本、お嬢様の秘密の宝箱一箱に、奥様の兄君であられるメルヴィス様から内緒で貰った飴玉箱一箱です」

「お引越しかしら!?」


 なるほど選定が終わったのではなく、何もかもを持っていくということね!?

 そして何より。


「飴玉?」

「あっ! だ、だめよアリス! だめなの、秘密の宝箱と、メルお兄ちゃんの飴ちゃんは内緒なの!」


 あわわわ、と蒼白になっているリーディア。


 メルヴィス兄さん、リーディアに勝手に何をあげてるの!?

 虫歯の原因は、もしかして……。


 ずもももも、と修羅を背負うわたしに、リーディアはピャッと声を上げながらアリスの後ろに隠れる。

 わたしは、ふうと一つ息を吐くと、近くにあった空の衣装箱を、リーディアに差し出した。


「リーディア」

「はい」

「持っていけるのは、この箱に入る分だけよ」

「!?」


 彫刻『絶望』になったもちもちほっぺの箱入り娘に、わたしは心を鬼にして、箱を乳母アリスに預ける。

 アリスは、神妙な面持ちで箱を受け取り、さらに後ろに控える侍女にそれを渡すと、無言で彫刻『絶望』を抱え上げた。

 抱え上げられた銀色彫刻娘はハッとして人間に戻ったけれども、もう遅い。


「だ、だめよアリス! ママ! リーはね、この箱じゃ足りないの! この箱じゃ……やだぁあああーっ!!」


 すたこらと去っていくアリスにより、銀色スナイパーは衣装箱共々、子ども部屋へと撤退していった。


 どこかで見たことがある愛らしい光景に、わたしも侍女マーサ達も思わず失笑した。



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