1 伯爵邸で動物を飼うという恐ろしい提案
1巻発売記念番外編です。
前中後編の三話構成になります。
リーディアはこのとき六歳です。
「ねえリカルド。リキュール伯爵邸では、動物は飼わないの?」
リーディアを真ん中に、三人並んでソファに座っての夜の家族の団欒の場で、わたしはこんなことをリカルドに尋ねた。
そして思わず、ビクっと背筋を震わせた。
リーディアを挟んで向かいにいるリカルドが、真っ青な顔でこちらを見ていたからだ。
「リカルド、どうしたの!?」
「動物を……邸内で、飼う……?」
「え、ええ。うちは、子ども部屋にリーディア以外の子がいないし……動物を飼うのはどうかと思ったんだけれど……」
リーディアの子ども部屋には、相変わらず彼女しか子どもがいない。
通常、貴族の子ども部屋は親族の子ども達で賑わうものだ。しかし、リキュール一族の子どもはリーディア一人。情操教育を考えると、あと数人は子ども部屋に子どもを入れたいところだけれども、リーディアは聖女の血を引く希少な子どもなので、安易に子どもを集めて子ども部屋に入れる訳にはいかない。
そこで、犬や猫といった小動物を飼うのはどうかと思ったのだが……。
(リ、リカルドは何故、こんなに青ざめているの?)
想定外の反応にたじろぐわたしの傍らで、銀色愛娘は紫色の瞳をキラキラと輝かせている。
「パパ! ウサギさん! リーはネコさんとウサギさんがいい!」
「そんな恐ろしいことはできない」
「!?」
「お、恐ろしい?」
「生活圏内に動物を入れると、身動きが取れなくなって危ないだろう?」
真面目な顔をしているリカルドに、わたしもリーディアも目を丸くする。
「パパ! ウサギさんは危なくないよ! ネコちゃんも!」
「いや、小さい動物も侮れない。信頼できるのは、馬くらいだ。私の愛馬リクハルドは賢いから問題ないが、他の動物は信用ならない」
動物を信用とは一体?
「パパ、ウサギさんは信用できるの!」
「リーディアは知らないんだな……ウサギさん達はな、小さい子を見るとすごい勢いで集まって張り付いてきて、身動きを取らせてくれなくなるんだ」
「そ、そんなの嘘だもん!」
「そ、そんなの嘘よね!?」
「えっ?」
顔を見合わせる一家三人。
一体どういうことなのだ。
リカルドの言う『ウサギさん』はもはや、わたしとリーディアが言うウサギさんとは違うウサギさんのことなのでは?
「まさか、マリアも知らないのか?」
「え? 何を?」
「そうかなるほど、きっとマティーニ男爵が守っていたんだな」
「いえ、リカルド。そういう訳では」
「それなら、一度見ておくべきだろう。リーディアもそろそろ、動物の恐ろしさを知っておくべき時期なのかもしれない」
神妙な顔をしているリカルドに、リーディアは可愛いお手手を握りしめながら、ごくりと息を呑んでいる。
一体わたし達は何の話をしているのだ。
わたしは、段々と不安になってきた。
わたしの知っている動物達は、そんな恐ろしいものではないはずだ。けれども、リカルドの話を聞いていると、なんだか自分の常識がおかしいのではないかという気持ちになってくる。彼はどこまで本気なのだ。本当に、冗談ではないのだろうか。
「今度三人で、牧場に視察に行こう」
意を決した顔をしてそう告げる銀色の麗人に、銀色娘も、大好きなパパを真似て神妙な顔をしている。
しかし結局耐えられなくなったのか、「ウサギさんー!!」と声を上げ、きゃあきゃあと喜び出した。
はしゃぐ彼女をなだめながら、リカルドの方を見ると、彼は「小動物か……」と言いながら、遠い目をしている。
わたしは、彼の不思議な反応に、その真意を掴めず、首を傾げるばかりなのだった。







