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姉リーディアの攻撃! 妹クローディアへの効果はばつぐんだ!(終)


またまた一話完結の番外編です。




「クローディアも銀色がいい」



 事の発端は、もちもちほっぺを膨らませて不機嫌を主張している我が家のアイドルである。




****


 クローディアを産んだ三年後、わたしは双子を出産した。

 名前はハロルドとレナルド。

 銀髪に紫色の瞳の男の子と、銀髪に蜂蜜色の瞳の男の子である。


 この時ばかりは、乳母や侍女達の手伝いがあるとはいえ、わたしも夫リカルドも子育てに忙殺された。

 そして、三歳のクローディアに構う時間がなかなか捻出できない中、当時十歳のリーディアがつきっきりでクローディアを見てくれたのである。


 クローディアは、それはもう大変リーディアに懐いた。


 長男ハロルドと二男レナルドの世話が一段落した後も、クローディアはリーディアから離れなくなった。

 リーディアがどこに行こうとしても、クローディアがもちもちついて回る。リーディアが何度振り返っても、にこーッと満面の笑みで応える。

 その図に、わたしやリカルドを含め、伯爵家の面々は毎日身悶えしていた。

 至近距離で笑顔を向けられたリーディアも、悶絶していた。そして毎回、クローディアを思う存分抱きしめていた。本当に仲のいい姉妹である。


 そんな我が家のアイドルである二女は、四歳になったある日、冒頭のようなことを言い出したのだ。



「クローディアも、リー姉さまと一緒がいい。茶色は、やー!」



 我が家の二女クローディアは、わたし譲りのマイルドな茶髪に、リカルド譲りの紫色の瞳の女の子だ。

 リーディアは、リカルドと同じ銀髪に紫色の瞳をしている。

 なにやら、クローディアはリーディアと同じ銀髪に生まれ変わりたいらしい。


「クローディアの髪は、ママと一緒なのよ? 柔らかい色味で、とっても素敵よ」


 サラサラの銀髪を揺らしながら、十一歳になったリーディアがクローディアに声をかける。

 しかし、クローディアは、それでは納得しなかった。


「や! クローディアもリー姉さまみたいになりたい! 父さま達ばっかり、リー姉さまと同じ色でずるい!」


 今、わたし達はリキュール伯爵邸の居間で、家族の団欒をしていた。

 わたしと夫リカルドが同じ長椅子に座り、一歳の長男ハロルドと二男レナルドをそれぞれ膝に乗せていて、別の長椅子にリーディアとクローディアが寄り添って座っている。

 そして、(はた)からリーディアを眺めたわたしは、心の中でため息をついた。


 リーディアはあれから、超絶美少女に成長していた。


 昔も美少女だったけれども、成長した彼女は、幼さが抜けて、美しさが際立ってきている。しかも、なんというか……仕草も含めて、本当に愛らしいのだ。今もリーディアは困ったように瞳を揺らしながら、クローディアの言葉が嬉しかったのか、ほんの少し頬を上気させている。長いまつ毛はしっとりと透明感のある色気を醸し出している。めちゃくちゃ可愛い。十二歳で王都のお茶会デビューをしたら、色々と大変なことになりそうだ。


 ちなみに、クローディアももちろん可愛い。リカルドそっくりの顔立ちの、ミルクティー色ふわふわ髪の美少女だ。わたしの遺伝子が頑張ったのは、本当に髪の色ぐらいである。

 しかし、クローディア本人の視界にはいつも大好きな美少女姉さまがいる訳で、姉さまと同じ髪の毛の色のリカルドハロルドレナルドが羨ましくて仕方がないらしい。


 正直、わたしはクローディアの気持ちが分かる。

 これだけの正統派美少女姉さまと毎日一緒にいたら、サラサラの銀髪が羨ましくもなるだろう。わたしだったらなる。いや、けれどもこれは一体、どう宥めるべきなのか。

 わたしが悩んでいると、リーディアが戸惑ったように呟いた。


「ママとクローディアの色の方が素敵なのに……」

「や! リー姉さまの色がいい!」

「えー……。あ、じゃあ交換したいな。交換しよう!」

「!?」


 リーディアの唐突な発言に、クローディアだけでなく、わたしとリカルドも目を丸くした。

 そんなわたし達の方を見て、リーディアは恥じらいながらも微笑む。


「パパ、ママ、あのね。実はわたしも、ママとクローディアの髪の色が羨ましかったの……」


 そして、愛娘リーディアは、上目遣いでわたしと夫リカルドを見ながら、あることを提案してきた。

 わたしと夫リカルドは親バカなので、その可愛い提案に、一も二もなく協力することにしたのだ。



****


「パパ、ママー! 見て見て、銀色!」


 二週間後の週末、子ども部屋に駆け込んできたのは、銀色の髪になったクローディアだった。

 サラサラの銀糸を、嬉しそうに揺らしている。


 子ども部屋で長男ハロルドと次男レナルドの面倒をみていたわたしと夫リカルドは、子ども部屋に現れたその愛らしい姿に目を細めた。


「うん、可愛いな。よく似合っている」

「とっても可愛いわ、クローディア」

「うん! リー姉さまの色だから!」


 フフンと胸を張るクローディアは、本当に可愛い。

 小さい頃のリーディアを彷彿とさせるその姿に、わたしも夫リカルドも、つい目尻が下がってしまう。


「クローディア。魔法の日は今日だけだからね、しっかり楽しむのよ」

「や! クローディアはずっとこのままがいい!」

「魔法の日はね、決まった日にしかやってこないのよ」

「やー!」


 プルプル頭を振っているクローディアに、わたしも夫リカルドも、乳母シャルロットも苦笑している。

 長男ハロルドと二男レナルドは、二人で仲良くクローディアを見上げていた。


 実は、今日はリーディアの提案で『髪の色の交換日』――カツラを被っておめかしをする日にしたのだ。


 ただし、四歳のクローディアにカツラを被せるのは頭皮に負担がかかるので、限られた日だけのおめかしだ。

 大変贅沢な出費であるが、滅多にわがままを言わない愛娘リーディアのおねだりである。わたし達は張り切った。

 ちなみに実は、侍女達も妙に張り切っていた。その結果、クローディアは宝石みたいに可愛く仕上がっていた。わたしはここに、侍女達の本気を見た。


(それにしても、どうしたものかしら。クローディアをどう説得したら……)


 わたしが夫リカルドを見上げると、彼も困ったように眉尻を下げていた。

 これは夫婦会議が必要かもしれない。


 そうやって、わたしと夫リカルドが困った困ったと頭を抱えていると、そろりと扉から現れた人物がいた。



「……ママ」



 もちろん、現れたのはリーディアだ。

 リーディアの声がしたので、クローディアがピタリとぐずるのをやめて、声のした方を嬉しそうに振り向く。


 そして、目を見開き、口を開けたまま、クローディアは動かなくなった。


 そこにいたのは、まごうことなき天使だった。


 ふわふわの茶色の髪を、先の方だけゆるく巻き、紫色の髪留めでハーフアップにまとめている。いつもの透明感のある美しさとは違って、柔らかい砂糖菓子のような甘さが演出されている。いつもシンプルなワンピースドレスに身を包み、凛とした雰囲気を漂わせていたリーディアは、今日はふわふわの薄手の生地を重ねた薄桃色の街行き用のドレスを身にまとい、手が届きそうな親近感のある愛らしさを醸し出していた。

 ほんのり薄化粧を施したその顔はほんのり上気していて、恥じらいながらも嬉しそうにこちらを見ている。

 というか、わたしを見ている。


 わたしは気絶するかと思った。


(えーっ、なに、かわ、かわかわ可愛いー!? すごいわ、驚きすぎてわたしの語彙力が消滅したわ!?)


「リ、リ、リ、リ」

「――ママ!」


 リーディアはわたしと目が合うと、パッと華やぐような笑顔で、こちらにタタッと駆け寄ってきた。

 ふわふわの綿菓子みたいな女の子が、大好きオーラをまといながら、こちらに駆け寄ってくる。あまりの事態に、わたしは震えるだけで上手く反応できない。

 しかし、リーディアはそんなわたしに構わず、わたしの腕にギュッと絡みついてきた。

 わ、わたしはこれから、この可愛い子とデートに行くんだったかしら……。


「ママ、どうかな。ママとお揃いなの。大好きなミルクティー色なの」


 上目遣いに様子を窺ってくる天使に、わたしは「可愛いわ……最高に可愛いわ……」と呟くことしかできない。右腕に絡みついている存在が眩しい。


「嬉しい! あのね、本当にわたし、ずっとずっとママとお揃いのクローディアの髪が羨ましかったの。だからね、今日は三人お揃いで嬉しくて……あ、そっか。クローディアは今日は銀髪だもんね。銀髪も可愛いよ、クローディア」


 リーディアは、わたしの腕に絡みついたまま、チラリとクローディアを見て、少し残念そうにしながらクローディアに微笑みかけた。

 クローディアは残念そうなリーディアに、目も口も見開いたまま愕然としていた。

 わたしは、こんなふうに呆然とした表情の四歳児を見るのは初めてかもしれない!


「ママ。今日これから、わたしとデートしようよ」

「こ、これから?」

「うん。わたし、お揃いでおめかしして遊びに行きたかったの。デートのときは、お揃いで出かけると楽しいって、本に書いてあったのよ」


 紫色の瞳をキラキラさせながら、リーディアはわたしを見つめてくる。

 こんな可愛い子からデートに誘われてしまった!

 わたしが真っ赤になって口をハクハクさせていると、横から大きな声が聞こえた。 


「クローディアも行く! クローディアも、リー姉さまとデートする!」


 クローディアは、肩で息をしながら必死の形相で叫んでいる。

 しかしリーディアは、クローディアの方をチラリと見ると、見せつけるようにギュッと私の腕に体を寄せた。

 わたしはクローディアの後ろに、『ガーン!!』という衝撃音を見た。


「クローディア、どうかな。この髪の色、似合ってる?」

「似合ってるの……ね、姉さま可愛い……可愛いの……」

「ありがとう! それでね、さっき言ったとおり、今日はお揃いデートの日だから、残念だけど……」

「でも、クローディアも行きたい!」

「クローディアは、今日は銀色の日だもんね。一日楽しんでね。――それでねママ、今日はどこに行こう」


 花開くような微笑みでクローディアとの会話を終わらせたリーディアは、天使のような微笑みでわたしに話しかけてきた。

 動揺するわたしを置いて、どんどん午後の予定が決まっていく。

 わ、わたしもおめかしした方がいいのかしら……いえ、この子の隣にいるなら、何を着ても霞むのでは……。


 動揺しているわたしと、本当に楽しそうにしているリーディアの横から、最終的に、悲鳴のような叫びが上がった。



「やー!! クローディアも茶色がいい! 銀色は、やー!!!」



 結局その日、わたしとリーディアとクローディアは()()()()()の茶色い髪で街にデートに出かけた。

 その帰り道、リーディアは馬車の中でわたしに言った。


「ママ、ありがとう。大好きなママとお揃いデートできて本当に嬉しい。また行こうね!」


 その横で、我が家のキュートなアイドルが、「クローディアも茶色だもん……お揃いだから、一緖に行くもん……」と呟いていた。

 天使のような微笑みを浮かべるリーディアの隣で、もちもちほっぺが涙目で震えている。

 わたしはようやく、天使リーディアが小悪魔に進化してしまったことを知ったのだった。



****


 なお、家に帰ると、今度は夫リカルドがわたしを離してくれなかった。


「可愛い妻と娘達に置いて行かれた……」

「リ、リカルド」

「そうだ、今度は私も髪を茶色にすれば」

「もうやめて!?」


 わたしは血迷っている夫リカルドを必死に止めた後、今日のリーディアのことを彼に伝えた。

 すると、意外にも夫リカルドは平然としていた。


「リーディアが小悪魔……それはそうだろうな」

「え!? で、でも、あんなに天使だったのに……。何か予兆があったの?」

「……」


 首を傾げるわたしに、リカルドは答えを教えてくれなかった。

 その後、彼は小さく「リーディアはマリアに似たんだな」と呟いたけれども、その声はわたしの耳には届かなかった。






ご愛読ありがとうございました!

番外編はまだまだ続きます。



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