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27 二人のスナイパーによる密談


 リーディアは、お友達のイーゼルを部屋の隅に連れていくと、身を寄せ合ってその場でしゃがみこむ。

 そして、ママ達に聞こえないように、小さな声で話始めた。


「なあ、一体なんなんだよ」

「あのね。リーはイーゼルに、大事な話があるの」

「大事な話?」

「スザンヌさまはね、二年で消えてしまう天使さまだったの」

「!?」


 リーディアは、昨晩聞いてしまったスザンヌさまの秘密について、すべてをイーゼルに話した。

 イーゼルはどんどん青ざめていく。

 昨日仲良くなったばかりの母が居なくなってしまうというのだから、当然のことだろう。


「イーゼルのママは、このおうちに来てからどのぐらいなの?」

「あと少しで、二年だ」

「!」

「もうすぐ、お義母さまはいなくなってしまうのかな。そんなのは、いやだ……」


 うるりと光る水色の瞳に、リーディアは顔の近くで、グッと小さなお手手を握りしめ、ニヤリと自信満々の笑顔――傍目には、もちもちほっぺが可愛らしい、無邪気な笑顔――を浮かべる。


「大丈夫。リーにお任せなの」

「リーディア」

「天使さまに傍に残ってもらう方法を、リーは知っています」

「!? そ、それは、どういう方法なんだ!」

「しーっ!」


 叫ぶようにして立ち上がったイーゼルに、部屋の反対側の隅に居るママ達が、いぶかるような目を向けている。


 イーゼルは「ア~ア~ア~、朝早く起きる方法を~、早く教えてほしいです~」と謎の歌を歌いながら、再度しゃがみこんだ。


 この国唯一の国王の孫王子による、初めてのオリジナルソングである。

 義母スザンヌの言いつけを守って、言葉遣いを丁寧にしたせいで、ちょっとリズムが崩れてしまったのがチャームポイントだ。


 ママ達も侍従侍女達も、唐突に腹筋に与えられた負荷に、必死に耐えている。


「それで、どうすればいいんだ」


 神妙な顔をしているイーゼルに、リーディアは「うむっ」と頷くと、ここぞとばかりに秘伝を口にした。


「パパがママを落としてくれたら、ママは地上に残ってくれるの……」


 イーゼルの目に、はてなマークが浮かんだ。

 首をかしげるイーゼルに、弟子に秘伝を伝えた師匠リーディアはドヤッと小さな胸をはる。


「落とすってなんだ?」

「高いところから、えいって落とすの」

「そんなことをしたら、危ないと思う」

「スザンヌ様は天使様だから、大丈夫。でもね、パパ達に伝えた後、ちゃんとスザンヌ様に、予告をしないといけないの。危険をともなうから、リー達の気づかいが、なによりも大切なの」

「そう……なのか……?」

「うん。リーのおうちでは、これが大成功だったの。だから、リーのママは、リーとずっと一緒にいてくれているのよ」


 自信満々のリーディアに、イーゼルはわけがわからないという顔をしながら、とりあえず頷く。

 いまいち納得はいかないが、実績があるなら……という気持ちが、ありありと伝わる表情である。


「他に方法も思いつかないし……リーディアのおうちで成功したなら、やってみる価値はあるな」

「うん」

「ただ、時間がないから、お義父様には早く落としてもらわないと」

「そうなの。だからね、今からお願いに行くべきだと、リーは思うのよ」

「今から?」

「今ならイーゼルのパパのところに、リーのパパもいるの。リーのパパが、ケイケンを語ったら、きっとイーゼルのパパもうまくママを落としてくれると思うのよ」

「なるほど、それはいい案だな。さすがはリーディアだ」

「ふふーん」

「じゃあ、行くか」


 イーゼルが立ち上がったので、リーディアは一緒に立ち上がる。

 ちょっと足がしびれて、よたついてしまったけれども、イーゼルが手を差し出してくれたので、なんとか倒れることなく事なきを得た。

 ありがとうと笑顔で伝えると、イーゼルは真っ赤な顔で手を放してしまった。

 エリーちゃんだったら、そのまま手を繋いで歩いてくれるのに。

 リーディアは(エリーちゃんと違うの)と不思議に思いつつも、イーゼルの後ろをてちてちとついていく。


「お義母さま。マリアさま。僕達は、おトイレに行ってきます」

「!? ……わ、わかりました」

「じ、時間がかかるかもしれませんが、すぐに戻ってきます」

「……? わかりました」

「よし、行くぞリーディア」

「うん!」


 おトイレに連れ立つ男女の幼児に、ママ達はうろんな目を向けているが、当の本人達はそのことに気が付かない。

 時間がかかるけれどもすぐに戻ってくるという怪奇現象を起こそうとしていることにも、気が付いていない。


 衆人環視の中、二人は廊下へと旅立ち、そしてはたと気が付いた。


「お義父様は今、どこに居るんだ?」


 イーゼルに聞かれて、リーディアも首をかしげる。


「パパと一緒に居るよ」

「それはどこなんだ」

「イーゼルは知らないの?」

「僕はこの部屋で、リーディア達を待っていたんだぞ」

「……」

「……」


 幼いスナイパー二人は、困った様子で顔を見合わせた後、とりあえず部屋に引き返すことにする。


 子ども部屋の扉を開けると、扉の近くにはママ達を中心とした大人達がむらがっていて、リーディアもイーゼルもびっくりしてしまった。


「ママ!? どうしたの?」

「えっ!? いいえ!? なんでもないわ。二人の様子を窺ったりなんかしていないわ!?」

「そうなの?」

「ええ。そ、それより、リーディア。どうしたの?」

「あのね、あのお姉さんにお願いがあるの」


 リーディアは、このお部屋に案内してくれた侍女を見ると、イーゼルと二人で近づいていく。

 侍女は、そのあまりにもいやな予感のする流れに、若干青ざめている。


「お姉さん。リー達が迷子になったらいけないから、おトイレまで案内してくれますか?」

「僕達が迷子になったらいけないから、お願いしたい」

「お姉さん、お願いします」


 リーディアはイーゼルと共に、一生懸命にお願いをする。


 案内役の侍女は、目をさまよわせており、あからさまに動揺していた。

 けれども、彼女が頼みの綱なのだ。

 リーディアは、彼女を熱のある視線で見つめた。

 頷いて、くれるだろうか……。


 実は、必死におねだりをするスナイパー達は、気が付いていなかった。

 おトイレは、子ども部屋の廊下の突き当りにあるのだ。

 案内するというか、扉を出た後、指をさすだけで任務は終わってしまう。その案内役を務める。あからさまに裏のある、高難易度の依頼だ。侍女が動揺するのも、無理はない状況なのである。


 しかし、案内役の侍女は、本日最大の集中力を発揮し、空気を読んだ。

 高貴なる幼児の母達に、視線を投げつつ頷くと、その場でしゃがみこみ、依頼主のリーディア達に笑顔を見せてくれる。


「わかりました。私がお二人を、おトイレまでご案内いたします」

「「どうもありがとう!」」


 リーディアとイーゼルは、笑顔で侍女を部屋の外に連れ出した。


 そして、子ども部屋の扉を閉めたことを確認するやいなや、おトイレに向かって歩みを進める侍女のスカートに、二人ではりついた。


「お姉さん! お願いがあるの!」

「僕達を、お義父さまたちのところへ、連れて行ってほしいんだ」

「お姉さんだけが頼りなの」

「お願いだ!」


 涙目で必死に訴える高貴なる幼児二人に、侍女は蒼白になりつつ、子ども部屋のほうに視線を走らせる。

 子ども部屋の薄く開いた扉の奥から、二人の母がこっそりサムズアップをしていた。

 侍女は安心した様子で頷いて、その場でしゃがみこむ。


「お母さま方に内緒で、行きたいのですね?」

「そうなの」

「お義父さまに、秘密のお話があるんだ」

「あとでお母さま方に、ちゃんと謝れますか?」

「……うん」

「……謝る」

「わかりました。では、わたくしがお二人を案内しましょう」

「「!!!」」


 リーディア達は、嬉しくて、満面の笑みで侍女にお礼を言った。

 侍女はふふ、と笑いながら、パパ達のところへ連れて行ってくれる。


「お二人のお父様達は、昨日、お母様達がお使いになっていた二階のテラスにいらっしゃいますよ」


 パッと華やいだ顔で、リーディアはイーゼルを見た。

 イーゼルも、心得たりとばかりに頷いてくれる。


「昨日、行った場所なの。とっても好都合なの」

「そうだな。二回目なら、失敗することもないだろう」

「うん!」


 失敗とはなんですか……何をするおつもりなのですか……という心の声を、侍女は声に出さない。

 彼女の務めは、この高貴なる二人を父親の元に送り届けること。

 そしてなにより、後ろからこっそり後をつけてきている母親達を、撒いてしまわないことなのだから。


 こうして、二人のスナイパー達は、何も知らない父達のいるテラス席へと歩を進めたのである。



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