23 黒髪王子の悩み
リーディア視点です。
リーディアは、初対面から二日後にして、再びイーゼルの目の目に現れた。
なぜならば、彼女はイーゼルのお友達だからである。
意気揚々と子ども部屋にやって来た彼女に、イーゼルは目を輝かせている。
「王子さま。リーはお友達だから、また会いにきました!」
「そ、そうか! そうだな。友達だからな」
「うん!」
「じゃ、じゃあ、その『王子さま』っていうのも、やめていい」
「うん?」
「イーゼルでいいから!」
「イーゼル?」
「!!! そ、そうだ。リーディアは友達だから、特別だ!」
「うん! リーはイーゼルのお友達!」
子ども用のおもちゃのティーテーブルを挟んで座った二人は、ふふふと笑顔になる。
そんな可愛らしい二人に、侍女達はニコニコ笑いながら、ハーブティーを差し出してくれた。
香り高い、少しぬるめのそのお茶に、リーディアは「すてきな香りなの。さすがはイーゼルなの」と頷き、「これのよさがわかるとは、さすがはリーディアだ!」とイーゼルは頷く。
背伸びが大好きな二人のやり取りに、室内の侍従侍女達の腹筋が試されている。
「実は、リーディアに聞きたいことがあるんだ」
「なぁに?」
「『ママを選ぶ』とは、どうするんだ」
真剣そのものの顔つきのイーゼル。
その熱い水色の瞳を受け止めたリーディアは、秘伝を教授することにした。
「リーは、いっぱい大好きって言ったよ」
「そ、それが難しいんじゃないか!」
「あと、いっぱい一緒に遊んだの」
「それも難しい!」
「なら、ひみつの調査にも出ないといけないの」
「!?」
ごくりと息を呑むイーゼルに、リーディアは心得たりとばかりに頷く。
「イーゼルのおうちはひろいの。イーゼルのママが、迷子になってイーゼルのお部屋に来られなくなっていても、おかしくないの」
イーゼルはハッと顔を上げる。
そんなイーゼルに、リーディアはにやりと――傍目には煌めくお目目が可愛いハートフルな笑顔で――頷いた。
二日前から、リーディアは思っていたのだ。
イーゼルの住む場所は、広すぎる。
こんなに広くては、たとえママとはいえども、迷子になってしまうに違いない。
真剣な様子で相槌を打つ高貴な幼児二人に、室内の侍従侍女達はプルプルと震えながら視線をそらしている。
「調査に出てね、隙があったら、イーゼルと遊ばないとダメだって教えてあげるの」
「教えてあげる……」
「イーゼルがママに選んだんだから、イーゼルが一緒にいたいときは、ママはイーゼルと遊ばなきゃいけないの」
「!」
淡い水色の瞳がキラキラと輝いて、リーディアも思わず、にっこり笑顔になる。
「せっかくだから、リーがお手本を見せてあげるの」
「いいのか?」
「イーゼルはお友達だから、特別なのよ?」
「!! そ、そうだな。友達だからな!」
「うん! じゃあ、出発するの!」
そうして今後の予定を決めた二人は、ハッとした顔で、目の前にあるお茶を見る。
二人は、大人達から、『お残しはいけません』と厳しく教えられているのだ。
とってもいいかおりのお茶を置いていくなど、できるはずがない。
阿吽の呼吸で急にお話を止めて、ひたすらお茶を飲み干そうとする二人に、室内の侍従侍女達の表情筋が小刻みに揺れている。
「あっ、そうだ」
お茶を飲み干したリーディアは、立ち上がると、この部屋に案内してくれた侍女のところへ、てちてちと歩いていった。
「お姉さん。リー達が迷子になったらいけないから、ママ達のところに案内してくれますか?」
ブハッと声を漏らしながら、何人かの使用人が部屋から脱落していった。
しかし、リーディアは真剣なので、そんな周りの様子には気が付かない。
銀色伯爵令嬢から丁寧な依頼を受けた侍女は、その場でしゃがむと、にっこりと微笑んでくれた。
「はい。私がきちんと、お二人をお母さま方のいらっしゃるお部屋へご案内いたします」
「ありがとう!」
嬉しくて、リーディアがパッと後ろを振り向くと、黒髪王子イーゼルは嬉しそうに頷いた。
「リーディア、ありがとう」
「うん!」
こうして、銀色スナイパー・リーディアはこの国の王子さまと共に、ママのいる部屋へと出発したのである。







