6 緑色の綿毛
昨日コミックス第1巻が発売されています。
本日ノベル2巻発売です。
よろしくお願いします!
「ママ。ふわふわ、なんだかかわいそうなの」
その場の一同の想いを集約したような義娘の言葉に、わたしは思わず苦笑いする。
すると、綿毛がぴくりとリーディアの言葉に反応して、こちらを見た。
そして、わたし達が反応することもできない速度でリーディアの頭の上に飛んできて、腰を落ち着ける。
すると、銀色スナイパーは頭の上にやってきたふわふわに驚く間もなく、スコンと眠りについてしまったではないか!?
「リーディア!?」
「ぴよっぴ!」
「こ、こら! どきなさい!」
わたしとリカルドが慌ててリーディアの頭から緑色の綿毛を追い払うと、眠れる彼女の頭の上に居た綿毛はバランスを崩し、再度床に転げ落ちていった。
床に落ちた綿毛を、守衛たちが取り囲む。
どうやら、緑色の綿毛は、ほのかに白く発光しているようだ。
「リキュール伯爵! リーディア様を連れて、この場から離れてください」
「わかった」
「二級神官ファリスがこの場を取りしきる! 守衛は侵入者を捕獲するように! 難しければ討伐で構わない! 守衛副隊長は観光客の皆さんを誘導しろ!」
ファリスの掛け声で、守衛たちが動きだし、観光客はアリの子を散らしたように聖堂から出始めた。
リカルドが寝ているリーディアを抱き上げたけれども、銀色眠り姫はすやすやと眠ったまま目を覚まさない。
「リカルド! リーディアが……!」
「大丈夫、寝ているだけのようだ。だが、とりあえずここを離れよう」
心配すぎて涙目になりながらも、三人でその場から動くことする。
リカルドの服を掴んだまま、ふと後ろを振り向くと、六人程度の守衛がファリスの掛け声に応じ、槍の魔道具を手に緑色のふわふわを取り囲んでいく様子が見て取れた。
大の大人、しかも日ごろから魔法を学んでいるはずの守衛――四級神官達が複数人で取り囲んでいるのだ。
相手は謎の綿毛とはいえ、たった一匹。
任せておけば問題ないだろう。
そう思っていると、遠目に、白く発光していたふわふわの塊がきょろきょろと周りを見渡した後、だんだんと灰色に染まっていくのが見てとれた。
いや、黒ずんでいっているという表現の方が正しいのだろうか。
なんだか、すごく禍々しいような。
「うわーわーわーっ、だめです! お待ちください、それは夢花です!」
叫んだのは、なんとわがリキュール伯爵家の侍女だった。
リーディア付きの侍女サーシャ。
ピンクブロンドに海色の瞳が魅力的な、二十歳の若手使用人である。
彼女はスカートを手でたくし上げながら、慌てたように壇上に走っていくと、手振り身振りを加えながら真っ青な顔で六人の守衛達を制止した。
「だめだめ、だめです! 間違っても攻撃しないでください!」
「ええと?」
「夢花ですよ! 夢魔の幼体! 見たことないですか!? リーディア様は寝てるだけなんで、大丈夫です! でも、悪意を吸収すると、人を惑わす魔物に成長しますよ!?」
「!?」
唖然とする守衛達の隙間をくぐり抜け、サーシャはそのふわふわの綿毛を首元から片手でつまみ上げる。
すると、黒ずんでいた綿毛は元の明るい緑色に戻り、不思議そうにサーシャを見ながら首をかしげた。
「……ぴ?」
「ちょっと! あなたもそんな目でこっちを見ないでくれます!?」
「――ご婦人。リーディア様付きの侍女殿でしたか?」
「!!」
「何やらこちらの生き物についてお詳しいようで。お話をお聞きしてもよろしいですか」
サーシャに声をかけたのはもちろん、ファリスだ。
彼は笑顔だが、目が笑っていない。
ほぼ強制に近いその言葉に、サーシャは冷や汗をだらだらと流しながら、こちらを――というかわたしを見た。
「奥様、助けてください!」
「わたしも話を聞きたいわ?」
「そ、そんなあ……」
何故ここでわたしが見逃すと思ったのかしら!?
がっくりとうなだれた侍女サーシャに、その手元につままれた緑色のふわふわは「ぴよっ」と元気よく快活な声を上げる。
そして、リカルドの腕の中に居た銀色眠り姫も、「お菓子たくさん、もぐもぐ~」と言いながら、目を覚ましたのだった。







