義理の息子が可愛すぎる
出産したばかりの母馬と、生まれたばかりの仔馬に異常はなかった。
厩務員と話をしてから屋敷へ向かった。
ブルーノに朝食を食べさせ、その後に屋敷へ帰らせるつもりだと伝える為である。
予定では、今日公爵が戻ってくる。その公爵に従っているお父様とお兄様も戻ってくる。
ブルーノもうれしいに違いない。わたしもうれしいから。
掘っ立て小屋のわが家へ戻りつつ、早朝の空気を吸った。
まだ夜が明けるには早い、独特のにおいと鋭さがある。
この早朝のひとときが一番好き。
王都にいたときの空気より、よほどいい空気だわ。
ダメね。三年も経ったのに、いまだに王都での生活を思い出してしまうなんて。
苦笑していると、木々の間にわが家の掘っ立て小屋と馬小屋が見えてきた。
たった五頭しかいない馬小屋である。しかも、いまは三頭だけ。
馬小屋の扉が全開になっていることに気がついた。
駆け足で森を抜けて馬小屋に近づくと、ブルーノがピッチフォークを肩に担いで出てきた。
「ブルーノ」
「ルイ、ごめんなさい。起きることが出来なかった」
彼は、しょぼんとした。
こういう仕草も可愛いのよね。
キュンキュンしながら彼に近づくと、手を伸ばして彼の金色の髪をワシャワシャと撫でた。
「なにを言っているのよ。昨夜、がんばってくれたでしょう?起きることが出来なくっても仕方がないわ。それに、こんなに早く起きて手伝ってくれているじゃない」
「うん。ほら、まだ馬を馬場に出すのは出来ないでしょう? だから、藁束の準備をしようかと思っていたんだ」
夜明け前のうす暗い中、彼の顔がパッと明るくなった。
「ありがとう。助かるわ。薄暗いから、見えにくくて大変だったでしょう?」
「ううん、大丈夫。だいたい覚えているからね」
彼は、大きくうなずきつつ言った。
公爵が屋敷にいるいないは関係なく、彼は掘っ立て小屋に泊まりたがる。わたしもそうだけど、お父様もお兄様も彼に弱い。彼からお願いされたら、三人ともついそのお願いをきいてしまう。
彼は泊りに来るだけでなく、手伝いたがる。馬の世話や調教だけじゃない。農作業や家事、大工仕事、そういうもろもろのことを積極的にやりたがる。
もちろん、公爵子息にそんなことをさせるわけにはいかない。三人で口を揃えて断る。だけど、彼は頑固に意思を貫き通す。
他のことは素直にきくのに、こういうことはワガママになる。
これもまた、結局わたしたちが折れる。
たぶん、手伝いというよりかはわたしたちと何かをするのが好きなのだと思う。
そんな中で、幾つか決まり事がある。
いくら物覚えがよくって器用だといっても、まだ七歳の子どもである。何事にも限界があるのは当然のこと。
火は使わない。近くにわたしたちがいないとき、それから許可なしに馬に触ったり近寄ったりしない。他にもまだある。決まり事というよりかは、禁止事項ね。そういう決まり事は、彼を不慮の事故から守る為には必要なことだと思っている。
彼は、それらをちゃんと守ってくれている。いまも、ランプなしで作業をしてくれていたのだ。それから、馬に触れることのない藁束の移動をしてくれていた。
ピッチフォークやシャベルを使うのも、つい最近まで一人っきりで使うのは禁じていた。だけど、大分と使えるようになったのでお父様が許可をしたのだ。
「ありがとう。助かるわ。今日は、公爵が帰宅されるわよね。さっさと作業を終わらせて朝食にしましょう」
「えっ、朝食も食べていっていいの?」
「ちゃんと許可はもらっているから大丈夫よ。だけど、ニワトリしだいで卵料理がないかもしれないわ。パンは、かたくなってると思うし」
「やったあ。かたいパン大好き。卵料理よりもぎたてのトマトの方が美味しいよ」
いやだわ。まだ七歳なのに気を遣っちゃって。
はしゃぐ彼を見ていると、キュンキュンしてしまう。
そして、明るくなるまで二人で協力して働いた。