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【最終話】「馬臭い令嬢」と家族たち

 お父様が説明をしてくれた。


 公爵は、三年前のあの乗馬大会に招待されたらしい。そこで、馬にやさしく接しているわたしを見、一目惚れしてしまったという。


 そして彼は、わたしがレイナルドに一方的に婚約破棄されたのを目の当たりにし、すぐにお父様にお願いをしに行った。


 お父様は公爵にとって剣の師で、その縁で公爵家領を間借りさせてもらっている。


 間借り料はなし。生活費や仕事の保障。なにより、娘をしあわせにする。


 これらを条件に、わたしを嫁にすることを許したという。


「なにそれ?それって、わたしを公爵に売り飛ばしたってこと?」

「いやいや、それは違う。公爵は、ことレディにかけては真面目だ。まぁ、ちょっとだけ不愛想で不躾だが。だが、彼に嫁げば自由な暮らしをさせてくれる。ほかの貴族と違って、縛ったり押し付けたりしないからな。なにより、おまえをしあわせにしてくれる。そう判断したんだ」


 お、お父様?

 そういうことを、世間一般的に娘を売り飛ばしたっていうのよ。

 もうっ、信じられない。


 でも、お父様はお父様なりにわたしのことを考えてのことなのよ。


 そういうことにしておきましょう。


 それはさておき、公爵はお父様の許可を得てわたしと結婚したわけだけど、わたしと夫婦生活を送るどころかコミュニケーションすらまともに出来ない。挙句の果てに、「契約結婚」とか「偽装結婚」とか言いだす始末。


 いくらお父様とお兄様が攻略法を伝えても、公爵は実践出来ずにいた。


 でっ、いまにいたるという。


 ブルーノの方が、簡単にわたしを篭絡してしまった。


 

「公爵は、おまえを愛している。だが、それをうまく表現出来ないだけだ」

「それに、おまえもその気がないだろう? 公爵を愛するようお膳立てしようにも、馬とブルーノしか見えていないからな」


 お父様とお兄様は、つぎはわたしを悪者にしてきた。


「ほんとうなら、だれの嫁にもやりたくないところだが、それが娘のしあわせではない気がする」

「そうそう。ルイが嫁にいくまで、わたしも結婚しないつもりなんだ。だから、これで気立てのいいレディを迎えられるかと思っていたのに……。だが、よく考えたらルイほど気立てのいいレディは、なかなかいないから」


 お父様とお兄様の言葉に、ブルーノがプッとふいた。


「ブルーノ。これが、反面教師というものよ。将来、娘が出来てもこんなふうになっちゃダメ」

「うん。大丈夫だよ」


 ブルーノは、ほんと素直でいい子だわ。


「ルイ、おれと家族になってくれ」


 いきなり、公爵に両肩をつかまれた。


 彼は、いつだって不意打ちね。


「頼む。やり直す為に、髭を剃った。苦労をかけるかもしれないが、新天地で家族になってほしい」


 ああ、美貌すぎる。


 って、見惚れている場合じゃないわよね。


「ブルーノも、ですよね?」

「当然だ。おれが夫、いや、父親できみが母親。ブルーノが一人息子」

「ああ、子どもは増えるんじゃないですかね?」

「お兄様っ!」


 茶々をいれてきたお兄様に怒鳴ってしまった。


「じゃあ、ちゃんと父親らしいことをしてくれますか?もちろん、夫らしいこともです」

「約束する。二人とも大切にする」


 彼の夏の空のような青色の瞳は、まっすぐで真剣でやさしい。


「どうする、ブルーノ? 家族になる?」


 ブルーノに尋ねると、まだ子どもなのに美しい顔に花が咲いた。


 こうして見てみると、たしかに公爵とブルーノは似ている。


 叔父と甥だということが、よくわかるわ。


「もちろん。はやく弟や妹がほしいな」

「ブルーノ、あなたまで何を言うのっ」


 ブルーノの無邪気さに、顔が火照った。


「じゃあ、オーケーです」


 真っ赤な顔のまま、公爵に結論を伝えた。


「家族のままいきましょう」


 黙っている彼に、続ける。


「ありがとう。わたしの愛する家族たち」


 公爵は、ブルーノとわたしを抱きしめてくれた。


「口づけはダメ」

「そうそう。口づけは早い」


 お父様とお兄様、外野は黙っていて。


 それは、またおいおいってところね。


 だって、さっきの暗殺者たちとの戦いで馬糞まみれになっているんですもの。


「馬臭い令嬢」のままだったら、離縁されるかもしれないから。



                                       (了)

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