愛しい想いからの襲撃
結局、何も解決出来なかった。それどころか、進展すらなかった。
いいえ。より面倒臭くなってしまった。いろんな意味で。
この夜もまた、ブルーノはうちの掘っ立て小屋に泊まりに来た。
公爵から真実をきかされたいま、彼のことがよりいっそう愛おしく思える。
まさか、このわたしに母性本能が芽生えたってわけ?
彼を守ってあげたいという気持ちが、溢れまくっている。
この夜も、彼はいつものようにお父様とお兄様の部屋で眠った。
うちには寝室が二つしかない。
お父様とお兄様が同じ部屋で、その部屋には寝台が二つある。
お父様たちがいないときにはブルーノがその部屋で眠るけど、お父様たちがいるときには彼がお兄様の寝台を使い、お兄様が居間の長椅子で眠る。
気候のいいときには、お兄様は馬小屋の藁束の上で眠ることもある。
あるいは、四人で藁束の上で眠ることも。
そんな特別な夜は、ブルーノは大興奮する。
それがまた可愛らしい。
それももう出来ないかもしれない。
そう思うと残念な気もする。
そんなことをかんがえていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
寝つきは人一倍いい。早朝から夜遅くまで働きづくめだから、寝つきがいいのも当たり前なんだけど。
「ルイ、ルイ」
体を激しく揺らされて目を覚ました。
寝惚け眼は、すぐに覚醒する。
寝つきもいいけれど寝起きもいいのである。
「お父様?ブルーノ?」
灯りのない暗闇の中で、お父様が見下ろしている。
目は、すぐに闇に同調する。
「ルイ、よくきくんだ。どうやら、わが家はビエラ国の暗殺部隊に囲まれているようだ」
「なんですって?」
お父様のささやきは、度肝を抜かすのに充分だった。
もちろん、声量を落とすだけの冷静さは残っている。
「どうしてここに?」
自分で問いながら、すぐに自分で答えを見つけた。
「どうしてここに?」ではなくって、「どうしてここにいることを知っているの?」よね。
「まさか、公爵が襲われたとか?」
尋ねながら、起き上がった。
夜着は着ない。馬たちになにかあるとすぐに駆けつける。だから、つなぎの作業着を夜着と兼用している。
もっとも、この方が着替える手間も時間もいらないからラクということもあるんだけど。
わたしってば、ほんとレディらしくないわよね。
レイナルドに「馬糞臭いから婚約を破棄する」って言われても、仕方がないかもしれない。
彼とは婚約しているつもりはなかったんだけれど。
「ここはどうにかするから、ブルーノを連れて屋敷へ走れと言いたいところなんだがな。正直なところ、公爵や屋敷の様子がわからん。かと言って、馬でやみくもにどこかへ逃れるというのも危険だ」
お父様の話をききながら、お父様もブルーノのことを知っているのだと確信した。
「わたしが多少なりとも剣やナイフを使えたら……」
一応つぶやいてみたけど、この場でそんなことを言ったところでなんの役にも立たない。
公爵は口には出さなかったけれど、ブルーノとわたしが足手まといだと思っていることを思い出した。
そうよね。わたしたちは、戦うことが出来ない。逃げることや隠れることも出来なければ、足手まとい以外のなにものでもないわよね。
「ここでは、隠れるところもない」
役に立たない感を味わっていると、お父様が唇をかみしめた。
こんなお父様、はじめてみたわ。
これがわたしたちだけだったら、諦めるなり開き直るなりしたかもしれない。
だけど、そうではない。
バレス王国の国王の血をひくブルーノがいる。