国王の血を受け継いでいる
公爵には実の姉がいる。王宮で王妃や側妃の教育係を務めていた。
その彼女が、とつじょセプルベタ公爵家の領地に戻ってきて男の子を産んだ。そして、彼女は亡くなった。
「姉は、亡くなる前におれに言った。『産まれた子は、国王の血をひいている。知られないよう育ててほしい』、と。だから、おれの子ということにした」
その話は、わたしをたいして驚かせなかった。
わたしを勝手に婚約者にし、勝手に婚約破棄した勘違い王太子のレイナルドも女性にだらしがないけれど、国王も女性にだらしがなさすぎる。そのことは、だれもが知っている。
だから、側にいる公爵の姉をそんなふうにしたとしてもおかしくはない。
きっと、おなじように国王の血をひく子がほかにもいるはず。
公爵の説明で、かれのおかしな言動の理由がわかった。
それから、あまり父親らしくないことも。
「もしかすると、ビエラ国が嗅ぎつけるかもしれん。そうなれば、ブルーノは国王の血をひく者として殺されてしまう。名をかえ、育ててほしい」
「それでしたら、あなたがやるべきです。もちろん、彼を預かることはかまいません。ですが、いくら名をかえて隠れようとも、狙う者から隠れおおせることは出来ません。父や兄は剣をそこそこ使いますが、大勢でこられたり暗殺者相手だと、彼を守り抜くことは難しいです。それは、公爵閣下。あなたもおわかりかと思います。だとすれば、あなたもいっしょに逃げるべきです。いいえ。しばらく隠れるべきです。あなたは、このバレス王国軍の将軍の一人。あなただって狙われます。いくら剣の達人といえど、限界があります」
女だてらに生意気よね。
そう思われるでしょうし、言われるに決まっている。
だけどブルーノのことをかんがえれば、言わなければならない。
それに、公爵にだって死んでもらいたくない。
「おれのことなら心配はない。一人であれば、戦うことも出来るし逃げることも出来る。だが、だれかいればそうはいかない。近いうちに使用人たちも解雇する。当然、それなりの賃金や土地を与えてな」
どれだけ驚かせれば気がすむわけ?
公爵がここまでかんがえ、決意しているのなら、状況はよほど逼迫しているのね。
「では、わたしたち家族は邪魔なわけですね。足手まといだというわけですね」
尋ねると、彼は乾いた笑い声を上げた。
「わたしたち?ああ、スルバラン伯爵家のことか」
「いいえ。セプルベタ公爵家のことです。まぁ、スルバラン家も入りますが。わたしたちはまだ正式に離縁したわけではありません。あなたとわたしは夫婦ですし、ブルーノは息子です。スルバラン家は、父と兄です。家族でしょう?」
「家族?」
公爵は、その言葉をはじめてきいたかのように目を剥いた。
「ええ、そうです。あっ、もしかしてブルーノは……」
正式に養子にしていないのかしら?
「いや、養子にしている。まったく似ていないがな」
「でしたら、やはり家族じゃないですか。そんな事情なのでしたら、離縁はお断りさせていただきます」
「なんだと?」
「家族で隣国へ行きましょう。こんな国にこだわる必要などありません。あなた自身、なんの義理も思い入れもありませんよね?まぁ、たしかに地位も身分もなくなるわけですから生活は大変でしょうけど」
「家族か……」
彼は、うっとりとバラへと視線を移した。
「ええ、家族ですよ」
彼は、不意に背を向けた。
「こ、公爵?」
「そうか、家族か」
彼は、歩きはじめた。
「ちょっ……。公爵、どこへ?」
彼は、わたしの問いに答えることなく去ってしまった。
いったい、なんなのかしらね?
彼の大きな背を見つめながら首を傾げた。