カーラジオ
せっかくなので、短編を書いてみました。
これは、私が9歳の時ーーだから、小3の時だねーーの話なんだ。
その頃は、ラジオの声が無性に怖かったもんだ。わかるかな、あの、少し変な声になるじゃない。なんというか、掠れたというか……。
うまい言い方がわからないな。
まぁ、あのラジオの声が怖かったんだ。
何故かわからないけどね。
あるじゃない。子供の頃は、よくわからないものが怖いって。
いや、大人もおんなじだね。
クトゥルフ神話ってあるじゃない。あれって『なんかよく分からないから怖い』ってそう言うやつじゃない。
え? 違う? まぁいいや。とりあえずよく分からないものが怖い。そんなものなんだ。
ああ、だけどSAN値ってのもあるらしいね。正気度って言うらしいけど。
逆に解っちゃったら気が狂うらしい。解らないから怖い、でも解ったらもっと怖い。難しいね。
ああ、いつの間にかTRPGの話になってるな。
いや、やった事ないんだけどね。あれじゃん、私って友達少ないじゃん。
……いや、そこは否定してよ。
ああやめとこう。憂鬱になる。
じゃ、そろそろ本題の話に入ろうか。
あれ、頭痛が痛いみたいになってる?
まぁ良いや。
さっき言った通り、小3の時の話だ。
家族みんなで、ドライブに行ってたんだ。
どこまで? あぁ、忘れたな。覚えてないよ。流石に何年も前だからね。
とりあえず、山奥の道を通ったってのは覚えてる。
その頃はよく日帰りで軽井沢とか水上とかそっちの方に行ってたから、そこら辺じゃないかな。
うん、日帰り。父が車で出かけるのが好きでね。毎週、週末になるとどっか行ったもんだよ。それも、中学になる頃には無くなっていたけどね。いつの間にか。
んで、夜にその山奥の道を通ったんだ。
帰りだったかな。街灯なんかも山奥だから無くってね。真っ暗だったよ。ヘッドライトの明かりだけだった。時々、熊注意の看板とかがあってね。熊が出てきたらどうしようとか怖がってたよ。
ああ、懐かしいな。
山のさ、なんか道路が少し広がって、停められるようになってるとこってない? 車がさ。
あるよね。
父がさ、疲れたのかそこに車を停めたんだ。
んで、寝ちゃったわけよ。
すぐ寝る人だったなぁ。
私はなんか起きてたんだ。そう、その頃は寝てなかったなぁ。なんか、元気が有り余ってたのかもね。
忘れてたよ。
車を停めてから少し経ったとき。
急にラジオが流れ出したんだよね。
確か、それまでは音楽が流れてたはず。DVDのやつで。それもなんか、赤とんぼとかそんな感じのしんみりというか、切ないというかそんな感じのでね。
知ってる? 赤とんぼ。音楽でやったなあ。
それがまた、なんかこう……、なんていうんだろな。分からないけど、少し寂しいというかナーバス、違うな、まぁ、とりあえずそんな感じになったもんだ。
それが急にラジオになったのよ。ビクッとしたね。怖かった、というか驚いたって言う意味で。
それが確か、運悪く怪談系でね。夏だったからかな。あの少し変な声で、話すわけよ、パーソナリティの人がね。やっぱプロだからさ、抑揚の付け方がうまいんだ。
急に大きな声出したりね。
怖かったなぁ……。みんな寝てて、シーンとしててね。本当に静かだと、本当にシーンって音が聞こえるんだ。それもまた怖かった。
周りは真っ暗だったし、なまじヘッドライトの光が木を白く染めててね。不気味だったよ。
そんな中で怪談が聞こえるんだ。
いやぁ、恐ろしかった。
内容? 覚えてないなぁ……。
とにかく怖かったってのは覚えてる。
時々サザッと雑音が入ったりして。山奥で電波が悪かったからかな。
ああいや、内容は確か人魂とかそんなのだったかな。いや、提灯とかだったかもしれない。
ああそう、ラジオ聞く人、なんで言うんだっけ? そうそう、リスナー。
リスナーから来た怪談についてのハガキを読んでたんだ。
そこでちょうど、人魂の話になったんだ。
そこでなんとなく気配を感じて、外を見たんだ。何が居たと思う?
人魂? ああ違う違う。
鹿だよ。鹿。動物の。
その目が爛々と光っていてね。そう。動物の目は光るんだ。
それがあたかも人魂のように見えてね。
普通は見間違えないだろうけどね。そんな話を聞いたあとだったからさ。
これでおしまい。
え? 全然怖くないじゃんって?
いや、今じゃそうだけどね。その時の私にとっちゃ、とても怖かったんだ。
結局、怖いものなんてのは人間が想像しただけのものなんだ。さっきのクトゥルフ神話だってそう。ありゃあ、アメリカのなんとかって人たちが作ったんだろう?
つまり、人の想像力が一番怖いって話さ。
上手く纏めただろう?
じゃ、ここらで失礼するよ。
怖いものは、いつでも心の中に潜んでいるのさ……。
いや、冗談だよ。
今度こそ、さよなら。
そういや、なんで急にラジオになったんでしょうね。私も知りません。
*ラジオはあまり聞かないので、大体想像です。
ホラーというほどホラーじゃなくてごめんなさい。