表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/148

95話

「へぇ!フォレニアから来たんだ!私も一度行ってみたいなぁ………」

「あはは………」


 活発な声で楽しそうに話す少女。これから僕たちが泊まる宿と同じ宿に滞在しているらしく、だったらと言う事で一緒に歩いていたのだ。

 二人は見てわかる通り兄妹で、兄の名前はルイ。妹の方はリンだと教えてもらった。ちなみに、狐だと思っていたけど、厳密にはフェネックの獣人らしい。意外と種類が細かいね。

 二人共メディビアからは離れた遠くの砂漠から来たと語った。ルイは考古学者で、リンは冒険者として活動しているけど、基本的には一緒に行動をしている事が多いらしい。


「シオンさんは錬金術師なんだ!錬金術師の人って初めて会ったかも!」

「メディビアには錬金術師はいないのかい?」

「………兄さん、どうなの?」

「え?あー………そうだなぁ………メディビアに滞在している錬金術師の話は聞いた事が無いと思う。珍品を求めて一時的に訪れることもあるけど、ここは錬金術師が生きるには難しい土地だよ」

「だってさ!」

「そっか。ありがとう」


 ルイは僕より年上で、リンはフラウと同い年らしいけど………何というか、リンは無邪気という言葉がとても似合う。まぁ、元気があるのは良いことだと思うけどね。寧ろ、フラウが大人しすぎる気がしないでもない。


「ルイは遺跡の研究に来ているのかい?」

「あぁ、そうだよ。最近は特に新しく出土している遺跡が多くなってきているんだ。ただ、分かった事は未だに少ない。いくつかの遺跡は目的が推測されるようにはなったけど、確かな証拠は出てきていないんだ」

「へぇ………」


 僕にとっては都合が良い話だ。遺跡に向かうのは良いけど、既に調査が終わっているとあまり収穫が得られないからね。とは言え………いくつか懸念点もある。

 僕が遺跡に行くとして、ステラ達を連れていくかどうかだ。ダンジョン化していたり、罠がある可能性は聞いているし、リスクが大きいのは分かっている。彼女たちが弱いと思っている訳じゃないけど、ダンジョンに入ったことがないであろう人間を連れて行くのは些か不安になってしまう。

 じゃあ街で待たせるか、という話だけど………今日来たばかりだと言うのに、あの集団に襲われてしまったからね。彼らの狙いは分からないけど、もし彼女たちが狙われてしまった時に自信をもって大丈夫だと言う事が出来なかった。それくらい厄介な存在だったからね。


「君も遺跡に興味があるのかい?」

「ん?………そうだね。興味はあるんだけど………なかなか厄介ごとに巻き込まれているようだからね。少し迷っているよ」

「あぁ………あいつらのこと?」

「まぁね。ちなみに、彼らに心当たりはあるかい?噂を聞いた事があるとか」

「いや………あんな奴らの話は聞いた事が無いよ。寧ろ、君たちはあんな集団に狙われるような理由は………ありそうだね」


 そういってちらりと見たのはステラだ。まぁ、それはそうなのだけど。正直、彼らの目的は彼女ではない気がしていた。捕らえるつもりだったにしては、明らかに手加減が無かったからだ。まぁ、実際の所本当にそうだったとは断言はできないけど………


「はは………まぁ、あれで懲りてくれればいいんだけどね」

「随分と希望的観測だね」


 あはは。耳が痛いね。












「ここが宿です………その、此度は本当に申し訳ありませんでした」

「いや、気にしなくていいよ。あんな連中に襲われるなんて予想できないだろうしね」


 用意された宿に着いた後、申し訳なさそうに頭を下げる兵士に首を振る。僕だって、知り合いのいないこの街でいきなり暗殺者達に狙われるなんて思っていなかった。そういえば、シエルの方は大丈夫だったかな。今更不安になって来たよ。


「さて、僕たちは先に部屋に戻るよ。ここに滞在するなら気を付けるんだよ」

「シオンさん!またね!今度またお話聞かせて!」

「あぁ、またね」


 そう言って軽く手を振ると、ルイ達は宿の中へと入っていく。その姿を見送ると、フラウが小さく呟いた。


「………元気な人だった」

「そうだね………君もあれくらいはしゃいでも良いんだけどね」

「………いい」


 予想通りの返答に苦笑する。既に宿の方にも伝わっているから、名前を言えば鍵を貰えるらしい。


「そうだ。ロッカ、今日は外で待っていてくれるかい?暗殺者達は追い返したけど………諦めたとは限らないからね」

「!」


 ロッカが大きく頷く。そのまま宿の入り口付近で待機するように立つロッカ………他の客が驚いてしまわないかな。国王が手配したという割には意外と普通の宿だったけど、まぁ空き部屋の問題などもあるんだろう。それに、変に高級すぎる宿よりは少し質素なくらいが落ち着くと思うし。

 宿の中は落ち着いた雰囲気で、特に凝った装飾などは無いけどそれが寧ろ心地よく思えた。受付には茶髪の女性が立っていて、僕達を見ると小さく頭を下げた。


「いらっしゃいませ。シオン様御一行でしょうか?」

「ん、そうだよ」

「話は聞いております。私は女将のアナと申します。よろしくお願いします」

「よろしく。しばらくお世話になるよ」

「………よろしく」

「よろしくお願いします」


 挨拶を済ませると、アナは三つの鍵を差し出す。それぞれ番号札が付けられていて、それが僕らの部屋なんだろう。


「朝食と夕食の時間は無料で料理をお出しできます。お一人様に付き決まった献立となっていますが、追加の注文でしたら厨房にいる旦那のグレットにお願いします。その他の細かい御用でしたら、食堂にいる娘のリリアに申し付け下さい」

「あぁ、ありがとう」


 鍵を受け取って二人に渡す。それぞれの番号が隣り合っているから、部屋もすぐ近くみたいだ。それを確認した後、客室が並ぶ廊下の方に向かう。


「さて………しばらくは自由行動だね。けど、出発する前にも言ったように気を付けないといけないよ。予想外の敵まで出てきてしまったしね」

「………眷属を倒しに来たのに、人間の相手をするなんて思ってなかった」

「全くだよ」


 実際には眷属を倒しに来たのではなく、星命樹を解放するための助力を求めに来たんだけど。最終的には同じことだろう。とは言え、彼らの事が気にならない訳でもないけど。

 僕たち個人を狙ったわけじゃなく、来訪者を無差別に狙っただけ………という可能性はあまりに考えづらいし、有翼族を狙った有力者の刺客だとしても耳が早すぎる。僕たちが街に着いて一時間も経っていなかったのに、その短い間で情報を収集して暗殺者を動かしたと言うのはあまりに非現実的だった。

 となれば、元々僕たちの到着を知っていた人物………


「………まさかね」












 その後、僕らはそれぞれ当てがわれた部屋で休んでいた。流石にあんなことがあったその日に街を見て回ろうともならなかったしね。あ、ロッカの事をアナに伝えてなかったけど大丈夫かな。一応ゴーレムを連れてるって言うのは把握してるはずだけど。宿の外で待機させてるなんて知ったら迷惑がってしまうかもしれない。

 そう思って確認を取ろうと寝転がっていたベッドから身体を起こしたと同時に部屋の扉がノックされた。


「はい?」

「失礼します、シエルです。今大丈夫ですか?」

「あぁ、シエルか。構わないよ」


 扉の外から聞こえたのはシエルの声だった。僕が許可を出すと、そっと扉を開けてシエルが部屋に入って来る。


「国王との謁見は終わったのかい?」

「はい。無事協力も約束していただけたのですが………やはり、どうしても期間が掛かってしまうみたいで」

「それは仕方ないさ。君だって分かっていただろう?」

「そうですね………それと、こちらが本命なのですが。なんでも宿に向かう途中で暗殺者に襲われたと聞きましたが………」


 そう話しながら、僕が座るベッドの近くにある椅子に座るシエル。なるほど。既に話は聞いていたみたいだ。けど、それを聞くと言う事はシエルたちは襲われるようなことは無かったようだね。


「まぁね。その言葉から察するに、君たちの方にはいかなかったみたいだね。心配はしていたんだけど、何事も無くて何よりだよ」

「えぇ………国王との謁見中に兵士が駆けこんできたときには何事かと思いましたが………」

「あぁ、心配を掛けたみたいで申し訳ない」

「いえ、ご無事で何よりです。フラウさんとステラさんも怪我などはないですか?」

「特には。途中で助太刀も入ったからね」


 まぁ、実際はルイとリンが助太刀に入ってくれなければ傷の一つくらいは負っていた可能性も否定できないけどね。

 そういえば、幾つか気になることがあったんだ。


「この国では邪神の眷属の出現は確認されているのかい?」

「いえ………はっきりとした話はないようです。でも、それらしき噂は流れているみたいですね」

「ふむ………けど、噂があるってことは全く影響が無い訳ではないと見るべきかな」

「そうですね………」


 それらしき噂の出所がはっきりしない以上はどうしようもないけどね。ここは旅行者も多いし、外から流れて来た話が噂になってるだけの可能性だってある。まぁ、このまま実りの樹に異変がないとも思えないから、いずれ『その時』が来た時は真っ先に影響が出そうだけど。


「そういえば、国王は実際に会ってみてどんな印象だったかな」

「事前に聞いていた印象そのままでしたよ。真面目で温和な方でした」

「そうかい………あと、この街で大きな権力を持ってる商会を率いてる人物とかは?」

「いえ、そちらはお会いしていませんね………何か気になる事でも?」

「いや、聞いてみただけだよ」


 まぁ、権力者なだけで表向きの統率者じゃないんだから公的な場所には出ないか。色々気になることがあったんだけどね。


「そうですか………明日からはどうされる予定なんですか?来る途中にあった遺跡が気になると言っていましたが」

「そうなんだけどね………今日襲われたばかりだろう?遺跡に彼女達を連れて行くのは危険だし、かといって彼女達だけでこの街に残しておくのも危険だと思うんだ。僕の勝手で二人をニルヴァーナで待たせてしまうのも申し訳ないし」

「それはそうですね………」

「まぁ、明日は街を見て回るかな。二人も付いてくるなら一緒に行くし、残るならロッカと一緒にいてもらえばいいしね」


 ロッカがいれば、いくら暗殺者と言えども簡単に手を出すことは出来ないという確信があった。少々被害が大きくなってしまうけど、ロッカなら近接戦闘で引けを取る事なんて滅多にないだろうし、それが人間相手なら尚更だ。

 遺跡に行くときもロッカを置いていくということも考えたんだけど………それだと僕が無事に帰れるか危ういかもしれないと判断して却下した。そもそも、今の状態だと行くかどうかも悩んでいるけど。


「そういえば、宿に入るときにロッカが立っていただろう?邪魔になっていなかったかい?」

「え?………ふふ。寧ろ、子供たちがはしゃいで遊びに来ていましたよ。ロッカさんも楽しそうに構っていましたし」

「おや………杞憂と言うか何というか。まぁ、その様子なら大丈夫かな」


 ロッカに限って、加減を間違えて怪我をさせるとかはないだろうし。戦いとなると容赦が無くなるけど、彼は人間の耐久力などはしっかり把握しているし、加減の仕方も知っている。少し安心すると、シエルは椅子から立ち上がる。


「それでは、私は失礼しますね。私の部屋はここの二つ先なので、用があれば訪ねてください」

「わかった。またね」

「はい、それでは」


 そう言ってシエルが部屋から出て行く。さて、となると夜まで随分と暇だね。ここには研究用の器材なんて持ってきていないし………本の類でも持って来るべきだったかな。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ