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93話

 シエルたちと合流し、ニルヴァーナに乗った僕たちはメディビアに向かっていた。人の足なら一か月程………いや、数か月かかるかもしれないけど、ニルヴァーナなら数時間程度で到着する。移動と言う点で、時間を掛けずに済むのは助かるね。今は時間を悠長に使っている暇もないし。


「メディビアの国王がどんな人かって言うのは聞いたかい?」

「はい。筋を通す誠実な方だとお聞きしていますけど………」

「ふむ。なら、変なトラブルになることもなさそうだね」

「トラブル………ですか」


 シエルがちらりとステラを見る。国王がどんな人かを聞いているなら、その情勢だって聞いているだろう。流石に星命の子に手を出そうとする者はいないだろうけど、有翼族となると見た目的にも身分的にも一気に浮いてしまう。

 まぁ、メディビアに限らずどの国に行ってもステラが目立つのは仕方ないけどね。寧ろ、ステラが街を歩いていても変に声を掛けられたりしなかったフォレニアが異常なほどに平和だと言えるのかもしれない。


「まぁ、国王がまともなら大丈夫だろうさ………後は変な商人に目を付けられなければいいんだけどね」

「………まるで、貴族を相手にしてるみたい」

「まぁ、間違いではないかもね。メディビアでは貴族って身分の人間は少ないけど、商人が代わりに大きな力を持っているし」

「………でも、そのためにカードを貰ったんでしょ」


 まぁ、その通りだけど。でも、本来そんなに軽々しく使っていいような代物ではないんだよね。貰ったからには使う気はあるけど、いつでも使うって訳にはいかないし。

 僕が貰ったカードは、そのまま書いていた通りにフォレニアと僕が友好関係にあるという証明だ。ある意味で僕はフォレニアの後ろ盾を手に入れたとも言えるし、それを使うと言うのは同時に彼らを無条件に巻き込んでしまうという事でもある。


「まぁ………色々とあるのさ。それに、別に億劫に思っている訳じゃないしね。今までとは全く環境が違うし、面白い出会いがあるかもしれないだろう?」

「………シオンは、そういうところが不自由そう」

「あはは………普段自由にやっているからね。君も大きくなったらわかるさ」

「………子ども扱いしないで」


 そう言ってそっぽを向いて拗ねるフラウ。そんな姿にステラとシエルが苦笑を零し、マリンは面白そうに笑みを浮かべていた。君の拗ね方が一番子供っぽいんだけど………これを言って可愛らしく拗ねる姿が見られなくなるのは残念だし、言わないでおこうかな。















 それからしばらくして。既に下の景色は砂一面になっていて、遠目に見えるオアシスや小さな村が所々にあるばかりだった。今のところ魔物の姿は見ていないけど、この広い砂漠のどこにでも潜んでいる可能性があるのだから恐ろしいことだね。


「わぁ………本当に砂しかない………」

「まぁ………砂の海と言われることもあるくらいだからね。でも、それだけと言うわけじゃ………」


 そう言いながら何かないかと地上を見渡した時、とある物が目に留まる。砂の中に埋まっているようだけど、明らかに人工物が存在していた。遺跡だろうか?規模感は普通の民家などとはとても思えないほどで、遠目で見てもここ数年で埋まってしまった物ではないように思えた。

 僕がそれを見つけたのを気付いたのだろう。皆もそっちを見て興味深そうな表情を浮かべていた。


「………遺跡?」

「多分ね………ふむ。少し興味があるけど………」

「あの………」

「いや、流石に今から行くつもりはないさ。でも、メディビアに着いてすぐに星命樹に出発できるわけじゃないし、その間の自由行動で行こうと思ってるよ」

「そうですか………」


 心配そうに声を掛けてくるシエルに苦笑する。まぁ、確かにこの状況で悠長にそんなことを言われたら、不安にもなってしまいそうだけど。

 大体どれくらいの期間滞在するかは分からないけど、数日そこらでと言う訳じゃないのは予想できた。全貌を解き明かすまでは無くても、面白い発見くらいなら出来ると思う。もし気になるなら、事が終わった後でまた来ればいいだけだしね。

 そうして、砂漠を進んでいた時。遠くに大きな影が見える。この砂漠という土地には似合わない大樹がそびえ立っていた。その城などといった物とは比べ物にならないほどに巨大な樹の下には、今まで見ていた村などとは比べ物にならない程発展した街並みが。


「へぇ………星命樹の分身体なんだから、小さくは無いと思っていたけど………これほど大きいとはね」

「私も自分の目で実りの樹を見たのは初めてですが………こうなっていたんですね」

「星命樹はもっと大きいのかい?」

「そうですね………星命樹は本当に雲よりも高いですから。でも、砂漠にこんな大樹があるのも衝撃的です」

「それは確かにね」


 単純な大きさもだけど、砂漠と言う土地に立つ大樹と言うのはなかなかにインパクトが大きい。今まで植物なんて全く見なかったから尚更ね。

 そして、僕は大樹が放つ生命力にも驚いていた。あまりに強すぎるそれは正直に言うと………


「………」

「………どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」


 フラウが怪訝そうな顔をして僕に尋ねる。けど、彼女に話しても分かることじゃないから言う必要はないと判断してはぐらかした。

 大樹の生命力は凄まじいけど、その強すぎる生命力のせいで、あの街で僕の目が正常に機能するかちょっと怪しいと思っている。停止できるから問題ないと言えばそこまでだけど、必要な時に使えないのは不便だ。

 まぁ、試してみない事には分からないけど………多分駄目だろうね。













 街の周囲まで付いて、僕は降りれる場所を探していた。街を大きく一周してみたけど、やっぱり発着場やニルヴァーナが降りれるような場所はないみたいだ。街には大樹があるし、そもそも接近が難しいとも思ったし、素直に正門から入ろうかな。


「ニルヴァーナ、門の前で降ろしてくれるかな」

≪分かりました。今から降下します≫


 ニルヴァーナがゆっくりと降下していく。その間に全員が持っていく分の荷物を用意する。流石に数日分の物資を全て持っていくわけじゃないから、手荷物と言った程度だけど。


「荷物は持ったかい?」

「私は大丈夫」

「はい、私も大丈夫です」


 ステラとシエルが返事をして、フラウは無言で頷く。マリンは………殆ど何も持っていないようだけど、まぁ多分大丈夫なんだろう。そのまま僕らは光に包まれ、地上へと降りる。正門近くには商人や冒険者達が並んでいて、突然現れたニルヴァーナと僕達に驚いていた。


「な、なんだぁ!?」

「龍から人が………!?一体どういうことだ………!?」

「いや、有翼族までいるぞ!なんでこんなとこに………」

「あのでけぇゴーレムはなんだ!?」


 混乱の喧騒が正門近くを包み込む。悪いとは思うけど、一々説明をしてたら切りがないし、早く街の兵士に話を通そう………と思っていたら、向こうから来てくれたみたいだ。


「失礼します。シオン様で間違いないでしょうか?」

「あぁ、間違いないよ」

「話は聞いています。ですが………何というか、派手な登場ですね」

「騒ぎを起こすつもりはなかったんだけどね。まぁ、申し訳ないよ」


 兵士が苦笑する。まぁ、取り敢えず話を聞いてるのなら目的も知っているはずだ。


「それでは、あちらの入り口を使いましょう。そこからは我々が案内します」

「あぁ、頼むよ。あと、王に謁見するのは………」

「はい。それも聞いています。国王様が既に皆さんの宿を手配しておりますので、シオンさん達はそちらに案内させていただきます」

「すまないね」

「いえいえ、こちらも仕事ですので」


 そう言った兵士が歩き出し、僕らも付いていく。正門に並ぶ人たちの視線が突き刺さっているのが分かるけど、特に気にしないように努めていた。ステラは気まずそうにしていたけど。

 そのまま兵士が入った正門より小さな入り口を通り、街の中に入る。頑丈そうな石造りの建物が並び、多くの人が行き交っていた。フォレニアも相当賑やかな街だったけど、メディビアもそういう意味では遜色ない程の賑やかさだった。


「へぇ………砂漠の街だと聞いて、もう少し静かなイメージだったけど………随分と発展しているんだね」

「経済力と言う点では、メディビアは多くの商いによって恵まれている国ですので。兵力や人口と言う意味では、圧倒的に他国に劣っていますが」

「まぁ、それは仕方ないさ。それに、兵力が必要な事も無かったんだろう?」

「そうですね。我々も軍と言う立場ではありますが、専ら治安維持が仕事です」


 軽く兵士と言葉を交わす。でも、この会話の中にメディビアからすぐに星命樹に出発できない理由が詰まっていた。それが、兵力が圧倒的に不足している事だ。

 流石に前の戦いで疲弊したフォレニア軍ほどではないにしろ、動かせる戦力を招集するのには時間が掛かってしまうだろう。この街には冒険者も多くいるし、そこからも集めるとすれば更に。そして、用意するのは戦士だけではなく兵器もだ。当然、今まで戦争なんてしてこなかった国が大量の兵器を持っているはずが無い。

 商人が集まる街で用意できないということは無いだろうけど、それもまた時間が掛かる。だからこそ、すぐに出発するのは無理だろうと踏んでいた。


「少しお待ちください。護衛役を後数人呼んで来ますので」

「ん?………そうかい。分かったよ」


 そう言って、門の近くにあった兵舎に駆けていく兵士。それを見て、フラウが首を傾げていた。


「………護衛を数人?」

「まぁ………必要だと判断したんじゃないかな」

「………」


 無言で小さなため息を付くフラウ。まぁ、言いたいことはあるんだろうけど、言わないのが大人だ。そのまましばらく待っていると、兵舎から六人の兵士が出てくる。


「お待たせしました。それでは行きましょう」

「………思ったより多いね」

「まぁ………そうですね。これくらいいなければ、抑止力としては不十分だと判断しましたので」


 そう言った兵士がチラリと目線を向けたのはステラだ。確かに、有翼族なんて普通なら商人が見逃すはずもないしね。そういう意味では、確かにこれくらいいれば変な連中も声なんてかけてこないだろう。

 そのまま僕らは兵士達に案内されて街の中を歩いていく。住民達は僕らを見て様々な反応をするけど、やはり驚きが多かった。兵士が六人もいることは逆に目立つんじゃないかと思ったけど、殆どの視線がステラに向いているからあんまり変わらないんだと思い直すことにした。

 当然、注目の的になっているステラは居心地が悪そうだ。歩いている途中でついに耐え切れなくなったのか、少し遠慮がちに僕の袖を掴んでくる。


「………」

「まぁ………色々と大変だね。くれぐれもはぐれないようにね」

「うん………」


 そういえば、案外フラウはこういう空気になっても特に………いや、ちょっと機嫌が悪そうだね。いつもの無表情ながら、ちょっとだけ不機嫌オーラを纏っていた。というか、寧ろ最近は少しだけ気持ちが表情に現れるようになってきたから、無表情の時は不機嫌な事が多い気がする。


「………目立つって大変なんですね」

「はは………まぁ、ちょっとだけね」


 シエルが気の毒そうに言い、僕は苦笑を浮かべる。僕も似たような経験はしているから、分からないでもない。僕は慣れたけど、誰でもそういうわけにはいかないだろうし。

 それに、滞在期間中に少しは大人しくなるだろう。なんて楽観的な事を考えながら、周りの景色を見ていた。

 けど、やっぱり一番に目を引くのはあの大樹だろう。これだけを見たら、星命樹に異変があったなんて信じられないね。

 そう思っていると、ふとシエルが真剣な眼差しで実りの樹を見つめている事に気が付いた。何を考えているか、詳しくは分からないけど。


「………」


 星命の子という立場だからこそ、何か思うところはあるんだろう。それに、今までの旅を思い返せば色々大変なことだらけだったと思うし。彼女は何かを思い出すように、少し遠い目で大樹を見つめていた。















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