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90話

「あの、シオンさん………」

「ん?」


 戦いが終わって、その後始末を手伝っていた時にセレスティアから声を掛けられる。まぁ、後始末と言ってもするべきことは殆どないけどね。戦士たちの遺体は残ってすらいないし、治療が必要な者も医療魔法を使える者が対応しているし。


「あの眷属は一体何なんでしょうか………明らかに今まで戦ってきた眷属とは訳が違います」

「あぁ………そうだね。あれは何というか………端末、と言えばいいのかな?」

「端末?」

「分かりやすく言えば、邪神が自らの意思を宿した人形だね」

「人形………ですか」


 まぁ、かいつまんで言うとそういう事だ。実際にはそこまでに至るプロセスがあるけど、それは重要じゃないしね。重要なのは、あれが持つ性質だろうし。


「何となく察したかもしれないけど、あれには物理攻撃が大きな弱点ではなくなっている。と言うより、殺傷力を持たないと言うべきだろうね」

「私の炎も効かなくなっていました………」

「多分だけど、君の祈りに応えた神がいたんだろうね。けど、あの端末は邪神の意思を宿していて、同時にその神性を有していたんだ。祈りの対価に与えられた程度の神性じゃ、それを突破する事は不可能だよ」

「では………私達では、あれに勝つことは不可能ということですか?」

「言葉を選ばなければそうなってしまうね」


 取り繕っても意味が無いからはっきり言う。寧ろ、ここで事実を言わないのでは再び彼女たちは無謀な真似をしてしまうだろうし。それに、彼女だって戦っていて予想していたはずだし。


「やっぱり………そうなんですね」

「でも、僕が来るまで良く持ちこたえていたと思うよ。彼女の助力があったとはいえね」


 そう言って、戦場を眺めていた小さな少女を見やる。僕の視線に気付いてこちらを見る蒼い髪の少女は首を傾げた。


「何?」

「いや、君が来てくれて助かったと思っただけだよ」

「………あなたのお友達が見栄を張らずにあなたを呼んでいれば、来る必要もなかったんだけど?」

「それは僕に言われてもね」


 それに関しては僕に文句を言うのはお問違いだろう。まぁ、事実ではあるんだけど。あの傀儡の無敵性は、本来の弱点を補う事で初めて無敵になれるのだし。

 けど、弱点を突かれれば脆いのは本来の眷属と大した違いはない。


「まぁ、今後は僕を呼ぶようにちゃんと言っているし………それに、あれを作ったという事は邪神も意外と焦っているのかもね」

「邪神が………?」

「あれを作り出すための養分があれば、復活のためのエネルギーをもっと蓄えれたはずだ。けど、わざわざ地上で多くの命を奪うことを優先したという事は、早急に地上を占拠するつもりだったという事だよ」

「何故、復活を優先しないの?」

「まぁ………この星の生命の抵抗が想像以上に激しいと思ったんだろうね。今の所、普通の眷属だけじゃ劣勢と言えるだろうし。勿論、十分脅威ではあるんだけど」


 この調子じゃ、邪神の復活がいつになるか分からない。その間に器となる存在が見つかって再び星の核に憑りついた分身が封印されたら堪ったものじゃないと思ったんだろう。

 そうなる前に、星の戦力を大きく削ることを選んだ………と言ったところかな。とは言え、星命の樹を奪われた時点でかなり不味い状況ではあるんだけど。


「あの………」

「ん?」

「お二人は知り合いなのでしょうか………?」

「いや、全く。話したことすらないよ」

「初対面。何となく、どんな存在なのかは分かるけど」


 セレスティアが僕と少女を見比べる。初めて会ったにしては会話がスムーズだと思ったんだろう。まぁ、目的が一致していた以上は会話が滞ることは無いだろうし、不思議じゃないと思うんだけどね。僕は人見知りでもないし。


「そういえば、自己紹介が遅れたね。僕はシオン。よろしく頼むよ」

「フェイリシア。フェイでもリシアでも、好きに呼んで」


 彼女がそう名乗った時、セレスティアの目が見開かれる。僕も少し驚いたけど、まぁ、おおむね予想通りと言ったところだ。


「フェ、フェイリシア………?じゃあ、あなたは………」

「神龍。昔より、力も神性も衰えてるけど」


 神龍フェイリシア。龍達の神ではなく、神である龍。まぁ、龍たちの中では最上位であるという意味ではそんなに違いはないけれど。龍の中で頂点に立つ龍が神として昇華された存在であり、起源が龍が故に高い神の中でも戦闘力を誇ることで知られる。見方や伝承によっては、戦神と語られることもあるけど、純粋な神ではないためその神性そのものは高いとは言えないとされる。

 今回はそれが仇となってしまったみたいだね。神たちも、自分たちがここまで力が衰えるのが早いとは思っていなかったんだろう。神性を抜きに考えても………まぁ、正直僕と同等かな?


「なるほど、神龍だったんだね。神だというのは分かっていたけど………ふむ、君がここにいる理由は、炎神と同じという事かな?」

「似たようなもの………彼はここにいないみたいだけど」

「他にやることがあったんじゃないかな。それに、全く関与しなかった訳じゃないみたいだし」

「それはそうだけど………」


 彼がこの戦いを認識していて、間接的に力を貸していたのはセレスティアの炎が眷属を葬っていたという話から何となく理解していた。この子だって、神であるなら感じているだろうし。


「まぁ、それはそれとして。君はこれからどうするんだい?」

「取り敢えず、行かないといけない場所がある。今の力じゃ、とても戦えないから」

「なるほどね………どこかに行くにしても、気を付けなよ。君が取り込まれたら、それこそ最悪の事態だし」

「分かってる」


 フェイリシアが頷く。その時、僕らの下へ一人の騎士が近付いてきた。


「セレスティア様。戦場の始末が大方終わりました」

「そうですか………ご苦労様です」

「既に迎えの飛空艇も来ているとのことですが、シオン様は………」

「いや、僕達は帰るよ。フラウとステラを家に待たせているんだ」


 当たり前だけど、ここに二人を連れてきてはいない。何があっても守るつもりではあるけど、もしものことがあれば後悔しきれないからね。それに、あれを相手にするなら僕とロッカ、ニルヴァーナで十分だし。


「では、一度ここでお別れですね………その、助けていただき、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。まぁ、また近いうちに会うとは思うけど。近々、そっちに行くことがあると思うしね」


 そう言って、僕は彼女たちに背を向ける。彼女達にはまだやることがあるし、僕もやることがある。なら、ここにいつまでも居るわけにはいかない。空を見上げると、ニルヴァーナが降りてくる。最後に彼女達の方へ振り向き、小さく頷いて僕とロッカは光に包まれた。












 家に戻った僕は、扉を開けて中へと入る。すると、ソファーに座っていたアズレイン。そして、食卓の方で飲み物を飲んでいたステラとフラウが僕の方を一斉に見た。ロッカがいつもの部屋の端に向かう中、一番に口を開いたのはアズレインだった。


「シオンさん!セレスティア様達は………」

「彼女達なら無事だよ。ただ、討伐隊は殆ど壊滅してしまったけどね」

「そうですか………ですが、セレスティア様を助けていただいた事、心から感謝します」

「友達だからね。当然の事だよ」


 そう言って、僕はアズレインの反対側のソファーに座る。すると、コップをキッチンに戻して僕に近付いてきていたステラが口を開いた。


「あなたが無事でよかった………怪我はない?」

「うん、大丈夫だよ。どこも傷はない。心配を掛けたね」

「ううん………無事ならいいの」


 そう言って彼女は隣に座る。そういえば、一番に心配してきそうなあの子が何も言わないのを不思議に思ってフラウを見る。すると、その視線に気づいたフラウが小さく微笑んだ。


「………あなたなら、きっと大丈夫だって思ってたから」

「そっか………まぁ、そういう割には心配していたみたいだけどね」


 フラウの言葉に小さく笑みを零したステラを見て、彼女が待っている間の事を察した。するとフラウはほんの少しだけ頬を染め、まるで抗議するかのように軽くステラを睨んだ。


「ふふっ………ごめんなさい。そんなに怒らないで?」

「………ふん」


 態度はそう怒りながらも、そのままステラの隣に座る。それが微笑ましくてくすりと笑うと、フラウはちらりと僕を見る。


「………なに?」

「ううん、なんでもないよ」


 まぁ、からかうのはここまでにして。僕は改めてアズレインの方を見る。それに気付いたアズレインも微笑まし気な顔を引き締めて僕に向き直る。


「さて。いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「聞きたいこと、ですか?」

「うん、気になることがあってね。つい最近、城に星命の子が訪ねてこなかったかい?」

「ふむ………なるほど。それを知っているという事は、あなたが関わっていましたか」

「まぁね」


 特に秘密にする必要がないから、そのまま肯定する。アズレインは少しの間考えるように沈黙すると、再び口を開く。


「それで、彼女たちがどうしたのでしょう?」

「いや、彼女は君達に星命樹を解放するために援軍を頼みに来たんだろう?それに対してどう答えたのか気になってね」

「………そうですか」


 再び沈黙するアズレイン。しかし、今度は答えるべきかを悩んでいるようだった。しばらく答えを待っていると、アズレインは決心がついたかのように僕を見た。


「結論から申し上げますと、私達は彼女の要求を断りました。しかし………」

「いや、分かっているよ。眷属の話を聞いた後、そうなるんじゃないかと思っていたからね。そして、この一件が片付いた後も彼女に手を貸すことは出来ない………違うかい?」

「………その通りですね。心苦しいですが、討伐隊がほぼ壊滅状態ならば、星命樹へ向かわせる戦力など私達には残っていないでしょう」

「だろうね。あの惨状を見れば、続けて大きな戦いをするのは不可能だって言うことくらいすぐに分かるよ」


 詳しい被害は僕も知らないけど、聞こえていた話では飛空艇もかなりの数が撃墜されていたらしい。あれを一機作るのにも相当コストが掛かるだろうし、今回の人的被害や兵器の損害を考えればすぐに変えが利くようなものでもないのは分かり切った事だし。

 少なくとも、眷属達が蔓延る地域へ突撃するだけの余力はないだろう。


「………シオンさんは向かうのですか?」

「まぁ………放っておくわけにはいかないさ。このままじゃ、この星で死ぬだけでその魂は邪神の眷属として生まれ変わることになる。それじゃあ、永遠に数を減らすことも出来ないからね」

「それは分かっていますが、あの地へ今踏み込むのは………」

「分かってる。僕だって、彼らの危険性は十分知っているからね。どこかに協力を仰ぐのは前提として………一応、その当たりも付けてるんだ」

「当たりを………?シオンさんは、フォレニア以外にも関わりのある国が?」


 そう尋ねてくるアズレインに首を振る。


「いや、ないよ。けど、星命樹の危機であれば、手を貸してくれそうな国を一つ知っているんだ」

「………なるほど。メディビアですか」


 アズレインの言葉に僕が頷く。でも、彼は曇った顔をしたまま口を開いた。


「しかし………あの国はお世辞にも大国とは言えません。戦力としては………」

「少なくとも、いないよりはずっと大きな力になってくれるはずさ。それに、戦力だけで言えば僕で十分だからね。欲しいのは人手なんだ」

「………そうですか。では、私達からも微力ながらもお力添えを。メディビア領主への紹介状を書かせていただきます。幸い、フォレニアとメディビアは友好関係にあるために、権能であるという事も踏まえて融通を利いてくれるでしょう」

「それは助かるよ。でも、出来ればそれに加えて事前に僕の事をあちらに伝えてくれると嬉しいかな。余計な説明を省けるからね」

「かしこまりました。それと、魔術学院の授業ですが………」

「あぁ………予定を遅らせたりは出来るかい?」

「なるべく尽力しましょう」

「悪いね。頼んだよ」


 とんとん拍子で事が決まっていく。とにかく、邪神があれを出してきたのならばこれからは更に手段を択ばなくなってくるはずだ。何をするにもまずは彼らの戦力を削らなければならない。

 それに、死者の魂を好きに弄ぶのは許される事じゃない。取り敢えず、まずは計画を練って準備を進めないといけない。話し合いはしばらく続いて、彼が帰ったのはほぼ日が沈むころになっていた。

 彼を見送った僕は、今後の事を考える。まずは、準備を整えなければいけないね。












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