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86話

「陛下。戻りました」

「そうか。奴の動向は?」


 陛下の前に跪いて、竜の巣窟で手に入れた情報を伝える。危険な任務ではあったが、世渡の蝶の二位として失敗するわけにはいかなかったし、実際に生還した。しかし………良い報告は持って来ることは出来ない。


「竜の巣窟内の眷属達は現在も地上を目指して進行しているようです。洞窟を崩落させて足止めを行っていますが、このペースではどう足掻いても、明日には地上に出てくると思われます」

「………そうか。迎撃部隊の招集はどうなっている?」

「滞りなく。しかし、冒険者からの参加が予想以上に少ないようです。貴族私兵や他領土の騎士も含めて凡そ一万名程は集まっていますが………」

「冒険者の参加が?報酬は十分用意しているだろうな?」

「勿論です。白金貨二枚を参加報酬、戦果に応じて上乗せするという条件にしているのですが………」


 言葉に詰まる。これを伝えて良いものかと少しの間考えたが、どの道誤魔化したところでいずれ耳に入る情報だ。であれば、この場で言った方が良いだろう。


「ギルドの方で既に先日の討伐作戦が失敗に終わったことが知られているようです。その詳しい被害なども含め、それらが冒険者に伝わっていると思われます」

「………つまり、冒険者達は怖気づいていると?」

「有り体に言えばそうなります」


 包み隠さずに言う。無論、それを知っていてなお自分ならば大丈夫だと言う勇猛な冒険者もいる。しかし、本来期待していた半分にも満たない人数しかいなかったのだ。

 期待通りなら今頃更に五千人程は確保できていたはずだった。冒険者はギルドに登録さえすれば誰でもなることが出来るため母数が多い。つまり、数を揃えるだけならこれ以上ないのだ。

 無論、相手は命を奪う事で強大になり、邪神の復活に近付いていくため足手まといを連れて行くわけにはいかない。最低でも一流と言われる程度のBランク以上を条件にしていた。

 それでも五千人は確保できる見立てだったのだから、母数の多さと言うのは偉大だ。結局集まっていないが。


「………我の耳に入っていた話だと、冒険者は恐れを知らぬ者達だと聞いていたのだがな。知らな過ぎて少々羽目を外す事も多いが」

「普段冒険者達が犯すような犯罪では死刑などにはなりませんからね。いざ本当に危険度が高すぎる依頼となれば彼らもそうとはいかないのかもしれません」

「………」


 陛下が呆れたように頭を抱える。眉を顰め、大きなため息を付いた。気持ちはわかるのだが。眷属については世渡の蝶でも厳重に情報規制は行っているのだが、ふと遭遇した冒険者や旅人などから話が広まりつつあるのは事実だ。

 そしてどこからか漏れてしまった情報も広まり、彼らは命を奪った相手を同じ怪物へと変えてしまうと言う話まで出回り始めているようだ。死ぬのみであれば冒険者も普段の仕事を考えれば危険な事に変わりない為、もう少し参加者は増えたのかもしれない。

 しかし、自分が怪物になってしまうとなれば話は違う。人が魔物に堕ちる話や、呪いや病によって怪物へとなってしまう話は昔からある。これらは実質的に死ぬだけでなく、人としての尊厳も奪われるため死よりも恐れられているのだ。


「………首尾は?」

「順次参加者を迎撃予定地に設営した駐屯地に招集中です。移動には飛空艇を使っているため移動は時短を行えていますが………本当にセレスティア様の参加を認めるのですか?」

「あの子が自ら望んだことだ。その権利も既にセレスティアは持っている」

「しかし………」

「いずれあの子は王として民の先頭に立つのだ。その覚悟があるのであれば、我から口を出すことは出来ん」

「………」


 陛下がセレスティア様を誰よりも愛しているのは理解している。それに、セレスティア様がいずれ王として戦地に立つ事があることも理解できる。しかしこのような危険な戦いに参加させるべきなのかと思ってしまう。

 つい先日カレジャス様が戦死したというのに。


「あの子は強い。セレスティアの持つ剣は決意を映す炎と聞いた。その輝きを示す時だ。お前達が信じなくてどうする」

「………信じていない訳ではないのです。しかし、些か危険すぎるかと。戦地に絶対はありません。もしものことがあれば………」

「もしものことがあれば、その時はベルダが跡を継ぐだろう」

「それで良いのですか?」

「あの子も十分に優秀な子だ。セレスティアとは違う道になるだろうが、それも一つの歴史となるだろう」


 そう言った陛下の言葉に迷いはなかった。陛下の事は尊敬しているし、素晴らしい王だと思っている。しかし、何故自らの子が死んだというのに涙一つ流さないのだろうか。それが強さであることは分かるが、人であることを止めねばならないのが王と言う存在なのだろうか。

 俺は何も言えず、報告を終わらせてその場を去った。












 ステラが帰ってきた後、しばらく静かな時間が過ぎていた。フラウもステラの隣に座っていたけど、いつの間にか静かな寝息を立てていた。まぁ、今回ばかりは仕方ないだろうね。昨日はステラの事が心配で眠れていなかったみたいで、朝からとても眠そうだったのを我慢していた。怪我をしてしまうと困るから、朝食だけは僕が作ったけど。僕の隣に座っていたステラはずっと手を握っていたけど、やがてそっと両翼で左右に座っている僕とフラウを包み込んだ。


「………大丈夫かい?」

「うん………大丈夫。今はあなた達がいるから」

「そっか」


 そう言って僕を翼で包んだまま目を閉じて寄りかかって来るステラ。このまま眠ってしまいそうな気がしたけど、今日くらいは良いかな。

 ステラが無事なのを確認したら研究の続きをしようと思っていたんだけど。まぁ、こういう時間もたまにはいいかな。

 それに、色々と考える時間も欲しかったところだ。邪神の眷属の行動の変化や、星命樹の事。これらに繋がりがあるとして、それがどう変わったのか。

 もしかすれば、眷属からすればステラじゃなくても良かったと言う可能性もある。あの村にステラが帰って来ると踏んで罠を仕掛けておくなんて普通に考えて不可能だろうし。

 いや………それでも謎だね。わざわざ捨てられた村に待機させる理由が分からない。人に化けることが出来るのなら、街に戻って相手を探せばいいはずだ。

 取り敢えず、精神干渉も無効化するマジックアイテムを作っておくべきだろう。今後何があるか分からないからね。なんにせよ、彼らの思い通りにさせるとあらゆる意味で悪いことにしかならないと思う。

 後は………そうだね。ステラが言っていたグリズと言う青年の姿を象った理由だ。彼はあの村から逃げ出したという話だったはずだ。そもそも、彼があの村に言った理由は何だったのだろうか。


「………シオン」

「ん?」

「………あなたは、前に普通の人間じゃないって言ってたよね」

「え?………うん、まぁそうだけど」

「寿命も、人間より長いんだよね………?」

「そうだね?」


 意図が掴めなくて少し困惑するけど、取り敢えず頷いておく。彼女は前から察していたと思っていたし、何ならアズレインと話した時にはっきり言っているし。

 今更こんなことを聞かれるとは思っていなかった。もしかして、昨日何かあったのかな。


「………何かあったのかい?」

「………私、いつか一人になっちゃうんじゃないかって」

「君が有翼族だから?」

「………うん」


 昨日は告白の流れから襲われたらしいし、その時に一度種族柄の寿命を考えることがあったのだろうか。まぁ………うーん。


「どうだろうね………君が今どれくらい生きてるかは分からないけど、はっきり言えばそんなに変わらないと思うよ。悲しいけど………僕は確実にフラウより長く生きてしまうだろうし」

「そう、なんだ………」

「まぁ、それは仕方のない事だからね。だからまぁ、良ければ長く一緒にいてくれれば嬉しいよ」

「うん………私もだよ」


 何だかんだと、僕は人と一緒にいるのが好きだ。そういう生活が当たり前だったからかもしれない。一人きりでいると寂しいという訳じゃないけど………まぁ、寿命が近くて一緒に居られる人がいるのは凄く幸運な事だと思う。

 フラウとお別れになるまでにも相当長い時間があるんだけど………それでも辛い物は変わらないしね。今は僕より幼い容姿なのにね。

 思わずフラウを撫でたくなったけど、ステラの向こうにいた事を思い出す。可愛がられるうちに、目いっぱい可愛がるべきだね。













 二人が静かになる。多分少し眠ろうとしているんだろう。私は………二人の会話で少しだけ目が覚めてしまった。真面目な話だったからもう一度眠っておこうかと思ったけど、シオンの言葉で眠気が完全に消えてしまった。

 私とシオンはいつか死に分かれる。考えたことが無かった。彼の話なら、残してしまう方は私だ。辛い思いをさせるのは私なはずなのに………今までで一番ショックを受けた気がする。

 残してしまう方も辛いって言うのは聞いた事がある。でも………それだけじゃない気がする。彼と別れることが辛い。望むなら、彼の最期までずっと一緒に居たい。

 彼は命に対する考えが凄く大人だから、きっと私と死に分かれるのも割り切れているんだろう。でも私は………それを受け入れることが出来なかった。

 死んでしまったら、この幸せな日々も終わるのだと。前はただ漠然とした死への恐怖があった。でも、具体的な理由があると………死に直面してないのに、いずれ来るそれがとても怖く思えた。

 死にたくない。あの日シオンに助けを求めた時の言葉だ。あの日の事ははっきりと覚えている。私がシオンと出会った日。

 もしまた同じ言葉を彼に伝えたら、彼は私を助けてくれるだろうか。














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