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76話

 幾つもの席と机が段々と連なった広い部屋。ここは総合魔法科が集会をするために用意された部屋らしい。そこに座っている僕と変わらない年齢の男女たちは、教壇の前に立つ僕達を見ていた。

 意外な事に、ちゃんとこの世界にも制服はあったみたいだ。白を基調とした制服で、清潔感のある雰囲気を纏っていた。


「それでは、自己紹介をお願いします」


 ルーシーの言葉に頷いて、僕は彼らの方を見る。それと共に生徒たちに緊張が走ったのが分かる。まぁ、緊張しているのはステラとフラウも同じようだけど。僕は………まぁ、今更緊張する事なんてないかな。ロッカは緊張と言う感情そのものを理解できないみたいだし。


「じゃあ、自己紹介といこうかな。知っての通り、僕はシオン。今日から三ヶ月、君たちの講師を務めることになった。出来るだけ、君たちにとって有意義な授業を行えるようにしたいと思っているから、どうかよろしく頼むよ」


 僕が自己紹介をすると、小さく頭を下げる生徒たち。礼儀を気にする必要が無いと言いたいんだけど、一応にも講師として立つ以上は下手な事は言わない方がいいかな。


「こっちの二人は聞いてると思うけど、僕の連れのフラウとステラ、そしてロッカだ。特にステラは有翼族で珍しいと思うかもしれないけど、あんまり下手なちょっかいは掛けないようにしてくれると助かるよ」


 二人の紹介をすると、ステラは小さく頭を下げる。フラウは黙ったまま立っていたけど。ロッカは小さく手を上げて挨拶をする。全員がそんな三人を見ると、フラウが小さく僕の袖を掴む。ステラも翼で自分を隠し、困ったように顔を逸らしている。そんな二人の様子に気づいたのか、生徒たちは僕へと視線を移した。

 おや、案外気遣いが出来る子が多かったみたいだ。


「そうだね………じゃあ、一人一人自己紹介をしてもらおうかな?伝えておきたいことや、聞きたいことがあれば一緒に聞くよ。それじゃあそっちの列から順番にお願いできるかな」


 そう言うと、生徒たちは順番に席を立って自己紹介をしていく。こう言う光景は少しだけ懐かしさを覚えるかもしれない。前世で学年が変わり、担任の教師が変わった時はこんな風に自己紹介をしていた気がする。

 そんなことを考えながらも、ちゃんと生徒の自己紹介は聞いている。やっぱりと言うべきか、家名持ち………つまり貴族の子が多い。僕が指名したのは三年生の席だったみたいで、生徒会に入っている人はそれを伝えたりしながら自己紹介をしていく。


「生徒会長、アウィン・スターライトです。よろしくお願いします。私から一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?

「いいよ。何かな」


 自己紹介をしたのは一人の青年。蒼い整った髪と、黒い瞳。整った風貌で、いかにも誠実そうな印象を受ける面持ちで僕を見ていた。生徒会長と言うのも納得できる。まぁ、僕の学校では別に普通の男子が生徒会長だったけど。


「先生は『権能』として多くの魔法学を知っていると思います。『権能』は、それらの魔法を何のために使うのか、昔から気になっていたんです」

「ふむ………何のため、か。つまらない答えになってしまうかもしれないけど、案外君達と大差はないよ。僕にとって、魔法学は夢を追い求める中での通過点に過ぎない。発見した魔法で世界征服や、大きな大義を成そうとしている訳じゃないからね。その答えは、基本的には自分のために使う、が正しいかな」

「………なるほど。ありがとうございました」


 そう言って席に座るアウィン。魔法を何のために使うかは人それぞれだろう。でも自分の身を護る、生活を便利にする、仕事のためといったふうに色々と目的は違うことがあっても、全ては自分の為であることには変わりない。

 僕はただ、この『世界の真理』を知りたいだけだ。そのために知ったあらゆる副産物の使い道なんて、使える時に使う程度であって、別に大きな目的はない。

 何人かが意外そうな顔をしながらも、自己紹介は続いていく。中には………


「先生は好きな人はいるんですか!?」

「おい、ラウザ!先生に失礼だぞ!」

「いいよ、そのくらい。取り敢えず、その答えもNOかな」

「えっ!?」


 ラウザと呼ばれた赤髪の青年は、僕の答えを聞いて驚いたように声を上げる。先ほどラウザを注意したアウィンも、少しだけ驚いたように眉を動かした。

 やはり、ここにもうわさは広がっているみたいだ。先に訂正しておいた方がいいかな。ルーシーも勘違いしているみたいだし。


「先に言っておくけど、この国に流れている噂はデマだと思っていいよ。僕はセレスティアと婚姻の約束なんて交わしてないからね」


 その言葉にざわめく生徒たち。一番の動揺がこんなことでなんて、あんまり感心しないんだけどね。今まで冷静に勤めていたルーシーまでもが少し驚いたような表情を浮かべていた。


「さて、次の自己紹介を頼めるかな」


 もしかしたら、案外学校と言うのはどの世界でも大きく変わらないのかもしれない。












 全ての学年の総合魔法科の自己紹介が終わり、そのまま今日のところは解散となった。日程としては、三年の総合魔法科が一番授業が多いみたいだ。

 自己紹介を聞いていた感じ、結構個性派揃いだった気がする。理由は………まぁ、今からの授業で詳しく分かるかもね。

 突然何を言っているのかと思うかもしれないけど、その言葉通りだ。僕は今から三年の総合魔法科の授業を行うみたいだ。事前に準備はしているから問題はないんだけど、少し驚いてしまった。そして、今はその総合魔法科三年の教室にいる。


「それではシオン先生、お願いします」

「あぁ、うん。任せて………という訳でまぁ、改めてよろしく頼むよ」


 担任の教師が一度頭を下げて教室から出て行く。それを見送り、僕は改めて生徒たちに挨拶をする。


「先生、大変そうですねー?」

「あはは………まぁね。君達もあまり変わらなそうだけど」

「にしし。突然の予定変更は慣れていますのでー」


 金の短髪で、碧い瞳と整った顔立ちに、制服を着崩したアホ毛が特徴的な少女。ここにいる女子の中でも少し小柄なのだけど、他の生徒と違って一切緊張した様子がないまま気楽に声を上げる生徒の名はリリナ・ローズマリーと言った。

 彼女の言葉通り、この授業はそもそも予定にはなかった。けど、少しでもこのクラスの授業数を増やしたいらしい。と言うのも、そもそも総合魔法科がこの学校を代表する学科であり、今年の三年生たちは中々才能に溢れた生徒たちが多いらしい。

 ちなみに、この学校では制服の着こなしに指導はないようだ。真面目に制服を着ているのは珍しいらしく、中には制服をそもそも着ない生徒もいると聞いた。

 まぁ、この辺は僕が気にすることじゃないけどね。授業を受けるかどうかも生徒次第だし、邪魔さえしなければなんでもいいかな。


「じゃあ、授業を始めようか」


 その言葉に、生徒たちは気を引き締める。フラウとステラは自室に案内され、ロッカは………まぁ、その辺を歩いていそうだけどね。この学校にいる間、僕らは校内を自由に出歩く許可があるから、問題ではないのだけど。


「まずは………そうだね。複合魔法についての授業を行おうかな」


 その言葉にざわめきが走る。おや、そんなに驚く事かな?案外一般的な知識だと思ったんだけど。不安そうな表情をして声を上げたのは長い赤髪の少女だった。名前はレネイだったかな。家名はなく、冒険者志望の一般の家庭から出ている珍しい部類の子だ。


「その………先生。複合魔法の研究は危険で、使用するだけでも失敗すれば大事故になる可能性がある魔法ですが………」

「そうだね。けど、その分強力な性質を持つことは知っているだろう?」

「で、ですが………」

「大丈夫。失敗しないように教えるし、君達なら教え通りにやれると思っているからね。授業時間は二時間だから、その間に複合魔法の基礎を教えるよ」


 そう言って、僕は空の魔法で取り出した複数の資料を持って、生徒達が座る席に近付いていく。そのまま資料を一番前の席に渡すと、それを後ろの席に回していく。良かった。ちゃんとプリントを渡す文化はこっちにもあったみたいだ。

 当たり前だけど、いきなり実技を交えて複合魔法を教えるはずもない。ちゃんと座学をやってから、実践に映らないといけない。ん?僕が複合魔法を知っていて使わない理由?

 それは複合魔法と言う性質上、使う理由が無いと言うだけだね。その名の通り、複合魔法とは異なる属性の魔法を組み合わせて、本来持たないはずの性質を持った魔法を使うことが出来る魔法だ。分かりやすい例を挙げると、濡れた部分が氷結化する水や、感電する炎とかかな。自然界じゃ有り得ない現象を発生させることが出来るのだけど………前提として、僕は真理の魔法を使う。

 真理とは原初の姿であり、変わることはない。つまり、複合化する事は不可能だという事だ。炎を乗せた竜巻程度なら可能だろうけど………それは自然界で起こり得る現象だしね。複合魔法とは少し違う。

 まぁ………ここまでは前提知識だとして。


「そもそも、複合魔法が危険な理由は相性が悪い要素の存在があるからだ。炎が本来持たない要素を継ぎ足したりすることが複合魔法なんだけど、どうしても相性が悪い要素って言うのは存在する。それに対し、反発反応を抑え込む要素を継ぎ足すか………または、そういった要素を避けるかと言った方法で事故を防ぐことが出来るんだ」

「例えばー?」

「そうだね………例えばなんだけど、水に再燃の要素は含むことが出来ない。水は再生と言う要素を既に備えているから、互いに干渉してしまうんだ。けど、水に炎上の要素は付与できる。そうすると、その魔法は燃える水となって相手に水のように炎をかけることが出来るんだよ」


 身体が濡れるように炎が広がる。相手に大きな火傷を負わせる手段としては最も手早い手段になる。当然、そこそこ凶悪な魔法であることは明らかだ。


「だから、まずは相性の悪い要素の法則性を教えよう。この基礎を知っておくことで、これから僕が教える複合魔法以外にも、自分で研究をする際も自己を防ぐことが出来る………けど、少なくとも卒業するまでは僕がいるところ以外で実験は行わないようにね」

「はーい」

「………リリナ。さっきから先生に馴れ馴れしいわよ。先生は私達魔法使いの頂点である『権能』ってことを忘れてるんじゃない?」

「えー?いいじゃん。先生も怒らないしー」

「あんたね………」

「良いんだよ。僕は正式にこの学校の教師になったわけじゃないからね。君達の授業態度や、僕に対しての態度は気にしてない。ただ、授業の邪魔をする事だけはしないでね。真面目に受けようと思っている人に迷惑が掛かってしまう」

「もちろんですよー!私だって、先生の授業はしっかり聞きたいですし?」

「………すみません」

「あはは。大丈夫だよ。それじゃあ進めるよ」


 先ほどから緩い口調をしているリリナに注意したのは橙色のロングヘアの少女、レナ・ララメル。彼女も生徒会の一人らしく、澄んだ水色の瞳には生徒会長であるアウィンと同じような真面目な雰囲気が漂っていた。

 先に言っておくと、僕は別に真面目な生徒は苦手じゃない。かと言って、リリナのような緩い態度の生徒が嫌いなわけでもない。授業をしっかり聞いている以上、どちらも変わらず好印象がある。

 こんな風に、案外個性的なメンツが揃っているのがこの三年生だ。最初の自己紹介で、僕に意中の人がいるか質問したラウザと言う生徒もこのクラスだ。

 まぁ、馴染めそうだな。と言うのが僕の第一印象だった。変に思うかもしれないけど、一番変わっているとともに、僕らへ邪な念を持っている生徒が一切いなかったのだ。

 仕方のない事ではあるけど、中にはステラへとても良いとは思えない目線で見つめていた生徒だっていた。それは僕にもだけどね。

 けど、三年生たちはみんな僕へ尊敬の念や、好意的な目線を送っていた。それが、このクラスの大きな印象だった。


「それで、反発反応を抑え込む要素だけど………」


 会ってみて思った事は、これからの三ヶ月が本当に楽しみになって来たという事だった。












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