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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
74/148

74話

しばらく更新を止めていて申し訳ありません。体調不良と多忙が重なり、なかなか時間が取れずに少しずつ書き上げていました。

今後の活動報告などを含めてTwitterアカウントを作成しようか悩んでいます。まだ決まった訳ではありませんが、作成した際はリンクを張りますのでよろしければフォローしていただけると助かります。

 僕らは大きな廊下を歩き、両開きの扉の前に立つ。通路はロッカが通っても問題はないけど、流石に教員室に入るのはまずいかな。


「ロッカはここで待機しているようにね」

「!」


 ロッカが頷く。それを見て、僕らを案内していた警備兵が少しだけ驚いた顔をする。噂にはなってると思っていたんだけどね。


「噂には聞いていましたが………やはり、この目で見ると驚きが勝りますね」

「そんなものかな?僕はもう慣れてるからあまり分からないけど」


 そう返すと兵士は苦笑する。微妙な反応から納得はされてみたいだけど、なんとなく分かっていた反応ではある。そもそも、ゴーレムを所有している者があまり多くはない。

 この世界には自立人形が普及しているらしいからね。ゴーレムは性質上から巨体になってしまう事が多いし、人間に出来る事が出来ないことも多い。

 その点、人間に似た容姿で製造者によっては言語機能を付与する事も可能なパペットは使い勝手がいいんだろう。戦闘力と言う一点で見ればゴーレムが圧倒的に勝るけど………戦う人間より、街や村で平和に暮らす人間の方が多いからね。戦闘力を必要としない人間が多いから、あんまり需要はないんだろう。

 ロッカと言えば、その一般的なゴーレムに当てはまらないのは言わずもがなだけど。


「少し待っていてください。確認をしてきますので」

「ん。分かったよ」


 そう言って教員室に入っていく兵士。ふとフラウを見ると、廊下の窓の外に広がる校庭を眺めていた。そこでは武器を持った人たちが稽古試合を行っていた。魔法を織り交ぜながら戦っている所を見ると、恐らくさっきの兵士が言っていた戦術魔法科なのだろう。

 振るっている武器は剣や槍、弓など。珍しい所では籠手を使用している者もいるけど、魔法使いらしい杖を持っている者は一人もいない。


「気になるかい?」

「………別に」


 何時ものように無表情で答えるフラウ。けど、そこそこの期間一緒にいたから、その声が適当に答えた事であることは分かっていた。そんなふうに応えながらも、フラウはそちらの方をじっと見ていた。

 この子が戦いに興味があるとは思わないし、授業風景が気になったのか、はたまた目に留まった人物がいたのか。聞いても教えてはくれないかな。

 僕と顔を見合わせたステラが顔を傾げる。その時、教員室のドアが開く。出て来たのは、さっきの兵士とは違う男だった。スーツに眼鏡をかけた姿から、彼が教師であることはすぐに分かった。


「お待たせしました。準備が出来たのでどうぞ中へ」

「じゃあお邪魔するよ」


 見た目通り落ち着いた声でそういう男に頷いて教員室へと入る。並べられた机と、その前に座っている教師だと思われる人たちが緊張したような面持ちでこちらを見ていた。

 その代わりと言うべきか、ステラもかなり緊張したような表情を浮かべていたけど。取り敢えず自己紹介から下方が良いのかな?

 そう思って先ほど僕らを中へと案内した男を見ると、小さく頷く。


「ようこそ。シオンさんのお噂はかねがね………我ら一同、あなたの到着を心待ちにしていました」

「僕もここに来ることを楽しみにしていたよ。ところで、自己紹介はした方がいいかな?」

「そうですね………私たちはシオンさん達の事を知っていますが、シオンさんは私たちの事を知らないでしょうからね。まずは私達から自己紹介をしましょうか。授業でここにいない者は後からでいいでしょう」


 そう言った男は一度ネクタイを締め直し、身なりを整える。そのまま僕らをしっかりと見て、自己紹介を始める。


「改めまして。私はシオンさん達がこの学校にいる間の全般的なサポートを任されたルーシーと申します。もし分からない事や、困ったことがあれば私にお申し付けください」

「あぁ、なるほど。うん、じゃあ、これからよろしく頼むよ」











 その後、部屋にいた他の教師の自己紹介をしてもらってから、僕の日程について教えてもらうことになった。


「この三ヶ月、シオンさんには魔法科と戦術魔法科の両方の三学年を担当していただきます」

「両方を?」

「はい、最初は魔法科だけの予定だったのですが………それでは不公平だと戦術魔法科から異議が出まして。多忙の中申し訳ありません」

「いや、言うほど別に多忙じゃないんだけど………まぁ大丈夫だよ。案外気になっていた科でもあったしね。三学年で何クラスかな?」

「そうですね………魔法科だけでおよそ三十クラス程でしょうか。戦術魔法科は三学年で六クラスだけなのですが」

「………魔法科だけやけに多くないかい?」

「魔法科と一纏めにされてはいますが、実際は様々な科が集まっていますから」


 専門魔法が違うってことなのかな。大丈夫かな?僕が専門としない魔法の指導何て任されたら自信がないんだけど。


「一応聞くけど、魔法科にはどんな魔法学科があるんだい?僕が苦手な魔法を教えろと言われてしまうと困るんだけど」

「そう言われると思い、こちらに纏めています。もし苦手な魔法学科があれば、授業数は少なくしますのでご確認ください」


 その言葉と共に一枚の書類を渡された。中にはそれぞれの魔法学科の名前と簡単な説明がまとめられていた。総合魔法科、精神魔法科、錬金術科、古代魔法科、ゴーレム科、医療魔法科………他にも結構あるけど………医療魔法だけは専門外かな。それ以外は多分大丈夫だ。呪術科とか死霊術科が無くて良かったよ。


「………医療魔法はちょっと専門外だね。使えない訳じゃないけど、あんまり必要が無くてね。大して研究も行っていないから、下手をすれば専門教師の方が上だと思う」

「分かりました。では、そちらの授業は別方針でやっていただくので、医療魔法に関しての授業は無しで大丈夫です」

「後、授業内容は僕が決めれると聞いたんだけど………」

「その通りです。流石に多少こちらの方針には沿っていただきたいのですが、どのような形態で授業を行うかはシオンさんが決めることが出来ます」

「なるほど。まぁ、授業と全く関係ない話をしても為にならないからね………分かった。今日から授業は始まるのかい?」

「午後から総合魔法科と顔合わせを行いたいと思っています。ステラさんやフラウさん、ロッカさんの事は既に話しているのですが、しばらく校内にいるのであれば同時に顔合わせを行っていた方が後々困ることがないのですが………」


 そう言って二人を見るルーシー。幾ら話を聞いていても、容姿が分からないんじゃ勘違いされてしまう事だってあるだろう。ロッカは喜んで顔合わせに参加するだろうけど、二人はどうするんだろうか。


「………どっちでもいい」

「私は………行きます。ですが、大人数の前で話すのは苦手なので、黙っていてもいいですか………?」

「問題ありません。お二人が校内で出歩く際、混乱を招かないために行いますので。午後まで時間がありますので、休憩室か寮を手配できますが………」

「手早く寛ぎたいし、休憩室でいいかな」

「ではそのように。お二人はどうしますか?」

「………シオンと一緒でいい」

「私も休憩室でお願いします」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 ルーシーが頷くと、そのまま教員室の奥に向かう。そこにあるドアを開くと、再び長い廊下が続いていた。通路にはドアが並んでいて、その一番手前のドアを開く。

 部屋の中にはそこそこ大きなソファーと机などがあり、他にも本棚やちょっとした骨董品などで装飾されていた。応接室にも見えるけど、二段ベッドが二つあるから休憩室で間違いないんだろう。

 中へ入るように促され、そのまま僕らは部屋へと入っていく。そのままソファーに座ると、ルーシーは一礼してドアを閉め、教員室に戻っていく。

 僕はそのままどうしようかと悩んでいると、隣に座ったステラが小さく呟く。


「………三十クラス全部顔合わせするのかな」

「流石に顔合わせは学年で一緒にやるんじゃないかな。流石に時間が掛かりすぎるだろうし、場合によってはいくつかの学科が一緒にやることもあるかもね」

「かな………緊張する」

「あはは。人前で大々的に話すことはなかったのかい?」

「なかったかな………」


 彼女が十年に一度の祈祷を行っていたのは知っていたけど、本当にそれ以外でやることが無かったのだろう。他人と会話したとしても、普段何もないんじゃ話題もないだろうし。


「じゃあ、寧ろ色んな人と話してみたいとは思わないのかい?」

「最初はそう思っていたんだけど………今は信頼できる人と一緒に居られたらいいかなって思うようになったの」


 そう言ったステラはいつものように朗らかな笑みを浮かべながらジッと僕の目を見る。


「だから、これからもよろしくね」

「あぁ。勿論だよ」


 まぁ、この信頼できる人が誰を指しているのか分からない程馬鹿ではない。僕を信頼していると言ってくれている訳だし、勿論彼女を裏切るつもりはない。僕の言葉を聞いて、ステラは嬉しそうに頷く。

 その後、僕は本棚から本を適当に取って読んでいた。読書は好きじゃないと言ったけど、何もないよりはマシだからね。割とお昼までも時間があるのだけど、昼食は用意してくれるのだろうか。

 もしないのであれば、三人で何処かへ食べに行っても良いかな。そんなことを考えていると、ふと僕の身体にフラウが寄りかかる。突然どうしたのかと思ったけど、隣を見れば小さく寝息を立てて瞳を閉じていた。


「………フラウ、最近眠ることが増えたね」

「そうだね………疲れてるのかな?」

「………」


 何となく、僕はそうじゃない気がしていた。決定的な理由はない。けど………最近のフラウは、何となく様子がおかしい気がしていた。自分の部屋に籠る時間が増えているし、こうやって眠ることも多い。

 もしかすれば、何かの病気にかかっているんじゃないかと心配したこともあるけど、『空の目』で見ても異常があったりするわけじゃない。そうなると………


「………」

「?どうしたの?」


 僕はフラウのネックレスを見る。あの日、彼女が接続していた『何か』。僕の目でも、それが何か捉えることは出来ず、ただ魔力が膨大していくのを見る事しか出来なかった。

 けど、あれが『善いもの』ではないと直感的に理解していた。もしあれの存在が、今後フラウに影響を与えるのであれば………僕はどうするべきなのだろうか。


「いや………何でもないよ」

「………そう?」


 怪訝そうな顔をするステラ。あの場に彼女がいた訳でもないし、これを説明するのは………まぁ、ステラに心配をかけてしまいそうだ。今は大丈夫なのだから、取り敢えず様子を見て行こう。もし異常があれば、それに対して全力で解決策を見つけるだけだ。

 そう思った時、フラウとは別の温もりが、僕とフラウを包み込む。三回目になるから流石に慣れ始めてきたけど………


「………それ、好きなのかい?」

「なんていうか………安心するの」

「大事な翼なのにかい?」

「その………風の流れを掴んだりするから、翼は感覚が優れているの。あなたと触れているのが直に伝わってきて、近くにいるって実感できるから………」

「………なんだか、告白みたいだね?」


 前にちょっとだけ思った事を口に出してみながら、背中に回されている翼をゆっくりと撫でてみる。その乱れの一切ない羽根は滑らかに指を通し、驚くほど艶やかだった。手入れの仕方が良いのか、そもそもの毛並みが良いのかな。


「っ………!」


 正直、からかい交じりで言ってみたのだけど、顔を真っ赤にして目を見開くステラに悪いことをしてしまったのかと思って手を離す。


「あ、待って………もう少し、触れて良いから………」

「そうかい?ならそうするけど」


 フラウの髪もとても綺麗なのだけど、それとは全く違う感触に少しだけ興味が湧いていた。一応、僕の使節では小さな鳥を飼っていたことがあるし、割と懐いていたから撫でたこともある。

 けど、ステラの翼はそれとは比べ物にならない程綺麗な毛並みだった。本以外に出来る事が増えたと思ってしばらくその感触を堪能していたのだけど、顔を真っ赤にしたまま顔を伏せ、横目でチラチラとこちらを見てくるステラを見て、何となく今の状態がよろしくないのではと思い始めた。

 今更だけど、異性に無遠慮に触れていることになるし………許可があったとはいえ、そろそろやめた方がいいかな。今更だけど。

 そう思ってゆっくりと翼から手を離す。


「あっ………」

「………?」


 その時、一瞬だけ顔を真っ赤にしながらも寂しそうな表情を浮かべたステラ。どうしたのかと尋ねようとした時、僕とフラウを包み込む翼が小さく閉じられる。


「………その、たまに………いいかな?」

「ん?翼を撫でる事かい?」

「う、うん………」

「………まぁ、君がいいならいいのだけど」


 案外、頭を撫でるのと同じような感覚なのかもしれない。女性にとって………いや、普通の人は知らない人や信用していない人に頭を撫でられたり触られたくはないだろうし。そう思えば、さっきのもあまり悪いことをしている気分は無くなってきたかもしれない。だからといってべたべたと触るわけではないけど。

 僕は再び読書に戻るけど、ステラは未だに頬を染めながら僕が撫でていた場所を見つめていた。毛並み、乱したりしちゃったのかな。今度手入れに使える道具でも買ってみようか。














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