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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
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69話

 あれから一週間後。え?結局あの遺跡はどうなったのかって?探索はしたかったんだけど、最終的にフラウが風邪を引いてしまってね。比較的温暖な大陸が出身だからか、小さな体躯ではちょっと寒さが厳しかったのか、それなりに熱も出ていてとても探索と言っていられる状況ではなかったんだ。

 あの遺跡の中自体がかなりひんやりとしていたし、僕の配慮が足りなかったのかもしれない。今は完全に回復していつも通りの日常になっているけど、あの遺跡に行くときはフラウを連れて行くのは止めておいた方が良いだろう。

 ステラもフラウの面倒を見てほしいかな。家で一人にするのはちょっと可哀想だ。


「………ふむ。遺跡ですか。面白いものを発見しましたね」


 そう言って顎に手を沿えるのは赤髪の男。お馴染みのアズレインだ。今はお昼を過ぎた頃で、フラウは僕の隣で座っていて、ステラは散歩に行っている。


「そうだね………調査するかい?」

「いえ………無理でしょうね。ヴァニタスの者達は興味を示すでしょうが、今はそれどころではありませんので」

「まだ忙しさは変わらずかい?」

「えぇ。邪神の眷属だと言うことが分かってからは更に。中には過労で倒れてしまった者までいます」


 そこまでしてやることなのかな。いや、間違いなく人類の今後を考えるのならやるべきなんだろうけど、熱量が凄い。シュティレがちょっと心配になってきたかもしれない。


「シュティレは大丈夫かい?」

「シュティレ様は精力的に研究に励んでおります。少々心配になってしまうほどですが」

「なるほどね………それで、何かわかったことは?」

「それが特には………何とか騎士団が邪神の眷属の掃討を行うことで被害を抑えてはいるのですが、負傷者や犠牲者も多く………眷属によって死んでしまった者はその場で火葬することになっているのですが、もしもの事を考え遺骨を持ち帰ることも出来ないのです」

「………ふむ」


 賢明な判断だとは思う。あの変貌がウイルスのように体内に侵入した何らかの成分によるものなのか、それとも殺されたという結果に対して発動する呪いの類なのか分かっていない。

 後者であれば、遺骨となっていても変貌の可能性だってある。街中であんな怪物が出てきて被害が広がったら、それこそどうしようもない。


「今のところは死者よりも始末した数の方が多いのですが、相手の数は一向に減る様子が無く………討伐隊を率いているカレジャス様曰く、徐々に敵が強くなっている気がすると仰っていました」

「………吸収した生物の力を、取り込んでる」


 黙っていたフラウが呟く。僕が頷くと、アズレインも同意を示すように頷く。


「えぇ、私達も同じ見解です。しかし、とても騎士団数十名を取り込んだ程度の強化とは思えず………」

「まぁ………眷属に回す余力があるとすれば、間違いなくもっと大量の獲物をどこかで確保しているんだろうね。例えば………そうだね。ダンジョン内部とかは恰好の餌場じゃないかな」

「………ダンジョンですか。盲点でしたね」


 ダンジョンでは建造物に取り付く魔力が自動的に召喚式を形成し、無尽蔵に魔物が湧いてくるようになっている。

 素材も当然のように取れるし、個体差も存在する。ただ、ダンジョン内部で生まれた魔物は、ダンジョンから出ることが出来ないらしいけど。

 つまり、ダンジョンは魔物を倒す腕があるのであれば冒険者などにとっては稼ぎ場と言える。そして、大量の生物を殺さなければならないような者にとっても。


「僕はダンジョンにあまり詳しくないから、その辺りの調査は君たちに任せるよ」

「はい、お任せください」


 残念ながらダンジョンとなると僕の専門外だ。攻略できないことはないと思うけど、そもそもダンジョンが何処にあるかの情報を知らないし、そこまで見返りがない。金銀財宝やマジックアイテムに関しては有り余っているしね。

 冒険者辺りを雇って調査してもらえばいいだろう。信用に足るのかは分からないけど。


「そう言えば、話は変わるんだけどいいかな?」

「なんでしょうか?」

「冒険者について聞きたいんだ」

「………ふむ?冒険者ですか」


 意外そうな顔をするアズレイン。何を聞かれるのか見当もついていないような様子だった。


「実は、僕は冒険者について古い知識しか知らなくてね。荒くれ者の無法者集団という認識しかないんだけど、実際のところどうなんだい?」

「………荒くれ者が多いと言うのは間違いはないですが、無法者と言うほどの治安ではないですね。シオンさんが言っているのは恐らく百二十年前までの冒険者の事でしょうが、冒険者ギルドが設立してからは彼らにも秩序が訪れました」

「あぁ………なるほどね」

「今では目指す者も多い職業となっています。実力さえあれば名声、富、栄誉の全てを得ることが出来る職業でもありますからね。一昔前までは、冒険者は職業としてすら認識されていませんでしたから、大きな進歩と言えるでしょう。実際、今の冒険者は対魔物のスペシャリストとして大きな貢献をしていることに間違いはありません」


 随分と僕の中にある冒険者のイメージとは乖離していたようだ。まぁ、秩序さえあるなら当たり前だろうけど。気質的に荒くれ者が多いのは間違いないみたいだけど、案外悪い人ばかりではないみたいだね。


「それでも、今も少なくはない数のトラブルや事件を起こすことがあるのですが。特に、ランクが中途半端に高い冒険者ほどその傾向があるようです」

「………まぁ、それは仕方ないよ。ある程度実力が付いてきた頃に、人は一番高飛車になりやすいからね」


 ランク………まぁ、冒険者内の階級なんだろう。最下位よりは明らかに高く、最上位よりは少し低い。そんな時期が一番人間の心理的に余裕や全能感を持ってしまう事が多い。最底辺の頃は上を目指して努力するし、上まで上り詰めたら落ちないように慎重になる事が多いからね。

 余裕が生まれるだけならいいんだけど、低ランクの同僚に威張り散らかしたり、自分が持っていない何かをより妬ましく思ってしまう時期でもあるから厄介だ。


「そうですね………まぁ、その依頼は信用できる冒険者を選ばせていただきます。ところで、私からも話は変わるのですが」

「ふむ。なんだい?」

「ヴァニタスの講師の件、まだ覚えているでしょうか?」

「そりゃもちろん。もしかして、予定が立ったのかい?」

「いえ、そうではなく」


 おや、じゃあどうしたのだろうか。どれくらい期間が延びるのか分からなさ過ぎて、いっそのことなかったことにしようと思ったのかな。

 僕としては、別にいつまで待っていても良いのだけど。


「シオンさんは魔法学についても膨大な知識を持っているとお聞きしているのですが………」

「そりゃ『権能』の名を継ぐものだからね。伝説の魔法使いとして、魔法学を疎かにしているつもりはないけど」


 真理の追及は魔法学の追及でもある。新しい魔法はいつものように見つけているし、多分使える魔法の数で言ったら魔法使いの中でもトップクラスだと思う。

 使う機会がないのは、戦闘でわざわざ真理の魔法を押しのけてまで使う必要がないからだ。『権能』の力が強すぎるんだよね。

 もし今後僕が何かの真理に辿り着けば、戦闘で使える属性は増えると思う。今最も心理に近付いている研究は、生命か雷かな。


「それは何よりです………実は、いつになるか目途の立たないヴァニタスに代わって、別の案をシュティレ様が提案されたのです。こちらをご確認ください」


 そう言って渡された一枚の書類。それを受け取ると、内容に目を通す。隣に座っているフラウもそれを覗き込むけど、アズレインが黙っているのを見ると特に極秘情報でもないのだろう。まぁ、もしそうならこんなところで渡したりしないだろうけど。


「………魔術学院の講師?これはまた………何というか、面白いことを考えるね」

「えぇ、どうでしょうか?そこまで内容は大きく変わらず、それでいて私たちにとっては将来を担う新たな魔法使いを育成できるので、是非ともお願いしたいのですが」

「僕としては構わないんだけど………この魔術学院はどういうところなのかな?」

「フォレニアでヴァニタスが設立すると同時に建てられた魔術学院です。多くの名立たる魔法使いを生み出しており、生徒数は三千人以上の大きな学院となっています」


 ちなみに注釈を入れると、魔法と魔術に大きな意味の違いはない。まぁ、魔法学に基づいた理論を魔術という事が多いと言う傾向があるから、学ぶ段階である学校などは魔術学校や魔術学校などと言う事が多い。

 魔法は魔術を学び終わって、直感的に発動出来るようになった後の事を指す事が多い。まぁ、それもちゃんとした定義がある訳じゃないんだけど。


「へぇ………となると、貴族のご子息やご息女がいるんじゃないかい?」

「半分以上はそうですね。ですが、現当主である方々には既に賛同を得ているので問題はありません。寧ろ、自分自身が授業の見学を申し込む方がいたほどですから」

「………まぁ、僕が『権能』だからだよね」

「良くお分かりで」


 まぁ、口ぶりから却下したんだろうけどね。講師を始めるのは今日から四日後。教えるのは構わないんだけど、期間が案外長い。書類には三ヶ月と書かれていた。


「案外期間が長いね。まさか泊まり込みで教えてくれ、とは言わないだろう?」

「勿論です。ですが、授業の時間には遅れないようにして頂ければと。一応期間中には学院が寮を用意します。泊まることも出来ますので、朝から授業をする場合などは自由に使っていただいて構いません」

「………フラウとステラ、ロッカは連れて行っても良いのかい?」

「構いません。そうでなければ納得していただけないでしょう?」


 まぁね。僕は頷くと、再び書類に目を通す。授業料も支払われるし、期間終了時の生徒の成長度合いに応じて追加報酬も出るらしい。美味しい依頼であることには間違いない。

 授業は臨時授業扱いで、僕が評価を与えることは出来ないらしい。つまり、彼らからすれば真面目に受けても適当に受けても評価には関わらない授業という事だ。

 余裕がある授業時間に差し込む形になるから、日によっては授業が無い日もある。

 そして、最も重要なのは授業内容は全て僕が決める事になるらしい。これは責任重大だ。


「………まぁ、面白そうだね。引き受けるよ」

「ありがとうございます。三ヶ月後が楽しみですね」


 僕はフラウを見る。彼女も何を聞かれるかは分かっていたらしく、すぐに頷いた。


「行くだろう?」

「………勿論」


 ロッカは先ほどから興味深げにこちらを見ているから聞かなくても良いかな。ステラは帰って来てから聞けばいいと思う。

 そんなこんなで話が纏まると、アズレインは立ち上がる。


「では、私はこれで。四日後のお迎えは必要でしょうか?」

「そうだね……じゃあ頼もうかな」

「かしこまりました。それでは」

「あぁ、またね」

「………また」


 アズレインは鞄を持って出て行く。まぁ、面白いイベントが来たな。正直そう思っていた。あの遺跡然り、今回の講師然り。まぁ、そこまで呑気にしていられる事態ではないのだけど、慌てても進展はない。何も出来ないことをやろうとして、出来る事をやらないのは本末転倒だ。

 とりあえず、専門家が調べるのであればその報告を待っておけばいいだろう。僕は学院での授業内容について考え始める。

 案外、僕は人に教えるという事が楽しめる気質だったのかもしれない。














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