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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
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67話

 地上に残った神。その目的は様々で、明確な理由がある者や、地上から離れることが不可能になってしまった者。理由すら分かっていない者など様々だ。

 少なくとも、この本に記されているそういった神々は二人。けど、実際には他にもいるとされている。

 炎神フラマガルド。彼は主神アフィガルドの息子であり、炎神でありながら戦神の名を持つ神々でも最強格の一柱でもある。化身を沈めた後、彼は星の核に最も近い場所で眠りに着き、監視を行っているという。恐らくだけど、彼の場合は僕から探さずとも行動を始めているんじゃないかと思っている。そういう役割を持っているはずだし、星の核に最も近い場所を僕は知らないしね。

 もう一人は悪神ミョルズ。元々は誕生を司る神だったのらしいけど、邪神との戦いでアフィガルドが力尽きた際、あろうことかその亡骸に取り付いて永遠の命と無限の神性、そして果てなき業を得たという。

 当然他の全ての神々から非難されたのだけど、彼はアフィガルドの亡骸と一体化した時に悪神としての力を与えられたらしい。悪い神ではなく、悪を司る神。この世界には必ず悪が存在し、悪とならない悪も存在する。必要悪と言うやつだけど、悪性であることには違いない。

 その罪科を請け負うのがミョルズという事だ。これによって彼はこの星に必要不可欠な存在となってしまい、神々は彼を罰することが出来なかった。

 しかし、果てなき業は彼を救うだけではなかった。その身は醜い肉塊へと変わり果て、罪科を受け入れるたびに彼は堪え難き苦痛に呻くようになったという。悪神でありながら悪を疎むようになった彼は、あらゆる悪を犯したことがない者のみが立ち入れる呪いをかけた森で、自らの元を訪れる者を待ち続けているという。


「………」


 まぁ、探すという意味では手がかりが多いのはミョルズだろう。普通の人間が立ち入れない森を探せばいいのだし、そんな奇妙な森であれば噂はすぐに広まるはずだ。

 けど、間違いなく僕はその森には立ち入れないだろう。僕は既に人を殺しているのだから。人間が人を殺すことを罪だと定義した以上、罪に問われないだけで戦争でも殺人は悪だ。理屈なようだけど、これが必要悪だと言うものだからね。

 寧ろ、この世界で一切の悪を犯した事がないなんて稀だと思うけど。人を殴ることが罪じゃなくとも悪だとされているなら、誰かと喧嘩した時点でも駄目だという事だし。

 それに会いたいのかと言われると、正直なところ首を縦に振ることは出来ない。悪い神ではないと言ったけど、正直アフィガルドの亡骸に取り付くような神が善神であるとは考えづらい。


「………アズレイン辺りに相談してみようかな」

「?」

「いや、何でもないよ」


 突然の独り言に、ロッカが僕を見る。首を振って気にしないように言うと、ロッカは再び隅っこで動かなくなる。

 本当にこの二柱しか地上にいない訳ではないと書かれていたし、数千年の間に降りて来た神もいると思う。そう言った情報を得たいのであれば、世界中を飛び回るアズレインのような存在に聞くのが手っ取り早いはずだ。

 僕は持っていた本を机に置く。手持ち無沙汰となってしまったのだけど、僕の隣で左手を掴んだままのステラがいるから動くことが出来ない。

 本を読んでいる途中で一度手を引こうかと思ったんだけど、案外しっかり握ったまま幸せそうな寝顔を浮かべているのを見てそうするわけにもいかなくなった。


「ん………ん」

「随分と熟睡してるね。君も睡眠不足だったのかな」


 多少声を出しても一切起きる様子がないステラ。左手に伝わる柔らかな頬の感触。艶やかな肌は触り心地が良いのには間違いないのだけど、残念ながら僕はそういったものを楽しむ趣味はない。

 けど、こうした姿を見ているとステラが村で暮らしていた頃は大丈夫だったのかと不安になる。彼女の容姿が優れていることは客観的に見ても疑いようのない事だ。人外ゆえの美しい髪と翼は神々しさすら覚えるし、身体の主張は控えめとはいえ整った華奢な身体は可愛らしいとは思う。

 そんな女性が無防備に異性の隣で眠っていれば、血迷う者が出てきてもおかしくないと思うのだけどね。今までそんなことがなかったのは運が良かったのか、単に僕が異性として意識されていないのか。


「………」


 何となく、この世界ではこういう心配をすることが多い気がする。フラウ然り、セレスティア然り。僕が気にしすぎなのかと何度か思っているのだけど、少なくともこの世界でもそういう犯罪が横行していると言うのは記憶にあった。

 昔の話だから今がどうなのかは分からないけど、奴隷なんてものが存在する時点であまり変わっていないか、昔より酷くなっている気はしている。であれば、女性はより一層そういったことには気を使うと思うのだけど、僕が出会ってきた女性は王女を含めてそんな様子はなかった。


『シオンさんなら大丈夫かと思いまして』


 何となく、あの時テントで聞いたセレスティアの言葉を思い出す。その言葉の真意を何度か考えてみたけど、やはり異性として見られていないのでは?と結論付けていた。結果としては、彼女は僕に恋心を抱いていたわけだけど。


「………女の子は分からないものだね。その感情や心を理解出来れば、悩むことはなかったんだけど」


 この世界で人と関わるようになって気付いたのは、案外僕は人の感情を察することが苦手だったという事だ。空の目を使って感情を盗み見すると、思ってもいなかった感情が見えることがある。普段は使っていないから分からないのだけど、彼女の恋はいつから芽生えていたのだろうか。

 今でこそセレスティアがはっきりと僕に好意を伝えたから、彼女の態度に含まれる意味を理解出来るようにはなった。けど、それがなければ僕はずっと気付くことが無かったと思う。

 だからと言って空の目を常に起動するつもりはないけど。人との交流を重ねるうちに、そういった事も知るべきなのだと思う。

 結局やることが無かった僕は、そのまま眠ることにした。多分起きる頃は小昼頃だと思う。たまにはちょっとしたおやつを作ってみるのも面白いかもしれないね。











 そのまま数時間が経った頃。僕は自然と目が覚めた。すると、すぐ隣から本を捲る音が聞こえて来る。肩がくっつく程の距離に座っているステラは、僕が机に置いていた本を読んでいた。それだけじゃなく、その金の翼を僕の背に回してまるで毛布のように僕を包み込んでいた。

 僕が起きた身じろぎに気付いたのだろう。ステラは本から目を離して僕を見ると優しげな微笑みを浮かべる。


「おはよう、よく眠れた?」

「あぁ………うん。悪いね、翼は痛くなかったかい?」

「大丈夫。有翼族の翼は魔法を防御できるくらい丈夫なの」

「それは凄いね………」


 正直そうとは思えない程ふんわりとしていて、とても寝心地が良かったのだけど。膝に毛布を掛けて読書をしているステラは、まるでどこかの令嬢のように思えた。間違いではないのだけど。

 時計を見れば、予想通り二時半ごろ。ふと気になったことを聞いてみる。


「フラウは降りてこなかったかい?」

「一度降りて来たよ。また二階に上がっちゃったけど………」

「そっか」


 流石に二度寝している訳じゃないだろうし、一人でいるだけだと思う。最近は僕が構ってあげられないときは、ステラに構ってもらっているか自分の部屋に籠るかしている。僕は翼の毛布から出て、ソファーを立つ。


「あっ………」

「ん?」

「………ううん。何でもない」

「そうかい?なら気にしないけど」


 小さく声を上げたステラを見るけど、彼女は小さく首を振って答える。ちょっと疑問に思ったけど、特に何もないようだからそのままキッチンに向かう。


「お腹空いた?」

「ちょっとお菓子を作ろうと思ってね。たまには厨房に立ちたいときもあるんだよ」

「そう?ならいいけど………」


 僕はそのまま冷蔵庫から小麦粉、卵、バター、砂糖、植物油を取り出して並べる。材料から察した人も多いかもしれないけど、作りたいのはケーキだ。最近はやっていないけど、料理は別に出来ないことはないし、お菓子の類は作り慣れているから問題ない。理由は色々あるけど、あんまり関係ないだろう。

 そして村長から貰った極上の蜂蜜も使おうと思っている。

 僕が下準備をしている間、ステラは厨房に立つ僕をじっと見ていた。心配しているのかと思ったけど、特にそんな様子ではない。僕が背もたれにしていた翼をゆっくりと畳むと、再び本を読み始めた。

 下準備も終わって、後は作るだけだ。腕が鈍っていなければいいのだけどね。








 オーブンを開く。大きな型に入った生地はふっくらと膨らみ、周囲に蜂蜜のような甘い匂いが漂う。僕は生地を取り出して、型から外して冷ましていく。匂いに気付いたステラも本から目を離し、僕の方を見る。


「良い匂い………」

「使ってる蜂蜜が最上級だからね。不味くなることはないと思うけど」


 ちょっと蜂蜜の味が強くなってしまうかもしれないけどね。他の素材も同等の品質を集めるとしたら、どれだけの手間と伝手が必要になるか分かった物じゃないし。

 ケーキはシフォンケーキのようなふっくらとした柔らかいスポンジの生地。魔法を使って一気に時間を進めても良いんだけど、その前にフラウを呼んでこないとね。

 僕は厨房から出て階段を上る。また寝ていなければいいんだけど。そのままフラウの部屋の前に立つと、扉をノックする。


「フラウ?起きてるかい?」

「………ん、なに?」

「ケーキを焼いてみたんだ。皆で食べないかい?」

「………食べる。ちょっとしたら行くから待ってて」

「うん、待ってるよ」


 僕はそう言って再び一階に降りていく。ステラは本を読むのを止めて、僕が降りてくるのを見ていた。


「起きてた?」

「起きてたよ。少ししたら来るってさ」

「ふふ、良かった」


 僕はそのまま厨房に入る。そのまま魔法を使ってケーキの時間を進めていく。おおよそ熱が冷めたら、事前に錬金術を使って砂糖を砕いた粉砂糖を掛けて見栄えを良くする。

 大きな皿に乗せてソファーの方に持っていく。ケーキ一つを食べるためにわざわざ食卓に座る必要はないだろうし、そのまま机に乗せる。もう一度厨房に戻って小皿とナイフを取っていくと、階段を降りてくる音が聞こえて来た。


「………凄く良い匂い。本当にシオンが作ったの?」

「そうだよ。意外かい?」

「………ちょっとだけ。お菓子作り、得意だったんだ」

「まぁね。中々機会が無かったというか、正直やる気の問題だったんだけど………たまに作ってみると楽しいね」


 普段やらない事は良い刺激になると思う。後は二人が喜んでくれると何よりなんだけど。僕は小皿とナイフ、フォークを持ってソファーに戻る。そのまま二人の前に皿とフォークを置いて、僕も自分の分を置いてソファーに座る。

 さて、実食だね。僕は久しぶりに自分で作ったケーキをナイフで切り分けていく。何となく懐かしい感覚だった。










「………ごちそうさま。凄く美味しかった」

「うん、本当に。昨日食べた城の料理もすごくおいしかったけど、私はこれの方が好きかな」

「おや、随分と好評だね。嬉しいよ」


 数十分もすればケーキは食べ終わる。二人は感想を言ってくれるけど、思いのほか凄く評価が高くて、作った身としてはとても嬉しい。まぁ、素材が良かったと言うのが大きいんだけど、こうやって喜んでくれるならまた作ってもいいかもしれない。

 それぞれ皿を片付けた後、一度ソファーに座る。


「………色々と終わったけど、これからもシオンは調査を続けるの?」

「うーん………どうだろうね。事の大きさを考えると、僕一人の力ではどうしようもないんだ。色んな伝手を持っているのは向こうだし、今後は連携を取りながら情報取集をしていくつもりかな。また無茶をして怒られたくないしね」

「………そう。じゃあ、少しは時間が出来る?」

「うん。少しは今までの日常に近い生活に戻るんじゃないかな?………ステラには少し申し訳ないけどね」


 解決して見せると約束した手前、自分の力不足でそれをすぐに叶えることが出来ないことを申し訳なく思う。けど、ステラは首を横に振った。


「ううん、気にしないで。この家で暮らしたのはたった一週間くらいだけど、凄く………温かかった。一緒にご飯を食べたり、お話ししたりする時間が凄く幸せだって思えたの。色々あったけど、ここに来れて本当に良かった」

「それは僕もだよ。君が来てくれて、色々と助かることが増えたしね。フラウとも仲良くしてくれるしね」

「………うん。私も、ステラが好きだよ」

「ふふ、ありがとう」


 そういってフラウの頭を優しく撫でるステラ。やっぱりフラウは抵抗をせず、その手を受け入れていた。何故だろうか。

 すると、ステラが不意に改まった表情で僕を見る。


「一つだけ、お願いを言っても良い?」

「あぁ、いいよ」


 何となく次の言葉は予想できた。フラウも同じだったのだろう。期待を含んだ目でステラを見上げ、ロッカが顔をこちらに向ける。


「ここで、あなた達と一緒に生きていたい。私を家族の一員にしてくれないかな」

「うん………僕は歓迎するよ。フラウは?」

「………私も一緒に居たい」


 僕とフラウがそういうと、ステラは本当に嬉しそうにはにかんだ。


「うん、ありがとう………これからも、よろしくお願いします」

「こちらこそ、改めてよろしくね」

「………よろしく」

「!」


 ロッカが大きく手を上げて喜びを表現する。クラッカーがあれば間違いなくぶっ放してただろう。ロッカは口がないけど、ステラはフラウと同じように自分から歩み寄ってコミュニケーションを取ろうとしていたし、彼からしてもステラはとても好印象だったはずだ。

 それに、僕自身彼女がこう言ってくれたことを嬉しく思っていた。たった一週間でも、彼女の雰囲気はとても心地よいと感じていた。すぐに馴染むことが出来ていたし、何となくいるのが当たり前の感覚になっていた自覚はあった。

 別れの時が来たら、少なからず悲しんでいただろうとは思う。だからこそ、これからも一緒にいれることは喜ばしい限りだった。

 そうして、新たに正式な同居人が増えた。これから、この家はもっと賑やかになると思う。そのことに、僕は間違いなく喜んでいた。












こちらで連絡するつもりはなかったのですが、伝わっていないことが多いと思ったので改めて連絡させていただきます。

先月末より元々書いていた処女作の作品を更新停止し、代わりに新たなタイトルを開始しました。基本的に1日に書けるページが1ページのみなので、交互に書ければ理想だと思っています。こちらの投稿がない日はそちらの更新を行っているのだと思っていただけると幸いです。

遅筆で大変申し訳ないと思っているのですが、どうかご理解頂けると嬉しいです。

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