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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
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63話

 ステラの作った昼食を食べ終わった後。あの凍てついた空気は既に無くなっており、フラウに軟膏を塗るためにフラウの部屋に入っていつものように薬を塗っていた。今の所ステラにはその時の姿を見られたことはないけど、もしも見られたらどう思われるのだろうか。

 ベッドに寝転がる少女の服がはだけていて、その腹部や大腿を僕が触れているのはとても犯罪臭がすると思う。勿論、下心はないけど客観的に見てとても不味い。

 それが終わったら彼女は眠くなったと言って、そのまま眠りに着いた。僕は二人の下に戻って、談笑の続きをしていた。

 そして、今はステラを交えて何故ステラがここにいるのか、それまでの顛末を話しているところだった。


「なるほど………まさかあの村でそんなことがあったとは」

「有翼族が住んでるとは僕も思わなかったよ。そう思えば、僕は二度も君に助けられてることになるね」

「ふふ、そうね。じゃあ、今度ちょっとだけお礼には期待しても良い?」

「そうだね………考えておくよ」


 僕がそういうと、ステラがいたずらっぽく微笑む。フラウも普通に笑顔を見せる事が増えてきているけど、ステラはちょっとしたことでもこうやって笑顔を浮かべている。

 魅力的というか、人を惹きつける笑みだなとは思う。フラウもすぐにステラには懐いたし、アズレインも最初の緊張はすぐに無くなっている。この家に馴染むのも早かったし、あの村に住んでいた時も、多くの人に好かれていたはずだと思う。


「………」

「?どうしたの?」

「いや………なんでもないよ」


 一瞬だけ、あの日彼女を連れ去ろうとした男たちの顔が脳を過ぎる。それを無理やり振り払って、僕は話題を変える。


「そう言えば、ステラはアストライア王家の血を継ぐものとして参加が認められたらしいけど………認めたのはセレスティアなのかい?」

「いえ、パーティーの主催はセレスティア様となっていますが、準備などは儀典団が行っています。参加者の選別もそちらで」

「へぇ………つまり、祝い事だなんだと言っても、結局権力争いってことなんだね」

「それは仕方がありません。貴族は権力争いが仕事でもありますので。寧ろ、そういった大きな祝い事の場だからこそ大きく勢力図が動くと言っても良いでしょう。武功を立てた者はそうでない者に権威を示す場にもなりますし、セレスティア様はまだ婚約者も決まっておりませんから」


 婚約者の話は止めて欲しい。今はフラウがいないからいいけど、色々と思い出して億劫になる。そんな思いをアズレインも察したのだろう。苦笑を浮かべる。


「はは………まぁ、先ほどのことがあれば仕方ありません。ですが、シオンさんも逃げてばかりではいられませんよ。セレスティア様がシオンさんを呼んだのは、そういう意味もあるでしょうから」

「………それは分かっているけどね。かと言って、僕が彼女と添い遂げる訳にもいかないんだよ」


 僕がそういうと、アズレインが少しだけ考えるように目線を逸らし、再び僕に戻した。


「気になっていたのですが、そもそも何故あなたはセレスティア様の求婚を断るのでしょう?媚びや贔屓などではなく、客観的に見てセレスティア様はとても魅力的な方だと思いますが………」

「まぁ………それはそうなんだろうけどね。君も薄々分かっている通り、僕は普通の人間じゃなくてね。彼女と同じ時を歩むことは出来ないし、下手をすれば人間の数十倍の寿命を持つ子が生まれてくるかもしれない。世襲制の王国で、それは今後に問題が起こってしまうだろう?」


 僕が普通の人間じゃない事は、多少関わりがある者ならなんとなく察せることだろう。この世界では人外は珍しくないし、そういう結論に至るのも自然だからね。

 フォレニア王国の世代交代は時期ではなく、現国王が自らの判断で、または議会が必要だと思った時に行われるらしい。けど、実際に今まで議会が王を降ろしたことはないと聞いたけど。有能な王が多かったという事だ。

 そこで問題となって来るのは老いで、普通は年老いた王が後を任せるために子供に王位を託すのが普通だけど、老いがこない身体になってしまうとそうはいかない。一人の王が、下手をすれば千年以上と王座に居座る可能性が出てくる。そういう国も実際に存在するらしいけど、いきなりそんな体制に変わっても混乱を招くだろう。


「それは私が言えることではありませんが………国王陛下が何も言っていない所を見るに、そういうことなのでは?」

「………」

「それに、『権能』の名を持つ王と言うのも国民からすれば大きな期待を呼ぶはずですから」


 だから良いって訳じゃないけどね。それに、ディニテが何も言わないのはまだ決まってもいない婚姻について言及を避けているだけだと思うし。彼女がはっきり自分の口で僕への求婚を明言しているならその限りではないんだろうけど。


「………あれ?じゃあ今回のパーティー、僕が参加するのって周りからの目がかなり酷いことになるんじゃ?」

「あぁ、貴族達ですか………流石にあなたが『権能』だと知れ渡った今、下手な口を利くものはいないかと。伝説に名を遺す『権能』は、それこそ並みの貴族などより偉大な存在ですから」

「喧嘩は売られないだろうけど………」

「それは仕方ありませんよ。それに、まだ婚姻を結ぶと決めたわけではないのでしょう?」

「まだって言うか、今後もだね」


 今頃フォレニア王国では、僕とセレスティアが既に婚姻を約束している関係、みたいな感じで噂が広がっているのだろう。人間とは得てしてスクープと言うのが大好物だ。それも、大きなスクープであればあるほど更に誇張しようとしたり、良いように事実を変えたりする。

 勿論、彼女の意思を汲んであげたいという気持ちはある。セレスティアが悲しむ姿は見たくないけど、それと以上に彼女が積み上げてきたものを壊したくはない。


「ふむ………これは例え話なのですが、立場や種族などを一切考慮せずにあなたという一人の人間として決断するとしたら、セレスティア様との婚姻を考えてくださったのでしょうか?」

「そうだね………まぁ、少なくとも今よりは前向きに考えたんじゃないかな」

「そうですか………」












 それから話題を変えて色々と話していたけど、ついに出発の時間が近付いてきた。僕は部屋にいるフラウを呼びに行く。


「フラウ、時間だよ。起きてる?」

「………すぐに行く」

「ん、待ってるよ」


 中から小さくフラウの声が返って来た。僕は声を掛けてから扉から離れ、一階に降りていく。アズレインとステラは外で待っていて、僕は玄関前に立つ。


「ロッカ、留守番頼んだよ」

「!」


 ロッカがグッドサインをする。そのまましばらくフラウを待っていると、ゆっくりと階段を下りて来た。

 僕はそれを見て扉に手を掛ける。


「行こうか」

「………うん」


 僕とフラウが外に出ると、待っていたアズレインとステラが僕らを見る。


「待たせたね」

「いえ、それでは出発しましょう」


 そう言ってアズレインが歩き出し、僕らもそれに続いて丘を下っていく。その途中で、ステラがどんどん緊張した面持ちになっていくのに気が付いた。


「緊張するかい?」

「うん………人間の貴族と関わるのは初めてだから」

「あぁ………そっか。そう言えば、君に渡そうと思ってた物があったんだ」

「私に?」


 僕は頷いて、背負っている鞄から一つのブレスレットを取り出す。黄金に輝くそれは、彼女が付けていても全く違和感がなく似合うであろう繊細な出来だった。

 ステラはそれを見て驚いた表情を浮かべる。


「これは………」

「マジックアイテムだよ。君は有翼族で、存在が知れ渡ればまた事件に巻き込まれる可能性があるからね。隷属系の魔法を無力化する効果があるから、君は身に付けておいた方がいい」

「………ありがとう。大事にするね」


 そう言って、ステラは本当に大事そうに両手でブレスレットを握りしめる。彼女が危険な目に合わないようにと思って渡しただけなんだけど、とても気に入ってくれたみたいだ。一応、彼女が身に付けていても不格好にならないように見栄えも気にして作ったし、喜んでもらえるならそれ以上の事はない。


「おや………シオンさんはマジックアイテムを作るのも得意なのですね。見た目だけでなくそれほど強力な効果を付与できるとは。売るところで売れば、それこそ家が一件建ってもおかしくない程の値段になるのでは?」

「僕はお金稼ぎを目的とはしてないからね」


 元から無償でマジックアイテムを作っては渡したりしているし、元手が掛かってるわけでもない。ステラが危険に巻き込まれないように作ったわけだし、それ以外の対価は必要がないからね。

 僕らはそのまま村へと降りた。ステラはその途中でブレスレットを身に付けていたけど、やっぱり僕の予想通りとても似合っていた。

 しばらくは無しながら歩いていた僕らは村に入り、飛空艇の発着場に着く。そこで出発の準備をしていた船員たちは、ステラを見て絶句したり、驚愕の声を上げたりする。


「有翼族だと!?」

「嘘だろ!?なんであの人たちと一緒にいるんだ!?」

「おいおい、まさか人間を潰しに来たなんて言わないだろうな………?」

「なんて美しいんだ………」


 反応は多種多様だけど、それもアズレインが大きく声を上げることで静かになる。


「落ち着いてください!ステラさんは今日のパーティーの来賓です!無礼は許されませんよ!」


 すると、船員たちがざわめいた。まぁ、これが当然の反応だろう。すると、あんまりな騒ぎに少し気圧されたのか、ゆっくりと顔を伏せる。しかし、それが彼らの有翼族のイメージと噛み合わなかったのだろう。一瞬だけ静寂が包み込む。


「………とにかく、すぐに出発します。騒いでいないで、すぐに準備をしなさい」

「は、はい!」


 そういってすぐに作業に戻っていく船員たち。それを見てアズレインはこちらに申し訳なさそうに振り返った。


「すみません。事前に説明しておけばよかったですね」

「仕方ないさ。行こうか」


 僕がそう言うと、アズレインが船に入っていき、僕らもそれに続く。作業をしている船員たちはチラチラとこちらに………厳密に言えばステラに目線を向けてくるけど、特に騒ぐようなことはなかった。ただ、中には彼女へ恍惚とした目線を向けて手が止まっている者もいたけど。


「これが人間が空を飛ぶための船………」

「そうだね………まぁ、自由に空を飛べる君からすれば玩具なのかもしれないけど」

「ううん、そんなことない。凄いと思う」


 すると、アズレインが少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。やはり、フォレニア王国が誇る最高峰の技術だからか、とても誇りに思っているようだ。


「そう言っていただけると嬉しいですね。我らの技術の結晶ですから」

「私たちは魔法的な兵器などを持っていませんから………アストライアからは見たことがあったんですけど、こうやって乗ることが出来るとは思っていなかったです」


 ステラが周りをきょろきょろと見渡す。その姿に少しだけ微笑ましくなると、不意に僕の手が握られた。そっちの方を見ると、フラウが僕の手を掴んでいた。


「どうしたんだい?」

「………なんとなく、こうしたかっただけ」

「ふふ………そっか」


 少しだけ寂しそうに言って顔を逸らすから、可愛らしくてつい頭を撫でようと手を伸ばす。しかし、フラウはいつものように抵抗することなく頭を撫でさせてくれた。


「ん………」


 すると、フラウはゆっくりと握っていた僕の手を両手で包み込む。ほんのりと頬が染まっていたけど、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 最近は研究や調査でフラウに構って上げれる時間が減っていたように思える。それはステラがいたからという訳でもないためにフラウは何も言わなかったけど、やはり寂しい思いをさせていたみたいだ。

 多分ヴァニタスが協力するようになれば、僕の仕事は一気に減ると思う。そうなった時に、フラウにもゆっくりと構ってあげないとね。そんな風に思いながら、僕は小さく笑みを浮かべた。














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