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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
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62話

「それでは今日のスケジュールは以上です………ところでシオンさん。例の件に進展はありましたか?」

「うん、それも丁度話そうと思ってたんだ」


 今回の件で分かったことは大きい。昔話を信じるなんておかしいと思われるかもしれないけど、遥か昔に神の時代が存在したことは周知の事実だ。

 その時代の遺産がアーティファクトとして遺されてもいるし、今も神々への信仰は根強い。つまり、ただの神話だと一蹴出来もしないし、内容があまりに今回の出来事と合致しすぎている。

 僕はあの本の内容と、今回の件で分かったことをアズレインに伝えた。ステラやフラウも僕の話を聞いていて、特にステラは自分が天空の神に力を借りたという事に驚きを隠せていなかったようだ。


「………なるほど。邪神の眷属ですか」

「随分とあっさり信じるんだね」

「あなたが今更そんな下らない嘘を言う方ではないと存じていますから………それで、魔法が効かないと言うのも?」

「あぁ、多分グランのような邪神から直接干渉を受けた者は、強大な力を得る代わりに死による魔法の無力化は出来ないんだと思う。魔法はあくまでもこの世界に干渉した事象に過ぎないからね」


 つまり、相性が良かったという事だ。確かにグランは他の怪物と比べて多くの能力や魔法を持っていたし、耐久力も高い。

 しかし、『権能』である僕と『剣聖』のラザールが相手ではどうしようもない。正直な評価として、彼は僕とは違うベクトルで人間の境地に至っている。


「辻褄は合いますね………しかし、だとすれば私たちはどうすれば?」

「………まぁ、そうなるんだけど」


 解決策自体は既に分かっている。けど、それを行うことが僕達では出来ない。数千年前は神々が一人の女神を生贄にして封じたけど、神々が衰退した今はそれは難しいだろう。

 差し出していたのは元から強大な力を長い間受け止めれるようにと選ばれた特に新格の高い女神だ。それを取り込んだ今、未だに存在している女神を送り込んだところで一瞬で食われつくしてしまう。

 つまり、神の力を受け入れることが出来るだけの大きな器が必要だという事だ。しかし、そんなものは存在しない。


「ふむ、まずは生贄となる何かを探さなければならないと………」

「………そもそも、あまりそういう手段は取りたくないんだけどね」

「私とて冷血ではありません。しかし、この星の命運が掛かっている事態なのでしょう?」

「それはそうなんだけどね………まぁ、わざわざ聞いてくるってことは君達も手伝ってくれるんだろう?」


 僕がそう聞くと、アズレインが帽子を深くかぶり頷く。


「勿論です。資料を纏め、シュティレ様に提出させて頂きます」

「………なるほどね。ヴァニタスがこの件に絡んでたか」

「えぇ、それも含めてあそこは仕事に追われていますからね」


 少しだけ脳内にへとへとになりながら資料を整理しているシュティレの姿が過ぎった。まぁ、彼も彼であの国の平和を強く願う王子だし、多少の苦労なら喜んでやるのだろうけど。

 寧ろ、一番ピリピリしているのはカレジャスかもしれない。多分相手の情報が無さ過ぎて騎士団を出撃させるのも躊躇われるだろうし、今は指をくわえてあの怪物たちの暴虐を見ることしかできない。

 次期騎士団長と言われていた第一王子である彼は、それを快く思わないはずだし。


「セレスティアはこのことを知っているのかい?」

「勿論です。しかし、セレスティア様は他の仕事に追われていまして………」

「それは仕方ないよ。じゃあ、今回の件はシュティレが指揮を執ってるのかな」

「そうなります。まぁ、現状は痕跡の調査や追跡などで情報を集めるだけでしたが」


 そうは言うものの、彼らの情報を集めるのは相当危険な事は分かっているのだろう。僕だって、あんな危険な真似をしてやっと大きな収穫を得ることが出来た。

 それも、ステラに救ってもらった形でだ。普通の人間が僕のように積極的に調査を始めていれば、今頃被害は計り知れないことになっていただろう。

 

「それが正しいよ。ステラがいなかったら、僕も危なかったからね」


 すると、アズレインは一瞬だけ僕の隣に座っているステラに目線を送り、すぐに僕へ戻した。


「シオンさんが身動きを取れなくなるほどの精神束縛………それ程の力をどこから………」

「多分、取り込んだ女神の力だろうね。どんな女神が取り込まれたのかは書かれていなかったけど、考えられるとすればそれくらいかな」


 これは仮説だけど、他に何か思いつくことはない。どの道、重要なのは彼らがそういう能力も持っているという事だ。そしてこれも仮説だけど、今後も彼らは次々と人間や魔物を取り込みながら強くなっていくのではないかと思っている。

 淡々と言ってるけど、正直良い状況ではない。


「ふむ………では、今考え得る対抗策は生贄を用意し事態を先延ばしにするか………どうにかして、星の核に寄生した化身を引き剝がすか、ですね」

「そうだね………僕としては後者を取りたいんだけど」

「………一応聞きますが、月に封印されている邪神を消し去ることは?」

「無理だ。神々が手を取って辛勝なら、僕ら人間が束になったところで絶滅させられるだけさ」


 神とは万象を司る存在だ。人間ならば『権能』と称えられる真理すら、彼らにとっては生まれながらに持つ力に過ぎない。戦闘能力と言うのは神によって大きく異なるから一概には言えないけど、戦うことが出来る神に限って言えば僕ですら勝てないだろう。

 万全の準備と場面を整えてやっと互角、またはちょっと劣勢くらいかな。とはいえそれも全盛期の話で、今の神々は既に幾星霜の時を経て相当摩耗しているはずだし、僕でも案外勝てると思う。

 その摩耗が、封印されている邪神にも適用されれば良かったのだけど。恐らく、彼は衰えるどころか化身から送られる力で更に力を増しているはずだ。

 封印からの解放は即ち、この星に住む全ての生物の終わりを意味する。生き残っている神々ですら例外じゃない。この星は次こそ彼だけの物になるだろう。


「では、やはり復活前に手を打たねばなりませんか………」

「それは絶対だね。正直、スケールが大きすぎる話ではあるんだけど」

「………パーティーなどしている場合ではないのでしょうか」

「いや、そんなことはないよ。どの道、今すぐどうにかできる問題じゃないからね。それに、月に封印された神の復活のために地上の生物を糧にしているようじゃ、今すぐ復活という訳にはいかないだろう。多分………そうだね、僕みたいな存在が捕食されない限りは大丈夫だと思う」


 彼らは強大な生物を探しているはずだ。普通の人間や魔物を取り込んだところで、月の封印を破るだけの力を得るには及ばない。

 そう簡単に破られるような封印なら、そもそも神々だってしないはずだから。必要以上に心配する必要はない。勿論、一度解放されてしまえばこの星の終わりを意味するし、呑気に構えていて良い訳ではないけど。

 それに、逆に言えばいつ封印が解かれてしまうかが分からないという事でもある。彼らが運よく強大な存在の亡骸に在りつけた時、それが原因で突然封印が解かれてしまう事もあるのだから。

 その時ステラが不意に立ち上がってキッチンへと向かう。時計を見れば、丁度正午だった。


「おや、もうこんな時間でしたか………」

「アズレインさんはお昼どうされますか?良ければ私が作ります」

「………ふむ。ではお願いしましょう」


 アズレインは少し考えて頷いた。それを見たステラは小さく笑みを浮かべて昼食を作り始める。


「まさか有翼族を見ることが出来るのみならず、料理まで口にすることが出来るとは。これは私の同僚への自慢話が増えましたね」

「相当羨ましがられるだろうね。ついでに美味しいと言っておけばいいと思うよ」

「はは、それは味次第です」


 まぁ、そういうけど僕が何も言わずにキッチンを預けているという事から心配なんてしてないのだろう。ステラとフラウはどちらも作る料理の傾向が違うけど、共通してとても美味しいと思ってる。

 どっちが好きだとかじゃなく、どっちも良さがあると言えばいいか。フラウは肉や魚をよく使った料理を出す事が多い。焼いただけとかではなく、前のようなハンバーグだったりムニエルだったり。そこにパンやスープを添えたりする感じだね。

 ステラは自分で焼いた色んなパンをメインとしたシチューやスープが多く、サラダには果物が混ざっていたりしているお洒落な料理が多い。肉はあまり使われていないヘルシーな食事だ。


「期待していいよ。うちのキッチン当番は二人共絶品の料理を作るからね」

「………」


 僕の隣のフラウがほんのりと頬を染めてそっぽを見る。ステラもそこまで大袈裟ではない物の、少しだけ頬が染まっていた。


「………おや、罪な男ですね」

「だから違うよ。僕は………」

「そう言って、我らが姫君を落としたのはどなたでしょうね」

「ちょ………」


 空気が凍った。僕の隣で。それを感じ取ったのか、アズレインの愉快そうな笑みが真顔になった。多分、僕も似たような顔をしていると思う。


「………シオン、どういうこと?」

「いや、えっと………」

「………あの戦争中に、セレスティアと何してたの」

「いや、特に何もしてない………」


 そう言った時、アズレインがチラリと僕を見た。君がどこまで聞いているのかは知らないけど、絶対に余計な事は言わないで欲しい。

 というか、何でこんな修羅場みたいな空気になっているのか。まぁ、誤解だとは言え戦争中に女にかまけてたなんて聞いたら怒りたくなるのも仕方ないけど、それにしたって今までにないほど怖い。


「………本当に、何もしてない?」

「え?いや………うん」


 何故か執拗に問い詰められたせいで一瞬だけ。本当に一瞬だけあの事が脳裏を過ぎった。勿論、何もなかったなんて嘘だ。あれを何もない事だと言ってしまったら、大抵の事は何でもない事になってしまうだろう。けど、それを正直に言えるはずもない。


「………嘘。シオン、動揺すると分かりやすい」

「………」


 まぁ、バレるとは正直思っていた。自分でもちょっと苦しい誤魔化し方だったかもと思っていたし、隠しきれないとは思ったけど、僕を見る目が怖い。

 後、見たら絶対に後悔するから振り返らないけど、何故か背後から突き刺さる視線が痛い。僕の反対側にいるアズレインが能面のような顔をしているから、恐らく僕は見てはいけないんだと思う。


「………シオンはセレスティアとそういう関係なの?」

「いや、それは違うよ。流石に断ったさ」

「………そう」


 まるで安堵したかのように呟いたフラウの纏う雰囲気が少しだけ和らぐ。先ほどの絶対零度の空気が若干温度を取り戻し、僕は大きく息を吐く。


「ふぅ………」

「………時間があるとき、詳しく話してもらうから」

「………そっか」


 割と本気でアズレインを睨みつける。ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべたけど、正直因果応報だという自覚はある。セレスティアを落とすと言ってしまうと言い方は悪いけど、結果的にそういう事だったし。

 どこで間違えたんだろうか………と思ったけど、色恋沙汰に疎かった僕が考えても分かるはずが無い。次の研究議題は、人の恋愛感情についての解明でもした方が良いのかな。














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