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天才科学者の卵は転生しても研究を続けるそうです。  作者: 白亜皐月
三章・凶兆の暗雲は天より高く
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61話

 次の日。昨日は食事が終わった後は少しだけフラウとステラの三人で会話をしてから部屋に戻って眠りに着いた。勿論、昨日の仮説を確かめないといけないとは思ったけど、今日はセレスティアからパーティーに誘われている日だ。

 万が一にも遅れるわけにはいかない。まぁ、出発は夕方だから流石に大丈夫だと思うけど。僕はベッドから体を起こして立ち上がる。

 身支度を軽く整えて部屋を出る。いつものように廊下を歩き、一階へと降りる。すると、ソファーにはフラウが座っていて、キッチンにはステラが立っていた。

 言い忘れていたけど、ステラにもパーティーの事は話している。行きたいかどうか聞いてみた所、数日置いて帰って来た返答は、問題が発生しないのであれば行ってみたいとのことだ。勿論、彼女の種族が嫌われている事が多いのは承知の上だ。

 確か、午前中にはアズレインが家を訪ねてくるはずだ。その時に聞いてみればいいと思っている。

 いつものように朝食を食べて、ステラにお礼を言ってから僕は立ち上がる。僕が向かっているのは、普段使うことのない書斎。意外に思うかもしれないけど、僕は読書が好きなわけではない。必要ならば読むだけで、そうでないのであれば自分で動きたいと思っているからだ。

 工房に向かう廊下を途中で曲がり、そのまま少し進むと書斎がある。扉を開けると、本棚が沢山ある部屋になっている。ほんの少しだけ薄暗く、ほんの少しの埃っぽさが使用されていないことを証明していた。

 フラウやステラにも、わざわざ使わない部屋まで掃除をしなくていいと伝えているから当たり前なのだけど。僕はそのままいくつかの本棚通り過ぎ、一つの欄に入る。

 少しだけ並べられた本を見ていると、目当ての物を見つけた。


「………あった」


 僕は風の魔法で被っていた埃を吹き飛ばし、その本を手に取る。タイトルも著者も書かれていないその本は、とある記録。

 この星をまだ神々が支配していた頃を綴った本だった。今でこそ彼らはこの星の営みを傍観することに決めているけど、遥か昔には彼らが全てを統治していた時代があった。

 『権能』が生まれるよりも昔の話だ。そんな話と今回の件が関係しているのか。それは彼女の言葉に手がかりがあった。

 僕は本を捲っていく。


「天空の神への祈りが、本当に彼女に力を授けたのだとしたら………」


 神が人に対して干渉することは、今になっては有り得ない事だ。現在でも信仰の対価として豊穣を齎したり、雨を降らせるなどの間接的な加護は与えたりするらしいけど、個人に力を与えるなんて話は彼らが傍観者となってからは一度もない。

 そして、もしも天空の神がステラへ力を授けたとして。その力であの怪物は倒れたのだとすれば。


「………ここだ」


 僕は本を捲っていく途中、とある一ページで手を止める。ここにある本を収集していたのはシアトラらしいけど、彼は内容に少し目を通すだけで具体的に読もうとはしていない。

 僕の記憶にも薄っすらとしか残っていなかったし、このような記録は本来役には立たないはずだった。けど、あの怪物と思われる存在が、過去に出現していたとすれば話は別だ。

 内容を深く読んでいく。全ての始まりは、遥か昔に起こった神々の大戦だった。それも、神々が覇権を争っていたのではない。この星を支配せんとするたった一人の邪神と、他の神々が結託してこの星を守り、勝利を収めた戦い。

 しかし、その際に神々は半数まで数を減らしたとされている。それでも、敗北した邪神は他の神々によって月に封印されたのだ。しかし、彼はこの星に楔を残してチャンスを残していた。それこそが、星の核に寄生した彼の化身だった。

 神々はそのことに気付いたけど、星の核と同化している化身を破壊するのはこの星の核を破壊することと同義だ。そして、その化身からは邪神の眷属が生み出され始めた。

 それこそがあの怪物だ。その姿は詳しく明記されていないものの、地上に突然現れてはそこにいる生物に見境なく襲い掛かり、殺されたものは怪物へと変貌すると書かれていた。そして、彼らの目的は地上にいる生物の命や記憶、遺伝子を取り込み、星の核に憑りついた邪神の化身へと送ってその存在をより強大な物とすることが目的だと。

 もしその化身が力を増した時、化身を通じて本体へと送られた力で封印を破壊して再びこの星を奪おうとするだろう。


「………」


 神々はこの事態をどうにかするために苦肉の策として取ったのは、とある女神を人柱として星の核へと送り、その化身を慰めることで鎮めたという。

 その後、神々は地上の怪物を駆逐することで平穏を得た。神性によって作り出された怪物は、神性を以て殺すことが出来る。死人が変わり果てた個体は、それに加えて本来否定したはずの命の力を嫌う。

 儀式魔法と言うのは、本来神々が供物を受けたことで顕現させる魔法だ。つまり、神性を持つ。だからこそ………


「彼女の祈りに応えたのは………神があの生物を滅するべきだとしているから」


 そして、数千年と出現していなかったはずの怪物が突如として再び地上に現れ始めた理由。そんなことは一つしか考えられなかった。


「………生贄になった女神が、完全に取り込まれた」











 その時、扉が開く音が聞こえた。


「っ!?」

「………え?」


 驚いて振り向くと、フラウがいた。僕の顔を見て驚いたような顔をしていたけど、すぐに首を傾げる。


「フラウ………?どうしてここにいるんだい?」

「………あの使節の人が来たから呼びに来た」

「おや………申し訳ないね。ありがとう」

「………ううん、気にしないで」


 僕は本を戻して、扉に向かう。そこで待っていたフラウは、僕の顔を見ながら口を開いた。


「………なんで、あんなに驚いてたの?」

「あぁ………気持ち的に張りつめてたのかもね。必要以上に物音に敏感になってたよ」

「………そう。無理は、しないでね」

「分かってるよ。約束だからね」

「………うん」


 部屋を出て、そのまま廊下を進みリビングへと戻る。ソファーにはアズレインが座っていた。


「待たせたね」

「いえいえ、お忙しい時に来てしまったようで………」

「ちょっとした調べものだよ。気にしないでくれ」


 僕とフラウはそのまま反対側のソファーに座る。彼が来た理由は、パーティーの詳細についての確認やその他の連絡だ。


「では、今日のスケジュールについて話していきたいのですが………それより先に聞きたいことが」

「ん、どうしたんだい?」

「シオンさん、鳥を飼っていらっしゃるんですか?」

「………ん?」


 すると、アズレインが懐から取り出したのは一枚の黄金の羽根。それを見て、僕は苦笑した。


「あぁ………掃除を忘れていたよ」

「………このような羽根は見たことがありません。少し気になってしまいまして」


 まぁ、手間が省けてよかったのかもしれない。もう少し段取りを踏んでから紹介したかったのだけど。


「いいよ。僕も丁度紹介したいと思っていたからね………フラウ、呼んできてくれるかい?」

「………うん、分かった」


 そう言ってフラウが二階に上がっていく。それを見て、アズレインは目を見開いた。


「………まさか」

「………君は相変わらず察しがいいね」


 しばらくすると、フラウが戻って来る。その後ろに続く姿を見て、アズレインは言葉を詰まらせた。フラウが僕の隣に戻り、続いてステラが翼を小さく畳んで僕の隣に座ったのを見て、まるで信じられない物を見たような顔をする。


「………有翼族、ですか。しかし、彼らは地上を嫌うはずでは………」

「まぁね。ちょっと色々あってさ」

「ステラです。よろしくお願いします」

「………っ!?」


 そう言って丁寧にお辞儀をするステラを見て、アズレインは息を飲んだ。


「………本当に色々あったようですね。まさか、魔族だけでなく有翼族まで同居するようになるとは………あなたの事は知っているのですか?」

「知っていたよ」

「そうですか………」


 アズレインは一度目を閉じて、考え込むような仕草をする。それでもしばらくしないうちに目を開くと僕を見た。


「あなたには驚かされてばかりですね。まさか、生きている間に天空の宝玉と言われる有翼族と会う事が出来るとは思いませんでしたよ」

「だろうね………」

「噂に違わず、目を潰してしまいそうなほど美しい容姿ですが………もしや、妻として迎えたという事ですか?」

「なんで皆彼女を見てそう思うのかな。色々とぶっ飛んでるよ」


 僕がすぐに否定する。村人と言いアズレインと言い、何故そう結びつくのか分からない。


「………ふむ。それだけの美貌ですら、あなたのお眼鏡には叶わなかったと」

「いや、そうじゃなくて………一時家で預かってるだけだよ」

「冗談ですよ。しかし、そう思われてしまうのも仕方ないかと。彼女ほどの容姿であれば、貴族だけではなく、王族すらも魅了してしまうでしょうから」

「っ………!」


 容姿を誉められたからか、ステラが少しだけ赤面する。しかし、それと反比例するようにフラウの不機嫌度メーターが急上昇していく。爆発寸前というところで、僕は焦って話題を変える。


「それはいいんだけど、今日は頼みがあるんだ」

「………なるほど。彼女をパーティーに参加させたいと?」

「うん、話が早くて助かるよ」


 すると、アズレインは困ったような顔をする。


「………そうですね。一応聞いてみますが………難しいかと」

「何故だい?」

「パーティーには貴族が集まります。彼女は一時的にこの家にいるだけなのでしょう?本来、貴族と関わりのない者はあなたに渡した招待状が無ければ参加することは出来ません。フラウさんはあなたの家族として許可を取りましたが、ステラさんは………」

「………私がアストライア王家の血を継いでいるとしてもですか?」

「は?」


 アズレインの動きが止まる。初めて見る姿に、ちょっと笑いかけてしまった。


「………追放はされてしまったんですが、私はアストライア王家の王女です。勿論、既に身分としては違うのですが………人間は、今の家よりも流れる血を重視すると聞きました。それでも駄目でしょうか?」

「………すぐに確認を取りますので、一度失礼します」


 そう言ってアズレインは立ち上がると、玄関から外へ出て行く。僕はそれを見て、ステラに声を掛けた。


「君、本当に参加したいんだね。まさかそれを言うとは思わなかったけど」

「………少しでも、あなたと同じ時間を共有したくて」

「………」


 彼女の言葉に、アズレインに言われた言葉を思い出してしまう。そんな意図はないは分かっているけど、二度目となるとどうしても意識してしまう。

 隣に座っていたフラウは未だに忌々し気に彼の出て行った玄関を睨んでいた。


「………私、一度も言われてないのに」

「あはは………そう怒らないで」


 正直、君と僕がそういう関係に見られてしまったら、僕の世間体が色々と不味いのだけど。勿論、そんなことを言うと限界ギリギリの不機嫌度メーターが一瞬で爆発するだろうから言わない。

 しばらくするとアズレインが戻ってきた。


「許可が出ました。来賓として参加を認めるそうです」

「良かった………ありがとうございます」

「いえいえ………しかし、申し訳ないのですがやはりロッカさんは………」

「分かってるよ。彼にも最初から言っていたから問題ない」

「そうですか………それでは、改めてスケジュールの確認をしていきましょう」


 そう言ってアズレインが鞄から書類を出していく。結構色々と細かいスケジュールはあるみたいだけど、僕らはフォレニア王国の貴族じゃないからあんまり関係ないスケジュールが多い。

 みんなが想像するようなワイワイと会食をするようなパーティーは、二時間程の挨拶や式辞などが終わった後らしい。まぁ、色々と大きな意味のあるパーティーだから仕方ないだろうけどね。

 出発は今日の夕方五時頃だ。結構時間はあるね。そうやってパーティーの詳細を聞いていく。久しぶりの友との再会に、ほんの少しだけ楽しみになっていた。












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