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148話

 あれから一週間後、僕は村の様子を見に来ていた。あの日から3日後に完成したゴーレムを確認するためだね。

 それと、あの日起こった出来事は自分の中で整理は付けていた。何も思わない訳ではないけれど、いつまでも迷い続ける時間は無いからね。

 村に入ると、いつものように男が出迎えてくれる。


「よう先生!何か用かい?」

「やぁ。彼は問題ないかと思ってね」


 失敗はしなかったはずだし、その後の様子を見れば多分大丈夫だと言う思うんだけど、念のためというやつだ。


「おう!ロッカで慣れていたし、子供もすぐに懐いてな。流石ロッカの弟だ、子供の相手も良くしてくれるよ」

「それを聞いて安心したよ。少し挨拶して言ってもいいかな」

「勿論だ。多分中央の広場にいると思うぜ」


 男の言葉に頷いて、僕は村に入る。中央の広場は最近噴水が出来たらしいね。知らない間に発展していく村に少し驚いたけど、そんな村の広場に彼はいた。聞いていた通り、子供の相手をしているようだ。子供に囲まれる大きなゴーレムは、僕に気が付くと手を振る。


「やぁ。その様子だと、ちゃんと村には馴染めたようだね」

「!」


 彼は大きく頷く。彼は村人達からトゥルバという名を貰った、僕が作ったゴーレムの二号機だ。性格は兄のロッカに似て穏やかだけど、彼以上に大人しい傾向があった。けれど、役目をしっかりと果たしてくれることはテスト済みだったからそこは心配していない。

 作るときに拡張機能を追加しようかはとても悩んだけれど、最終的にはロッカと全く同じ規格で作ることにした。あくまでも村を守るための番人であって、それ以上の兵器としての能力はいらないからね。それに、そんなものが無くても既に番人として以上の役割は持てているようだし。


「あ、シオン兄ちゃん。今日は一人なの?」

「あぁ。彼の様子を見に来ただけだからね。彼とは仲良く出来てるかい?」

「うん!よく遊んでくれるんだ!」

「それはよかった」


 村の皆も問題なく彼を受け入れてくれたみたいだ。成功はしていたけれど、やはり僕にとっても経験の少ない命を作り出す秘術だからね。色々と不安はあったけれど、杞憂だったみたいだ。これでしばらくはエコーの授業やアリィの記憶についても協力しやすいだろう。

 意外と滞っていた事が多いね。まずはどれからやっていこうか。












「おかえりなさい」

「………おかえり」

「あぁ、ただいま」


 僕が家に帰ると、ステラとフラウが迎えてくれる。エコーは外で剣の鍛錬をしていて、アリィは………まぁ、多分部屋で寝ているんだろう。記憶を失っていると言うのは普通であれば不安になっても仕方がない状態だと思うんだけど、普段の彼女の振る舞いから全くそんな様子はない。

 それどころか、自身の過去にあまり興味がない………いや、無意識に避けているような気さえする。一応、患者として扱っているから毎日記憶の事に関して確認を取っているけれど、その返しはあまりに適当で、話題を早く切り上げたいと言わんばかりだった。


「アリィは?」

「部屋にいると思う………ねぇ、シオン。あの子………」

「さてね………記憶がない以上は彼女の事を議論しても無駄だよ。暫くはね」

「暫くは………?」

「あぁ。記憶を失っていたとしても、彼女が何者であるかを変えることは出来ない。いずれ全てを思い出す日が必ず来るよ」

「そっか………」


 ステラが神妙そうに頷く。と、噂をすればという奴かな。2階から階段を降りてくる音が聞こえてくる。赤い髪と白い肌によく似合う黒いドレスを着た竜の少女は眠そうにしながら、僕を見て声を掛けてくる。

 ちなみに、ドレスは村に頼んで作ってもらった物を僕が耐火の効果を付けたマジックアイテムだ。また服を燃やされたら堪ったものではないからね。


「あら、帰ってたのね」

「そう長い用事でもないからね………君はまたお昼寝かい?」

「えぇ。特にやることもないもの」

「ふむ………少しは外に出てみたらどうだい?君が外出したのは村に行った日以来一度もないじゃないか」

「いやよ。用事もないのに面倒くさいし」


 と、本当に彼女が竜なのか少々疑わしい程引きこもり生活を送ってるようだけど。まぁ、そもそも竜という種族が縄張りから移動する事が無いし、そういうものなのかもしれない。僕の家が縄張りになっているというのは一度置いておいて。


「まぁ、それでいいなら僕はなにも言わないけれどね………」

「………なによ?」

「いや、何も?………あぁ、あと。ふと気になったことがあってね」

「気になった事?先に言っておくけど、何も思い出して………」

「いや、その事ではないんだ。厳密には関係しているかもしれないけれど………君が覚えている範囲で、最初の記憶は何だい?どこにいた、とかそういう曖昧な物でもいいんだけど」

「最初の記憶………森に居たことは覚えているわ。けど、どの辺りって言われると分からないわね。目覚めてすぐにあいつらに襲われて逃げていたもの」


 と、特に考える素振りも見せずに答えるアリィ。実際、詳しく場所が分からないと言うのは事実なんだろうけれど、通ってきた道を一切覚えていないと言うことはないはずだ。どの方角から来たとか、そういうのすら答えられないとは思えない。

 とはいえ、若干不機嫌そうに一定のリズムで尻尾を床に叩きつけるアリィにこれ以上追及しても更に機嫌を損ねるだけだろう。村の人間に言われたように、彼女はこのまま居着いてしまいそうだけど、今の彼女を叩き出すという訳にもいかないのは当然だった。これが迷惑をかけているというなら話は違ったんだけどね。


「なら仕方ないか………さて、僕は研究の続きをするよ。ロッカ、いつも通りお昼になったら呼んでくれるかな」

「!」


 まぁ、本当は自分で時間を見て中断できるのが一番なんだけれどね。どうしても性分は簡単には変わらないようだ。ただ、こうして自分の研究を進めれるのも久しぶりな気がするね。

 ようやくやることもある程度片付いたし、明日は久し振りにフィールドワークにでも出掛けてみようか。











 主様が村に新しく作ったゴーレムの様子を見に行った日の夜。ベッドに横になりながら、ふと今までの事を思い出す。特に理由はないけれど、こうして自分だけの部屋があることにも慣れてきた今、何となく振り返ってみたくなっただけだった。


「思えば………辛い事ばっかりでしたね」


 改めて思い返すと、やっぱりまだ幸せな記憶よりも辛いと感じた記憶の方がずっと多い。主様に拾われる直前までなんて、母の言葉すら少しずつ信じ切れなくなっていた。自由なんて、どこにもないじゃないかと。貴女の言う私の主など、現れることなんて無かったと。

 自己を失えば、もう苦しむことも期待する事も無いのだから、それでいいじゃないかと半分自棄になっていた頃でもあった。


「でも………お母さんの言う通りだった」


 私はあの日、私が初めて全てを懸けても良いと思える主様に出会った。強く、聡明で。何よりも気高く、誰よりも優しい人に。まさか、あんなに寸前になるとは思わなかったけれど。それを無かったことにしても余りある程に、私は真に仕えるべき主を得ることが出来た。

 お母さんは、本当にこうなることを分かっていたんだろうか?そういえば、覚えているだけでも少し意味深な事ばかり言っていた気がする。

 少し昔の事を思い出して感傷に浸りつつ、手帳を少しだけ遡る。


「最初は、捻くれたことばかり言ったりして………改めて思い出せば、恥ずかしい事をしましたね………」


 ちょっと困らせれば、すぐに愛想を尽かせて店に返すだろうと思っていたし、主様も表面上穏やかなフリをしているだけなのだとも思っていた。どちらにせよ、もう諦めていた私はその方がずっと楽だと思っていて。

 あの時本当に見捨てられていたら、と思うとゾッとする。自由を知らないままだったら、それを恐ろしいと思う事は無かった。いや、思う事は出来なかっただろう。


「………そういえば、主様は何故私を選んだんでしょう」


 考えても意味の無い事だけど、気になってしまった。余裕が出来てくると、関係の無い事を考えてしまうと言う事だろうか?でも、あの日主様が私を選んだ時の声は、確かに何らかの自信があるような声だったと思う。だから、私は主様との出会いを運命だと思ってしまっている、ただ自惚れかもしれないけれど。

 きっと、ただの偶然なんかじゃないってことは自信を持って言える。あの人は、あの人だけが私が使えるに相応しい人で、この世界のどこを探しても、きっと代わりなんていないから。


「今はただ………傍に居させてください」


 それが、今の私に出来た願いだった。








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