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147話

「ミア!心配したのよ………!?」

「お、お母さん………」


 少女を村まで送ると、村の入り口付近で立っていた彼女の母親が涙を流しながら走ってきて少女を抱きしめる。それを見た他の村の大人たちも駆け寄ってきて、安どの表情を浮かべる。


「先生。迷惑かけちまってすまね………」

「いや。これくらい迷惑だとも思わないさ。この子が無事でよかったよ」


 僕がそう答えると、僕に声を掛けた男は笑みを浮かべて頷き、森の方へと走っていく。恐らく、村の外にまで数人が捜索に出ていたんだろう。取り敢えず、あとは当人たちでちゃんと話すだろう。

 ロッカを見て軽く頷くと、僕たちは家までの道に戻り始めた。こうして気を抜けない状態になってしまったのはとても申し訳なく思うけれど、遅かれ早かれ邪神の勢力はここまで伸びていた可能性は十分に考えられる。


「僕がいたのが幸か不幸かも判断できないね………まぁ、それは今後次第か」












 だから、僕は目の前に広がる光景を受け入れることに数秒の時間を要した。一切の生物の音が無い、静寂の森に肉を裂く音だけが響く。


「………」


 普段村と家を通う道から少し逸れた場所で、何かを食らう黒い異形。人型をしたそれは、その背に見覚えのある金の翼を伸ばしていた。異形が肉の塊となったそれから顔を離し、僕たちの方に顔を向ける。

 その異形の顔は目が無く、口と牙だけが存在する不気味な姿だったがそれ以上に。口の端に、赤く染まった布の切れ端が引っかかっているのを見て、僕は目を見開いた。


「君達は」


 考えてみれば、当然の事だったんじゃないか。あの子を村の外まで捜索するのなら、僕の家を訪ねに来るのは必然だったはずだ。そして、目的が違うとは言え、僕に用がある他の何かと道中に遭遇するのもおかしい事ではなかったじゃないか。


「………いったい」


 今まで日常の一部だったはずの黄金の翼が、今はこれ以上ない程に憎たらしい物に僕の目に映った。あの日、一度は彼女を失ったと言う事実が今ここで、誰かから何かを奪っている。右手に黄金の光を纏わせ、固く握りしめる。


「どれだけのものを、僕達から奪えば気が済むんだ………!」


 眷属を睨みつけると共に右手を振るい、同時に大地から黄金の鎖が伸びて眷属へと射出させる。それを見た眷属はその背に持つ金の翼をはためかせ、一気に空へと飛翔したのを見てロッカが左手を変形させて出力を解放した石弾を発射し始める。

 眷属はそれを空中で躱しつつ、右腕を構えると同時に光の槍を作り出す。それを僕に向けて投擲すると、それが光線となって僕に迫った。

 ロッカが僕を庇おうとするけど、その前に僕を中心として竜巻のような暴風が放たれた光を完全に遮る。その暴風の中で、僕は右手開く。


「我が名の下に新たな空を象る。顕現せよ、五つの権能」


 僕の右手から全ての視界を奪う程の強い光が放たれ、周辺を包む。刹那、光の中で何かが音を立てて割れる音が響く。

 その光と音が消えた後で周囲に広がる景色は一変していた。森など存在せず、果てない大地と空だけが存在する世界。そこには大地に立つ僕と空に浮かぶ眷属だけがいた。僕が周囲の状況を確認し、こんな状況でも特に慌てた様子もないまま僕を見下ろす眷属に視線を移す。


「君がいつでも逃げれるような場所に置いておく訳にはいかなくてね。悪いけど………」


 僕が両手に黄金の光を纏わせて大地に添えると同時に、この広大な大地に黄金の亀裂が走る。


「ここで必ず君を殺す」


 この広大な大地いっぱいに広がった亀裂を突き破り、数千の鎖が放たれる。それと同時に眷属はその翼を限界まで広げると同時に巨大な魔法陣が展開され、黄金の光線が降り注ぐ。

 天に向かう黄金と、天から降り注ぐ黄金が互いにぶつかり合い、破壊し合う。砕けては新たに放たれる黄金の鎖と、無尽蔵に放たれる黄金の光。

 僕が大地に添える手に魔力を込めると、大地から城を押し潰せるほど巨大な二本の鎖が現れ、眷属を押し潰そうと眷属の左右から迫り、放たれる光線を物ともせずに突き進む。


「ギィ………!」


 それを見た眷属はまるで歯軋りのような唸り声を上げ、両手を広げて迫る鎖をその大して太くもない両腕で受け止める。しかし、そのまま眷属を押しつぶすかのように思えた二本の鎖は完全に受け止められ、眷属の両腕に光が灯ると同時に閃光が放たれ、鎖を貫いて爆ぜる。


「………不快だ」


 有翼族だったステラは、邪神の力によって間違いなく殺されている。ならその肉体に残っていた遺伝子や魔力は間違いなく回収されているはずだ。なら、魂が無くとも器さえ用意すれば同じような力を持った眷属を作り出せると。

 あぁ、本当に腹立たしい。


「その翼で空を飛ぶのはやめてもらえるかな………!」


 大地に添えていた両手に纏う光が水色へと変わる。それと同時に僕を中心に大地に水が広がり、一瞬にして先の見えない湖が創られる。それと同時に水面に波紋が広がり、そこから一体の巨大な水龍と無数の水の剣が放たれた。僕は立ち上がり、右手に赤い光を纏わせる。


「ギィィィィィィ!!!」


 耳障りな咆哮を上げた眷属は巨大な閃光を放って水龍を相殺しようとする。けれど、僕はその瞬間を待っていた。光と水龍がぶつかる寸前、僕が右腕を振るうと水龍の中を炎が一瞬で駆け巡り、大爆発を起こす。その爆風によって姿勢を崩した眷属に左手を向けると、水面から放たれる水剣の数が増し、そのうちの一本が黄金の翼を貫く。


「ギィッ!」


 苦し気な声を上げた眷属。飛び散る赤い鮮血に一瞬だけ眉を顰めるけれど、すぐに一瞬の隙を付くようにその翼に次々と水の剣が襲い掛かる。一瞬にしてズタズタに引き裂かれた黄金の翼。そのまま地に落ちる眷属に僕が再び右手に黄金の光を纏わせると同時に、湖が弾けるように消滅して現れた大地から無数の剣が大地に落ちた眷属に向けて放たれる。


「ギィィイイイイ!!!」


 眷属は苦し気に立ち上がり、見るも無残な翼を広げて魔法陣を再び展開しようとするけど、その魔法陣が完成する前に一本の剣が眷属の頭を穿つ。更に次々と眷属の体を無数の剣が穿ち、その異形の肉体が引き裂かれていく。

 残った翼も徐々にその形を失っていくのを見て、僕はあの時の事が頭を過ぎって顔を歪める。それでも射出する剣の数は絶やさず………いや、寧ろ目の前にある形を全て消し去る程に増えた剣が既に動くことも無くなった異形の身体を埋め尽くす。


「………」


 やがて放たれる剣も消えて無音となった世界で、僕は大地に突き刺さる無数の剣を見て小さなため息を付く。そして突如として空間に亀裂が走り、砕け散ると同時に世界を白い光が包み込む。

 その光が消えた時、周囲は元の景色だった。ただ、そこにいたロッカが周囲を慌てた様子で見渡していて、僕を見ると驚いたような仕草をする。


「!?」

「………あぁ、すまないね。あれは僕が直々に始末しておかないと気が済まなかったんだ」


 僕は良く穏やかな性格だとか言われることが多い。自分でも、多少は寛容な自覚があるけれど、感情が無い訳じゃない。どうしても許せない事は当たり前に存在するし、相手が僕たちのような人間と決して相容れない怪物ならば尚更容赦する理由など無かった。


「………すまないね」


 僕は地面に横たわる、最早元を判別も出来ない程になったそれを見て呟く。あぁ、彼らには何と言うべきかな………いや、取り繕ったところで意味はないか。ありのままの出来事を伝えるしかないだろう。

 僕は残されたそれに火を付ける。このまま放置するわけにもいかないけれど、まさか村にこんな状態のものを持っていくわけにもいかなかったから。あぁ、これを聞いた彼らはどんな顔をするだろうか。












「………なんだって?」

「え?いえ、だから村の奴らは全員帰って来てますが………」


 村に戻った僕とロッカ。そして、取り敢えず誰が犠牲になったのか把握するために森から帰っていない人がいないか村の入り口に立っていた男に聞いた時、帰って来た言葉に僕は耳を疑った。


「………本当かい?」

「えぇ。もしもの為に三人一組で村の外に出ましたし………何かあったんですか?」

「いや………何でもないんだ。気にしないでくれ」


 じゃあ、あれは何だったんだ?まさか、人じゃなかった………いや、あれは間違いなく服だったはずだ。冒険者………と言うのも考えづらい。こんなところまで人の足で来るのには相当な時間が掛かるし、そこまでして来る理由が無いはずだ。僕の家を知っているはずもないだろうし。

 何かがおかしい。ロッカも同じような事を考えているのか、考え込んだ僕を不安そうに見る。


「………とにかく、突然すまなかったね」

「いえ、大丈夫ですが………もし何かあったら、遠慮なく話してください」

「あぁ、ありがとう。それじゃあ、今度こそまたね」

「はい、また」


 僕はそう言って再び帰路に付いた。けれど、やはり何かおかしなことが起こっている。けどその正体が掴めなくて、僕はそれがとても恐ろしかった。

 けれど、大きな異変とは、小さな異変の先に起こる物だ。きっと、何か良くない事が起ころうとしている。


「………少し、ゴーレムの完成を急がなくてはね」








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