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144話

 眷属達を殲滅した後、僕たちは一度家に戻ってアリィの服を用意していた。彼女はまた家に戻るのを面倒くさがったけど、村には子供だっているんだから、絶対にそのままの姿で行かせるわけにはいかなかった。というか、僕まで色々な勘違いをされてしまう。


「全く………別にいいじゃない、服くらいで大袈裟ね」

「君が良くても周りは良くないんだよ」


 変なところで龍としての倫理観を前面に出すのは止めてほしいね。人間に対して高圧的なのも少し困るけれど。ステラとエコーも苦笑しているし。


「………それより、あんたが狙われてるって?」

「まぁ、君も対象であることには間違いないと思うけどね。君がこの辺で暴れたのがつい最近なのに、眷属達の数が多すぎるんだ。少し前に色々あったから、あんな数の眷属をすぐに生み出す余裕があるとは考えづらくてね」

「ふーん………自業自得ってことね」

「まぁね。君が来たことでより眷属の集まりが増えた可能性は十分にあるけれど」


 まるで全部僕に原因があるとでも言うような様子のアリィにちょっと意地悪を言ってみると、彼女は気まずそうに顔を反らす。案外素直な反応だ。


「………まぁ、もうしばらくは来ないと思うけどね。あれだけの軍勢を用意するのには時間が掛かると思うし、それに………」

「それに?」

「………いや、なんでもないよ。忘れてくれ」


 あぁ、危ない。咄嗟に口に出掛けた言葉を呑み込む。僕は余り話そうとした内容を撤回する事が無いからか、ステラとフラウ、エコーが不思議そうな顔をしていた。

 そんなことがありつつも、僕たちは村に着いた。村に入った僕達を見て、村人達は驚いたような顔を見せる。


「シオンさん、久しぶりだな。つい昨日エコーさんの紹介があったばっかだが、また新入りかい?」

「患者、かな。色々と訳ありでね」

「まぁ………そらそうだろうよ」


 僕に声を掛けて来た男は、村に来ると一番に声を掛けてくれる事が多いリアム。小さな要件なら彼が殆ど対応してくれるけど、アリィを見て納得したような顔をする。竜人………まぁ、本当は龍種だけどそれを伝える必要はない。とにかく、普通なら滅多に人前に姿を現さない種族がここにいるのだから。

 まぁ、フラウやステラの件もあるからそんなに驚いてはいないのだろう。またか、と言った様子で僕に目線を移した………同情するかのような視線なのは勘違いだろう。


「また賑やかになるねぇ………ってか、こりゃまた美人さんだな」

「先に言っておくと………」

「はいはい。シオンさんがそう望んでるわけじゃないのは分かってるって」


 フラウ、ステラ、エコーと客観的に見ても間違いなく美少女である三人と同じ家で暮らすようになったんだ。特にステラに関しては彼女との関係性を定期的に聞かれたりしていた。今思えば、以前から一人で村に出掛けたりすることがあったステラとの関わりの中で、彼女の僕への想いに彼らは気付いていたのかもしれない。

 付き合いがそう長い訳ではないはずのシエルとマリンも察していたようだったし。


「まぁ、しばらくそこの竜人も同居するからよろしくって事だろ?」

「話が早くて助かるよ。彼女はアルシェリティア。長いと思うならアリィと呼ぶといいよ」

「………そう言うのって、私が言うんじゃないの?」


 何やら不満があるように割って入ってくるアリィ。まぁ、間違いではないけれど変なトラブルになる可能性が無いとは言えないから、出来るだけ僕が対応したい。あと、この後の話もしないといけないし。


「はは、まぁまぁ………取り敢えず、彼女には色々と事情があるからしばらくはうちにいると思うからよろしく頼むよ」

「あいよ………フラウちゃんやステラさんの時も似たような事を言われた気がするな」


 その話は良いから。僕が苦笑を返すと、リアムは急に真剣な顔に変わる。さて、元の目的も話さなきゃね。恐らくさっきの戦闘の余波はこちらにも来ているだろうし。


「そういや、ついさっき森の方にでけぇ爆発が見えたんだが。何かトラブルがあったのかい?」

「あぁ、そのことについても話さなきゃいけなくてね。ただ、これは全員が知るべきだから村長に知らせてくれないかな?」

「………なるほど。待っててくれ。すぐに伝えてくる」


 僕がそういうと、リアムはすぐに頷いて走っていく。只事ではない事を理解してくれたんだろう。それからしばらくしないうちに、村長と数人の大人が集まってきていた。


「お待たせしました。お久しぶりですな、シオン様。ところで、何かお話があるとか」

「あぁ、世話になってるね。取り敢えず、この件をアズレインから聞いていたとしたら教えてほしいんだけど………」


 僕はそう言って眷属の事や邪神の事を、話せる範囲で村人達に話し始めた。彼らはそんなことを初耳だったらしく、僕の話を驚きながら聞いていたけれど、それを疑う人は全くいなかった。信じてもらえなかったらどうしようかと思ったよ。


「………なるほど。にわかには信じ難いですが………その邪神の眷属が、この村の近くに現れたと」

「そうなるね。さっき話した通り、僕は奴らと関わる機会が多いせいで直接狙われる結果になってしまったかもしれないんだ。取り敢えずは結界とかの対策をするつもりだけど、もし君たちが望むのであれば、遠く離れた所に拠点を移そうとも思っているけれど」

「え、でも………」

「大丈夫。権能達が遺した家は他にもあるからね」


 ステラが不安そうに声を上げたのを安心させるように言う。百年以上研究を続けた『権能』達がずっとあの家にいた訳じゃないのは考えてみれば当然の事だ。彼らは各地を転々としていたのだから、案外拠点と言える家は色んな場所に存在していた。

 まぁ、多少は間取りが違うと思うから最初は慣れないかもしれないけれどね。


「いえ、その必要はありません。今までシオン様に受けた恩を考えれば、出て行けとは口が裂けても言えませんよ。ですが、そのような者達に狙われていると言うことはシオン様自身の身も危ないはず。どうかお気をつけて」

「………すまないね。感謝するよ」


 正直、僕の心配よりも彼ら自身の事を考えるべきだと思うんだけどね。とは言え、こうして言って貰えたからには彼らの安全は僕が保証しないといけない。錬金術師としての本領発揮だ。


「あと、万が一の為にロッカと似たような護衛用のゴーレムを作って村を守らせようかとも思っているんだけど、どうかな?」

「ロッカ様と同じようなゴーレムをですか?私達としてはとてもありがたいですが………良いのですか?」

「まぁ、流石にこの村が僕のせいで襲われたとあったら悔やみきれないからね。じゃあ、数日以内に用意をするよ」

「いつもの事ながら、助けてもらってばかりですな………ありがとうございます」

「お互い様さ」


 僕はその後村長にもアリィを紹介してから家に帰る。しばらくは仕事が多そうだ。予定を組みながら帰路を歩いている時、フラウが僕の袖を掴む。


「………シオン。もし村から離れてほしいって言われたら、本当に引っ越すつもりだったの?」

「まぁね。奴らの被害を少しでも減らすために、そういう事も考えてはいたよ」

「………そういうのは先に言って」

「それは本当に申し訳ない」


 まぁ、フラウなら急に決まっても小言を言いながらも絶対に付いてくるんだろうなぁと言うことは分かっていた。ステラも同じだろうし、エコーは文句も言わずに従いそうだ。


「………私はあの家でしばらく預かるって言われたのに、いきなり別の場所に行く可能性があったのね」

「君は別に気にしてないだろう?」

「まぁ、そうだけど」


 家に思い入れとかがある訳でもないだろうに。まぁ、患者と言う割には扱いが雑だとは思うけど記憶喪失は本人の以外に解決の糸口を持っていないから、手の施しようがないんだよね。だから放っておくと言う訳ではないけど。


「でも、主様が遠くへ行っても眷属達は以前としてここを狙うのではないでしょうか?であれば、主様が遠くに行くよりすぐに救援に迎える距離に居を構えた方が安全だとも思えますが………」

「まぁ、それも一理あるね」


 それも考えなかった訳ではない。けれど、それを彼らに伝えてリスクの取捨選択をさせるのは、彼らに責任を押し付けているようで嫌だった。それに、一応結界やゴーレムの配備をやってから離れるつもりだったから、ある程度は安全だろうと判断したのもあるね。


「ロッカと同じゴーレムを作るんでしょう?ロッカにとっては弟みたいな感じになるかな」

「はは、そうかもね。ロッカと対面させたときが少し気になるよ」


 ステラの言う通り、人間で言えば扱いは弟だろう。互いに口はないし、どんなコミュニケーションを交わすのだろうか。まさか同族嫌悪をすると言うのは………ロッカに限ってはあまり考えられないし。

 とは言え、準備にかかる時間を考えれば優先するべきは結界を作る事だね。それが終わってからゴーレムを作ることになるだろう。


「じゃあ、ロッカにも伝えてあげないとね」

「………どんな反応するかな」

「嬉しくて踊り出しちゃうかも」

「………凄く、想像できるね」


 ステラとフラウが楽しそうに話し始める。確かに彼が踊り出す様子は思い浮かぶんだけど、彼が屋内で踊ると相当うるさいから注意しなくちゃいけなくなっちゃうんだよね。そんな野暮な事はわざわざ言わないけれど。

 すると、そんなやり取りを聞いていたアリィが困惑した様子で僕の顔を見る。


「………あのゴーレム、踊るの?」

「まぁ、気分が良い時はそういう日もあるかな?」

「そ、そうなの………」


 釈然としないような、納得できない様子のアリィ。そんなにおかしなことかな………と一瞬だけ思ってしまったけれど、僕らが見慣れているだけで生きているゴーレムなんて他にいないのが当たり前なんだったね。


「まぁ、そのうち慣れるよ」

「………慣れって怖いわよね」

「はは、それも慣れるさ」


 彼女はロッカに少し苦手意識があるのかもしれないね。あれだけ驚いていたから仕方ないのかもしれないけれど。まぁ、ロッカは彼女が最初は置物だと勘違いする程度には普段は大人しいし、すぐに慣れてくれるだろう。ロッカを見るたびに動くか動かないかビクビクしているのを見るのはちょっと面白そうだけど。


「家の周囲にも結界は張るんだよね?」

「まぁね。余裕があれば、周辺の森にも同じような結界を用意するかもしれない」


 この辺は環境を観察しながらになって来るけどね。まぁ、とにかく時間はある程度約束されている訳だし、一つずつやるべきことをやっていこう。









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